魔王の幸せだった日々
「奴隷くん、疲れたろ? 少し休んで私とお茶でもしないかい?」
「ありがとうございます。ですが、後少しでキリがいいところまで作業が終わりますので、後ほどお付き合いします!」
「うん、待ってる!」
私は、奴隷という身分は変わらない。されど、魔女様達に提案する事を許された。そして、土木作業に関して効率化を図る為、道具の見直し、人員の再編、年配や若年の奴隷には食事係を分担するように提案、料理は引きこもり時代にチャーハンくらいしか作った事はないが、この場所の淡白な味付けよりはマシな物を少しずつ開発し、食事の質が上がる事で、奴隷達の不満が少し減ったように思える。そして同じ物を食べている魔女様達からは。
「奴隷くん、この前の豆と肉の煮込み物は次はいつだい?」
「ええっと、献立的には四日後ですね! 楽しみにしててください。また味付けを変えますので」
奴隷という者に権利は存在しないかに思えたが、よく働く奴隷に食事量を多く与えていたり、魔女様達はある程度の裁量を元々持っていた。よって、私は魔女様達にさらなる提案を行った。
「他奴隷に休みを与えて欲しい? 本気で言っているのかい?」
私は私が生まれた国の戦後に行われた週休二日制を提案してみた。すると、魔女様から。
「ふむ、確かに休息は大事だね。だが、五日働いて二日休みより、三日働いて一日休みの方がよくないかい?」
「確かに……盲点でした」
「奴隷くんに一本取ったぁ!」
それを他奴隷のみなさんに告知しにいくと、めちゃくちゃ喜ばれた。お前は凄い奴だ。ありがとう。ありがとうと。嬉しかった。誰かの為に働く事がこんなにも嬉しいなんて思いもしなかった。
そんな休みの日の私達、大抵お菓子を作ったり、お酒を飲んだり、1日寝て過ごす事もあったが私の場合は勝手が違う。
「どれーいくん」
「魔女様、どうしたんですか?」
「どっか遊びに行こーよー」
「待て待て、奴隷くんは私と遊ぶ事になっているんだ。察したまえ」
奴隷生活で痩せたとはいえ、私の見た目はお世辞にも残念な姿をしている。なのに、魔女様達に……私はどうやらモテているらしい。最初は冗談かと思ったが、魔女様達の私を見る表情から嘘ではないらしい。ありがたい事である。異性とお近づきになれただけでも奇跡のような事なのに、こうして好意を持ってもらえるというのはなんとも切ない気持ちになる。
「魔女様達は、ここに国をお造りになりたいんですよね?」
魔女様達の目的を以前、私はお聞きした。魔女様達はその人ならざる容姿と特殊な力を持つ事で人間達から迫害された。追いやられ追いやられ、最果ての枯れた土地へ、人間達を奴隷にしながらここを開拓し、魔女の国を作ろうとされている。
「そうだよ。それももうすぐ完終する。全ては奴隷くん、君のおかげだ。国を作った暁には君を奴隷から解放し」
「やめてください! 私は、奴隷がいいです。貴女達の魔女様達の永遠の奴隷として人生を終えたいのです。最高の国を作りましょう。誰もが羨む、魔女様達のような美しい国を、その礎となれる事が私の誇りです」
「そうかい……頼んだよ」
「お任せください!」
国作りが進む事に奴隷達の扱いがどんどん向上し、個々の部屋を与えられるようになり、専門技術を持つ者には一定の権利も与えられた。いつの間にか奴隷達は不満不平を言う事もなく、魔女様達の国作りを一丸となって進める事になる。
そして、魔女様達の国が完成を目前とした時、魔女様達は奴隷達を集め、労いの言葉を述べ、元の国や帰るべき場所がある者には多くの財物と食料を与え、解放する事を伝え、帰るべき場所がない者は魔女の国の国民として受け入れる事を伝えた。
それには、奴隷達の歓声は、数時間に渡り止まなかった。最初は魔女様を恨んでいた奴隷達も今となっては人生の残り時間で稼ぎきる事ができない程の手土産を持って元の場所に戻れる事。過酷だったが、高給の出稼ぎとして感謝の意を述べて帰っていく。
私は、一つの幸福の完成形を目の当たりにしているのだと……そう思っていたのだ。
だが人間という悍ましい者を信じてはいけなかった。
奴隷達を解放してはいけなかったのだ。その時は、私も魔女様達も誰もそんな事を考えなかったのだ。
世界は優しさで満ちている。優しさには優しさで帰ってくるものだと、私は居心地の良すぎた奴隷生活の中で、かつて学生という存在であった時に行われた地獄のような日々を忘れていた。
浮かれあがり、普段一滴も飲まないお酒を魔女様や他の奴隷達と飲み合って、魔女の国・建国を祝い。
これからの事を少年のように夢物語を語っていた。
それは同時に、私が夢から覚める最後通告だったというのにも関わらず。建国後、すぐに幾つかの他国から無条件で国を受け渡すように使者がもたらされた。
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