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雉間はその沈黙を肯定と受け取り話を進める。
「一昨日の昼食後、研司さんの案内でぼくたちは浮蓮館にある家宝を見て回った。あのとき研司さんは自分の付き人に千花さんを指名して、美和さんには昼食の後片付けをさせた。けど、これって普通は逆だよね。美和さんは千花さんよりも長く能都家には仕えているんだから家宝を見て回るなら美和さんの方が絶対に詳しい。それなのに千花さんを付けた理由はただ一つ。美和さんを
つまりさ、ぼくたちが家宝を見て回っている間に美和さんは予め作られていた料理を並べて夕食の準備を済ませる。そうして余った時間で家宝を盗んだ。きっと盗んだのは『絵』から『象の黄金像』の順番だろうね。それもぼくたちが『絵』を見終わって『象の黄金像』を見ているときに『絵』を、そして『英雄刀』を見ているときに『象の黄金像』を。ローマ字の『U』の字に建てられた屋敷の形を利用して、ぼくらに出くわさないようにね。それで後は夕食時に食堂に集まったぼくらに『象の黄金像』が消えていることを伝える、と。もちろん『絵』のある一一二号室のドアには紙を貼ってからね」
一度言葉を切る。
「それから肝心の家宝を部屋から盗み出す方法だけど、これは単純。本当はどっちの家宝も部屋の中にあったんだ。
ぼくは盗まれたことにするために『絵』は額を壊して、『象の黄金像』は砕いたって言ったけど、家宝のあった部屋の床はどちらも綺麗で、壊したり砕いたりした形跡なんてそれこそなかったよ。それに、壊したり砕こうとすればそれなりの音が出る。だから美和さんは、『絵』は額に入れた状態のまま、一一二号室の絨毯の下に敷いて隠したんだ。あの部屋にあった毛先の長い絨毯なら例え踏んでも下の『絵』には気付かないだろうからね。それから二一二号室の『象の黄金像』だけど、あれはガスバーナーで熔かして部屋の床に延ばしたんだ。だってあの像の正体こそ、表面にメッキを塗ったただの大きな鉛の置物だから」
「……」
「金とメッキを見分ける一番のポイントはその輝き。だけど二一二号室の照明は薄暗くて、金かメッキかを判別するなんてまずできない。つまり部屋の照明が暗かったのは『象の黄金像』が本当は金ではなくメッキだと気付かれないようにするためだったんだ。それにあの部屋の床はアルミ張り。床が鉛に変わったところで誰も気付かないよ」
そう言って、問うように雉間は研司と美和の両方を見た。
…………。
数秒の沈黙。
そして、
「完敗です」
研司は拍手をした。
それが雉間に贈られた賛辞だと気付くのに時間はいらなかった。
「雉間様にはすべてがお見通しなんですね」
概ね自白に近いその言葉に雉間は笑った。
「あー、これでも一応名探偵だから」
「ヒントは何でした?」
そう言われて雉間は何気ない調子で一枚の紙を取り出した。それは呉須都のボストンバッグに入っていた予告状だった。
目を通すほどの間を置き、
「この予告状に書かれた言葉、『ジュウニンノイケニエ』だよ。ぼくは最初こそ、この予告状は事前に用意されたものだと思っていたけどそれは違ったんだ。
確かに浮蓮館にいた人は全員で十人。だけどこの十人って数はぼくが助手を二人も連れて来た結果なんだ。
ぼくに届いた招待状には『助手の方もご一緒に』って書いてあったけど、まさかぼくが二人も助手を連れて来るなんて誰にも予想できないよね。となると、この紙は前もって用意されたものじゃなくて、後から印刷されたものだってわかるんだ。そう、例えばアレを使ってね」
雉間の視線がすっと部屋のすみに移る。その視線の先には研司のパソコンとケーブルで繋がったプリンターがあった。型はそれほど古いものではなく動かないなんてことはまずない。研司と美和もつられてプリンターを目視する。
「まあ、これだけなら単に呉須都さんがここのプリンターを勝手に使ったとも考えられるけど、結衣ちゃんが言ってたんだ。『能都家に恨まれる人なんて誰もいない』って。だから呉須都さんなんて初めからいないし、犯人はこの部屋にいつでも出入りできる研司さんと美和さんだけになるんだよ」
「ははは、そうですか。雉間様同様、助手の方も頭脳
微笑んで言った研司の横で美和も同意とばかりに小さく頷いた。
「では……」
そして研司は挑戦するかのような、からかいをかけるような笑みで雉間を見やった。それはここに来て初めて見る表情だ。
テーブルの上で指を組む。
「それでは雉間様は私と美和さんがどうしてこんなことをしたとお思いで?」
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