異世界転移/転生は終了しました
神群俊輔
序章
転移/転生終了のお知らせ
いつの間にか、彼ら彼女らは
皆その世界の人類の危機に、勇者として否応なく巻き込まれてしまう。
人類は存亡の危機にある。この大義名分の元、王国クレイテスラを筆頭に、世界中の人々が魔王という共通の敵を討滅すべく一致団結していた。
不朽不滅と称される魔王を倒せるのは、異世界から召喚された『勇者』のみ。神からの啓示を頼りにその勇者を異世界から呼び出し、いよいよもって人類の仇敵を討つ時が来たと、誰もが息巻いていた。
「…………!!」
その彼ら彼女らにとって一年あまりも経過した今この時。
勇者の一人である少年は、目の前の光景に困惑する。
味方の筈の王国兵士達が自分達を囲み、一斉に刃を向けてきたからではない。共に窮地を脱し、慣れない生活の中で心の支えになってくれた者や、剣と魔法というおよそ元の世界では未経験な技術と力の鍛錬に手を貸してくれた者が敵となってしまった瞬間に苦心していたからではない。
「あれぇ? 異世界人は揃いも揃ってザコばっか。こりゃ予想より仕事楽そうかも」
空から黒い何かが落ちてきた。
その黒い何かが彼と、隣にいる仲間一人を残して、兵士達が全員倒れていく。
眼前の光景を始終凝視していた筈なのに、何をしたのか一切理解できなかった。単に昏倒させられたのか、それとも命を奪われたのか判別できないでいると、その黒い何かが話しかけてきた。
「とりあえずこの子たち連れて、ガイラくんと合流しないとね」
人の姿、陽光を吸い取るような黒一色の、葬儀用の喪服にも、異性を魅了するネグリジェにも見えるドレスを着ている、灰色の混ざる銀髪の女の子だった。
「やっほー。ルイ・ヤツハラくんとー、ミオリ・コーサカちゃん、でいいのかな?」
自身と隣にいるもう一人を指差す黒い何かからの問いに、答えようと口を開くが言葉に詰まってしまう。姿を正しく認識できている筈なのに、目の前の灰銀髪の少女が『得体の知れない何か』と思えてならない。応答次第で、こちらの命を奪ってしまうのでは、と考えてしまい、言い知れぬ恐怖に喉も肺も縮んでしまう。
「ああ、答えなくていいよ、どうせコレ使えばわかっちゃうし」
というわけで、と灰銀髪の少女は無意識に粘ついた邪気と威圧感を放ちながら言葉を続けた。
「私はローレンティア。君たちを今から元の世界へ送還しまーす。拒否権とかないからそのつもりであしからず、ね☆」
――――
同時刻――。
異世界人を召喚した張本人である王族、金髪の姫――ミシェラと直属の従士が、彼らと同様に命を狙われていた最中だった。
空から赤い何かが降ってきた瞬間、彼女達を囲んでいた敵達は次々に地へ伏し、一斉に沈黙してしまう。
「……、」
赤い何かは今し方倒れた者達を一瞥すると、その鋭い双眸をミシェラへと向ける。
身体よりも縦横の幅がある袖や裾の服を、布状のベルト(?)で縛って留めている、ミシェラの見知らぬ装束を着た青年だった。草茂る地面を踏みつける足には、親指と他四本指を包むような構造の白地の履き物に、更に枯れ草色の藁を紐状にして編み込んだ、これもミシェラにとって初見の代物を二重に履いている。しかし、それらの出立ちの異様さなど既に霞んでしまっていた。
その短い黒髪を生やす頭部には二本の角、血のように真っ赤な肌、金色の瞳はまさしく猛虎のそれだった。服装云々以前に、どう見ても人間ではなかった。
「……ローレンティアの方は間に合っただろうか。こちらは……、念の為に合流後、鏡を用いて確認してからが良かろう」
何かを呟く赤い青年がミシェラへと近づく。藁の履き物と地面の擦れる音で、青年の異様さと共に不気味に増していく。
従士がミシェラを守るように立ち塞がるが、彼女達の数歩手前で止まり、鋭さをいくらか緩めた目を向けてきた。
「貴様は、ミシェラ・マルデューク・クレイテスラで相違ないか?」
何故自身の名前を、という疑問も早々に、こちらの事情も配慮も一切しないと言いたげに言葉を続けた。
「汝らが召喚した人間達を我らの現世へ帰還させる為、地獄……汝らにとっての異世界より派遣された」
「…………は?」
「これは要求でも交渉でもない。汝らが拉致した我らの世界の人間、その一切を返してもらおう。例外は認めぬ」
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