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「ここだけの話。実はわたくし、未来を予知できるんです。その証拠に、今からわたくしがここにいる方々にトランプを伏せた状態でお配りします。皆様はわたくしからカードを配られた後で、それぞれトランプのマークと数字を言ってもらいます。もちろん、好きなものでもその時に思いついたものでも構いません。皆様がなんのカードを言うか、事前にお配りしたカードで当ててみせます。

 ふふっ、まぁ、仮にですが、そうですね……。もしわたくしが予言したカードと違うものを言う方がいましたら、このクルーザーをプレゼントしますね」


 冗談めかして言って、美和さんはトランプを自分だけが見えるように扇状に広げる。そうして、その中から七枚のカードを引き抜くと、一枚ずつ伏せた状態でわたしたちの前に置いた。


 今、わたしたちの目の前には伏せた状態のトランプが一枚ずつ置かれている。


「それでは広瀬様から、どうぞ好きなカードを言ってください。わたくしの予知が正しければ、それはもう目の前にありますから」


「なるほど。じゃあ……クローバーの7で」


 考えるような間を空けて広瀬さんがカードを宣言した。

 

「わかりました。クローバーの7ですね。予知の結果は最後に皆様で一斉に見ますのでまだ見ないでくださいね」


 そう口だけで忠告をする美和さん。広瀬さんがカードを宣言した後で美和さんが配られたカードに触る様子はない。


「ではお次の久良様。どうぞ好きカードを」


「ふむ。スペードのキングだ」


「わかりました」


 広瀬さんのときと同様、一度配ったカードに美和さんが触れるようなことはなかった。

 同じ手順で進む。


「次は白石様」


「ダイヤの2……いや4でしょうか」


「愛美様は?」


「じゃあ、ハートの1!」


 順々に訊き、

「それでは雨城様はどうです?」

 わたしの番が来た。


 わたしは、今頭に浮かんだカードを言った。


「ハートの9です」


「はい。それでは羽海様は?」


「じゃあ私はにしますわね」


 そう菘は当然のように言ったが、聞かれているのはトランプの好きなマークと数字。流石にそれはルール違反だ、とは思ったが、面白そうなのでわたしも、そしてみんなも黙っていた。

 それに菘の次の雉間が「じゃあ、ぼくは9かな」と言ったのだから、もはや何でもありだ。


 全員の回答が出揃い、「もしやこれは2億越えのクルーザー船を手に入れたのでは?」と思うわたしをよそに美和さんが言う。


「はい。それでは皆様カードを宣言し終えたので答え合わせをいたしましょう。どうぞ、お手元のカードをめくってください」


 美和さんの言葉に、わたしたちは目の前のカードを捲る。

 わたしの目の前に置かれたカード……。

 

 それは、わたしが適当に言ったハートの9だった。


「嘘。なんで!?」


 思わず声が出た。

 周りを見れば他の参加者も、それどころか菘のジョーカーや、わたしと同じカードを言った雉間のハートの9まで当てられていた。


 カードは先に出していたのに……。


 なんで?

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