少女布団倶楽部
川詩夕
教師を誘き寄せる為の餌にすぎなかったんだよね
私の通う中学校では、一年生の生徒は必ず一度は何かしらの部活に入部しなければいけない。
言ってみれば一つの校則な訳で。
私は幼い頃から他人と競い合う事に無関心で闘争心の欠片もなかった。
芸術的なセンスは皆無、勉学に関しても平均点を取り、日常生活において困る事がなければそれで良しとしている。
将来的に目指している職業、憧れや夢もない。
若者の誰しもが秘めているはずの熱意は完全に
入部したい部活なんてものは勿論ない訳で。
ちょっぴりませた世間知らずである事に違いない中学一年の春、一年生のクラスが並ぶ廊下で面識のない三年生の先輩から呼び止められ、部活に入部しないかと誘われた。
「少女布団倶楽部」
耳にした誰もが一度は首を
創部二年目で部員数は女子生徒五名、三年生が二名、二年生が二名、一年生の私。月曜日と水曜日と金曜日の放課後に活動している。
先輩たちはみんな正直に言って顔が可愛い、特に部長は容姿も体型も学校内では一人抜きん出ている。背が高くて、胸が大きくて、艶のある長い黒髪の美人。
この部活は少女布団倶楽部ではなく、美少女布団倶楽部と言っても過言ではない。
顧問は新婚の若い男性教師、滅多に部室へ顔を出す事がない幽霊顧問だ。
主な活動内容は布団を敷いて眠る事、ただそれだけ。
但し、一般的に使用されている布団で眠るのではなく、部員の女子生徒の身体を使用した肉布団で眠る、いわゆる少女布団。
入部後、クラスメートから少女を使用した布団で眠る事に何の意味があるのかと問われる事が多かった。
それに関して私は逆に問いたい。
中学生が入部している部活動が将来、自分対して一体どんな影響を及ぼすのか。
結局は野球なり茶道なり天体観測なりが好きなだけで、その行為をしたい、欲を満たしたいだけだと思う。
クラスメートは私に対して眠るだけの部活に入るなんて
私はただ眠りたい訳で。
そんなクラスメートと街中へ遊びに出掛けてもゆっくり過ごす事はできないし、あまり楽しいと思わない。
私だけが明らかに歳上の男性に必ず一度はナンパされ、スカウトと称した怪しい大人にモデルとして芸能活動しないかと声を掛けられる。怖い。
それに複数名いる中で私だけに声を掛けられると毎回クラスメートと気まずくなるからやめてほしい。
街中へ遊びに出掛けるよりも部室で眠る方が落ち着くし心が安らぐ。
金曜日の放課後、部活動に励むため別館の校舎にある部室へと向かった。
部室の扉を開けると三年生の部長と先輩が笑顔で迎えてくれた。
「お疲れ様」
「少女布団倶楽部のエースが来た」
どうやら私は入部して早々一年生でエースの座に着いたらしい。
「部員が全員揃うまで紅茶でも飲まない?」
「上品な部長に賛成」
「父からお土産で海外のチョコレートを貰ったの、甘過ぎるし一人じゃ食べ切れないから学校まで持ってきちゃった」
「さすが一家の大黒柱が外資系に務めてる家庭はお菓子一も風格が違う」
「いつもと同じお土産だからそんなに大したお菓子でもないと思う、お茶淹れてくるから座ってて」
私が部長に対してお茶を淹れると申し出たけれど、気にしなくて良いから座ってなさいと優しく諭された。
お湯を沸かしている間に部員が全員揃い、部長が持参した紅茶とお菓子でちょっとしたお茶会が開かれた。
「今日はみんな下着姿で眠らない?」
「下着姿? どうして?」
「下着姿だと肌と肌が直に触れて優しい温もりを感じるの」
「そうなんだ?」
「滑らかな肌に触れると凄く気持ち良いのよ」
「何それ恥ずかしいよ」
「恥ずかしさより気持ち良さが勝るの、私が保証するわ」
「部長がそこまで言うなら一度試してみようか」
先輩たちは部長の事を信頼し尊敬していた為、一年生の私は下着姿になる提案を受け入れざるおえなかった。
制服とスカートを脱ぐ先輩たちの色白な素肌が
「今日はあなたが主役よ」
部長がそう言うと二年生の先輩二人が敷布団となり、私はその上に仰向けになる形でゆっくりと寝そべった。
部長と三年生の先輩が両隣りから掛け布団となり、私の身体をそっと撫でるようにして覆い被さってくる。
少女布団の完成。
未成熟な私の肉体は少女たちの肌の温もりに包まれ、精神的な安らぎを感じて、甘い匂いに眠気を誘われた。
※
仰向けの状態で目が覚めると軽い
