魔王が生まれた理由・人として扱われた奴隷と魔女狩りの夜
アヌビス兄さん
魔王の判断
「魔王様、デニス王国の支配が完了いたしました。王国の英雄とかいう連中も大した事なかったですね? 捕虜達はどうしますか? 労働力に火山地帯にでも送りましょうか?」
「人間の国だったな?」
「えぇ、そりゃもちろん。そういえば亜人種の奴隷がいましたな」
「亜人は生かして奴隷に、その他人間は女子供も全て処刑しろ。直々に私が宣告しに参る」
配下である魔物達の表情に戸惑いを感じる。
無抵抗な人間を殺す事を躊躇しているんだろう。
愚かなぁ! 実に愚かの極み。
「虫は一匹いれば三十匹に湧く、が虫は天然自然の円環の為に存在している。しかし人間はどうか? あれは気がつけば子を作り、害虫よりも増え、街を作り、国を作り、そして支配を作る。害虫すらも可愛く思えるほどの害悪だ? 違うか?」
「で、ですが、魔王様。魔王様もまたにんげ……あぁう」
「あ?」
「ま、魔王様お許しぉ……」
私が人間? 私が? あまりの怒りに腹心を殺してしまったじゃないか……
「何者か、この者をアンデットとして修復を、そして2度と私の事を人間などという悍ましい種族と言うな。そう! 私は魔女様達の国の生き残り。かつて、魔女様達の奴隷として、命として扱って頂いた者。あの赤い月夜の日から全ての人間を滅ぼさんと、魔導に堕ち貴様ら魔の物を率いる王だ。分かったか? 黙って人間共を処刑する準備を始めろ」
「「はっ! ただいま、すぐに!」」
殺し、殺し、殺しても、潰し、潰し、潰しても何故人間は湧いてくるんだ? 存在してはいけなかった、生まれてきてはいけなかった者が人間だというのに。あぁ、耳障りだ。
助けを求める母子、神に祈りを捧げる老人、そして無意味にも争ったデニス王国の王族、貴族、数える程にしか生き残らなかった軍人達。
これは裁きでもなんでもない、虐殺という言葉すら連中には勿体無い、人間という存在自体が歪な化物狩りだ。
私が姿を現すと、助けてだとか、子供だけはだとか、私の理解できる言葉でぎゃあぎゃあと叫ぶ、実におぞましい。
なんなのだあの生き物共は?
「デニス王国の人間共につぐ、私が魔王だ。永世中立を掲げ、豊穣なる大地を持ち、国中の人間に笑顔が絶えず、王は慕われ、人間同士の世界から戦争を無くす事を提言。豊かな国は各国との国交関係も良く、一部では楽園と言われている。違いないか? デニス王国、国王よ」
私の前に罪人の如く立たされた王は背筋を伸ばし、この状況においても凛として答えた。
「それが我が国の誇り、だから我が国を襲ったのか?」
「そうだ。お前の国は一番存在してはならない。この世界で最も嫌悪すべき国のあり方だ」
「正義を、愛を知らぬか魔王。嘆かわしい。確かに我が国は貴様によって滅ぶだろう。だが、いつか人間は、人間の持つ強大な力はお前の喉元を食い破る! 光が、愛が、友情が必ず魔物共を滅ぼすだろう! 我と我が国の愛しい子らは天国よりお前のその苦しみ滅ぶ日を待っている」
「言いたい事はそれだけか? 私が理解できる言葉で愛を語り、歪んだ正しい義を語る悍ましい者よ。ならなぜ貴様らの国には亜人の奴隷がいる? なぜ貴様らは住処ではない場所で魔物を狩る? そして何故貴様らは世界の統治者たらんとする? そんな事はもうどうでもいい。何故、魔女様達を焼き払った?」
「魔王、何を言っている?」
「それが愛か? それが光か? ならば私は闇でいい、邪悪でいい。私がお前達、愛と光を駆逐する。この悍ましい人間共に油を撒いて火にかけろ!」
デニス王国崩壊とその人間二万人の処刑は世界に私が……魔王が人類に対する災禍の根源であると認定された瞬間となった。
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