20XX年 12月17日 タイトル『道中』

 バベルの電波塔を目指して一日。

 わたしは日記を振り返ってようやく事態を知った。

 毎日、日記を読み返すクセがあって良かった。

 そうでなければ昨日の自分の言葉が消えていただろう。

 すべての悪感情を抑止する。

 それがどれほど危険なことか。

 恐らく偶発的遺伝子改変――AGMの能力を応用したものだろうけど。

 そんなことをしても、人は幸せになれなかった。

 常にスキアの恐怖があり、わたしたちは戦わねばならなかった。

 毎日午前零時になると、修正の光が世界を包む。

 そして全てなかったことになる。

 わたしたちは刹那的な幸せを享受する。

 本当に幸せなの?

 わたしは自分の悪感情も捨てたくない。

 生きるためにあるのだ。

 悪いことばかりではない。それも分かっている。

 現に死者は減っているし、人同士の戦争もない。

 でも本当にそれが、それだけが幸せと言えるのだろうか?

 わたしたちは刹那的な時間を過ごしている。

 生きている。

 永遠につながる道を。

 悲しいこと。辛いことがなければ、人は前に進めない。

 人と分かち合うこともできない。

 悪感情のすべてが間違っているわけじゃない。

 歌が流れてくる。

 歌が。

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