視線の先には全裸で汗ばんだ部長が微笑しながら私を見下ろしている。
どうして部長は下着を全部脱いでいるのだろう。
他の先輩たちは下着姿のまま口から涎を垂らして死んだように眠っている。
「あなたって本当に美しいわ」
妙な胸騒ぎを覚えた私は門限を口実に慌てて部室を後にした。
その日以来、部長は学校へは登校しているものの部活へ来る事はなかった。
先輩に部長の様子を聞いてみたけれど、体調が優れないと一点張りだそうだ。
少女布団倶楽部は創部した部長が不在となり、部員の足は徐々に部活動から遠のいていった。
九ヶ月後の冬、三年生の寒い教室の中で部長は全裸の遺体となって発見される訳で。
※
部長の遺体の第一発見者は朝早くに登校してきた三年生のクラスメートだった。
教室の黒板には少女布団倶楽部の顧問を担当している若い男性教師宛てに恨み言がびっしりと隙間のない程に書き
部長は自らの意思で着用していた制服と下着を脱ぎ捨て、窓際のカーテンレールに細いロープを結び付けて首を吊っていた。
遺体を目撃した生徒数名は部長の腹が異様に大きく膨らんでいたと証言していた。
後に三年生の先輩から知らされた事実で、部長は臨月を迎えていたそうだ。
悲惨な事に部長の腹の中にいた赤ちゃんは部長が亡くなる前に息絶えていた。
死因は腹の外部から過度に衝撃を与え続けた事による赤ちゃんの頭部の
部長は死の直前、首を
内容は少女布団倶楽部での活動を隠し撮りしたものだった。
少女布団倶楽部の五人の部員全員が下着姿で眠っている中、滅多に部室へ顔を出さない顧問を担当している若い男性教師の姿が映し出されていた。
男性教師は人目を気にするような素振りを見せ、周囲を警戒し恐る恐る下着姿で眠る部員たちの側へと近付いていく。
こともあろうか私の未成熟な身体に鼻先を近付けた後に腕や太ももを愛撫し、顔中を舌で
眠っていたはずの部長が突然むくりと上体を起こして男性教師を軽蔑の眼差しで凝視する。
驚いた男性教師は硬直状態となり、指先が微かに震えて見据えた未来に怯えているようだった。
「みんな睡眠薬でぐっすりと眠ってるから大丈夫だよ」
嘲笑を浮かべる部長はそう言った後、男性教師の耳元で何かを
その後、男性教師と部長は眠る私たちの身体の上で性行為をしていた。
部長は終始、狂ったように笑顔だった。
男性教師が部長を
SNSに投稿した一本の動画は性行為が終わった辺りで終了、部長は後に男性教師の赤ちゃんを
部長は隠し撮りしたこの動画をネット上に拡散すると言い、新婚の男性教師に今すぐ離婚するよう迫った。
男性教師は離婚する事を拒み、奥さんと共に部長の自宅を訪れ、部長の両親に泣きながら何度も土下座をして謝ったらしい。
無論、謝って済むような問題ではない。
男性教師は青少年保護育成条例違反で罰金刑を下され、教職は懲戒免職となった。
順風満帆だった新婚生活は一瞬にして潰え、男性教師の奥さんはノイローゼに
元教師となった男性は世間の人目を避けながら日雇いの仕事で生計を立て、ワンルームのボロアパートに住んでいると噂された。
部長の親友であり、少女布団倶楽部の三年生の先輩は私に要らぬ真実を教えてくれた。
「部長は一年の秋頃に教師に告って振られた。自分が振られた原因は教師が当時付き合っていた女に容姿で劣っているせいだと思ったんだ。部長は大人びてるし凄く美人だからプライドが高くてね、自分よりも、あの女よりも容姿に優れた女じゃないと教師は振り向いてくれないと思い込んだ。それから少女布団倶楽部を創部し、教師に顧問になるよう何度も何度も頼み込んだ、部活を創るには顧問の教師が必要だからね。部活で教師と一緒に過ごして
返事に戸惑っていると先輩は誰かに声を掛けられてそのままどこかへ行ってしまった。
まあ、顔が私好みだから良いかなと思って元教師の男性と週に数回会い、
犯罪者と性行為をしてみたかったし、その関係が現在進行形なら友達に自慢できそうじゃん。
それに私は部長の事が大嫌いだったから首吊って腹の中の赤ちゃんと共に死んだと知らされた時は笑いが止まらなかったな。
結果、二人死んだけど葬式代は一人だけで済んだのかなんて想像するとウケる訳で。
少女布団倶楽部 川詩夕 @kawashiyu
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