第4章 六道の一、解篇奈落(げへんならく)の戰い

第1節


 先手を取ったのは八津原だった。


【現出!!】


 別空間に格納していた武器を出す。本来ならそれだけの能力だが、思考しただけで自在に取り出す事ができ、手元で何々の武器を引き抜いて使用したいと考えただけで、手の近くに空間の入口を形成し、瞬時に取り出せるようになる。

『隠密者』のスキル。至高神の力により強化され、更なる機能まで獲得している。

 それが遠距離から攻撃したいと考えただけで、弩で撃ち出したと思える速度で射出する事。

 そして、その出し入れ等に、数や配置などの制限は一切ない。


「――――っ!」


 赤鬼を包囲するように別空間の穴が無数に開き、そこから短剣や片手剣、長剣など様々な武器が射出される。当たれば肉も骨も簡単に抉り飛ばすであろう速度で、仁王立ちする異形の青年を強襲きょうしゅうした。

 刀剣がぶつかり合うものとは思えない、強烈な炸裂音が周囲に撒き散らされる。爆薬など一切使っていない、質量に物を任せた飽和攻撃で敵を埋め尽くしていった。

 ここまでやって、しかし八津原は全くもって討伐の手応えも、勝利の実感も湧かなかった。


(ローレンティアがあんだけやられて復活してみせたんだ。もしあの鬼もそういう能力を持ってるとしたら、これで倒せるかどうか……!!)


 粉塵ふんじんが晴れて、その中にいるであろう敵の姿が段々と露わになっていく。せめて動きを鈍らせる程度のダメージは負わせられただろうか、などと考えていたのだが、最悪の形で予想が覆された。


 無傷だった。


 灰銀髪の悪魔と同じ、異常な再生能力を発揮したのかと思ったが、違う。彼のたたずむ場所から半径一、二メートル程、飛ばした刀剣が刺さっていない。その周りには、刀身も柄も破砕された残骸が散らばっている。

 一歩も動かなかった赤鬼の両手には、先端の鉤爪から数メートル部分がが二本、握られている。

 叩き砕いたのだ。あの大量の刀剣を、二本の、黒々とした鋼鉄を束ねた縄を使って、高速で振り回して弾き切ったのだ。


「攻め方が煩雑はんざつだな。この程度では俺は止まらんぞ」

「ああ、そうかよ!!」


 言い終わるや否や再び飽和攻撃を行う。格納している剣は、騎士団から譲ってもらった量産された武具だ。こうした遠距離攻撃や、近接戦闘でも手数と物量で圧倒する為に大量に保管してある。

 しかし、


わずらわしい」


 右手で鋼索を振るい、飛来する刀剣数本を絡め取ると、勢いを乗せて八津原に向けて投げ返してきた。咄嗟に持っている剣と新たに射出した長剣をぶつけて弾くと、刀身の軌跡に隠れる形で蓋羅が瞬く間に接近していた。


「ヤツハラ殿!!!!」


【閃撃!!】


 拳が迫る寸前、メイが振るう剣撃によって防がれる。メリケンサックのように鋼索を巻きつけた拳とぶつかり、甲高い打突音を唸らせてお互いに弾き飛ばしてみせる。

 視線だけを向けると、神坂の傍にミシェラを預けて飛び出してきていた。彼女の魔術ならば、結界から妨害、回復などの魔術も一級品。その気になれば雷電を操る大規模魔術まで発現できるので、一番安全と判断したのだろう。

 すかさずもう一撃を見舞おうとするメイだったが、赤い異形の青年は回避も防御もせずに武器を投げ捨て、両手を二人に翳した。


 ――五色ごしき蓋眼がいがんりょく惛沈こんじん――


 掌に描かれた目のような紋様が緑色に光り、途端に壮絶な眠気と倦怠感に襲われる。メイも同じく壮絶な脱力感に襲われ、剣の振り抜きに身体が蹌踉めいて死に体になってしまう。不味いと思考する頃には、両者の眼前に血のような色の拳骨が迫っていた。


【オールリフレクション!!】


 ミシェラの傍で結界を張っていた神坂が杖を振り、七色に輝く正六角形の連なる壁を形成させる。赤鬼の拳を難なく防いだ上で、触れた瞬間に閃光が走り、殴打した彼の腕をその倍の力で跳ね返してしまった。

 衝撃に耐えられずに後方へ吹き飛ばされるが、宙返りで体勢を整え、器用に着地して見せる。跳ね返され粉砕骨折した両腕も、着地する時には全快していた。


「マジでローレンティアちゃんと同じなんだ……。無茶苦茶すぎるでしょ……!!」

「すまねぇ神坂、助かった……!!」

「いいってことよ!!」


 更に空中で光の線を作り、魔法陣をいくつも描いていく。魔力を練り、杖の先から絵筆を振るように操り、あらゆる現象を生み出していく。


 ――五色ごしき蓋眼がいがんおう掉挙じょうこ――


「させない!!」


【レジストウォール!!】

【フルネスクリア!!】


 形成した魔法陣を数枚重ねて展開し、八津原とメイを包み込む。黄色の眼光を浴びたが、神坂からかけられた魔術によって先程の倦怠感と合わせて、身体が回復していくのが分かった。


「もうそっちの妙なデバフは効かないよ!!」

「……やはり防がれるか。転移転生者の珍妙な権能は厄介な事この上ない……」


 そう言って向けていた掌を袖の下へ入れ、そこから棘の付いた棍棒を抜き取る。地面を抉る勢いで踏み込むと、一気に間合いを詰めて鋼鉄の塊を振り上げた。

 その一撃は剣を振るう少年達ではなく、杖を構える神坂の後ろにいる金髪の令嬢を捉えていた。


【オールリフレクション・アイギスウォール!!!!】


 先程展開したものから更に強化し、数倍の強度の結界で応戦しようとする。

 しかし、透過する神坂達の姿がズレた位置に見える程の重厚となった結界を見ても尚、赤肌の鬼は両手で一層握り締め、振りかぶる棍棒に渾身の力を込める。

 嫌な予感を察知した八津原とメイが割って入り、棍棒ごと蓋羅を斬り捨てようとした。


月影げつえい穹斬きゅうざん!!!!】

【ライト・オブ・グレイブ!!!!】


 八津原の剣が黄金に光り、銀色に輝く刃に追従する形で棍棒と衝突する。

 ただのつるぎを、あらゆる宝剣、聖剣、魔剣に相当する剣へと昇華させる、『剣聖』の称号のスキル。黒髪の女傑が受け継いだ初代勇者の剣技と合わせて、無骨な鈍器を容赦なく両断しようとした……筈だった。


「――――っ!!!!」


 刀身が食い込んだ瞬間、振り下ろしていた筈の棍棒を

 馬鹿力としか形容できない、圧倒的膂力りょりょく。咄嗟に引き抜いたメイとは違い、引っ張られた勢いで刀身が砕き折られてしまう。

 そして、間髪を容れずにだった。


 突きの一撃。


 赤鬼の眼前がんぜん、数百メートルに及ぶ一切合切が、粉微塵となって抉り飛ばされてしまった。

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