『聖徒会へようこそ!』

@s_koshimizu

第1話 入部! Part A

「と、いうわけで――」


一体、冒頭からこの幼馴染の女子高生は何を言っているのだろう。たぶん美形のルックス、なかなかに良いスタイル、アイドル顔負けの耳に心地よい透明感ある声。これだけの「美少女」キャラが俺に熱い視線(笑)を送っているとすれば、ふつうの男子高校生の日常としては幸福以外の何物でもなかろう。


しかし、読者諸君、「幸福」とは物事の一面のみによって決まらず。現在の俺は、両方の手首を鎖で繋がれ、胴体を拘束具でもって電気椅子に固定され、目の前の幼馴染――玉串 斎たまぐし いつきにその電源ボタンのリモコンを握られているとしたら、まったく幸福でないことがお分かりいただけると思う。

「熱い視線(笑)」と申したのは他でもない、この女が悪魔に魂を売ったサイコのごとき目をしているからだ。説明おわり。


「と、いうわけで、ひじり。あんた、入部しなさい」


斎が説明を省くのは毎度のことである。保険とかよくある「重要事項説明書」なんてものを、こいつは知らないに違いない。


「入部って、どこにだよ。てか、人をいきなり拉致りやがって。この極道の極致みたいなシチュエーションはなんだ」


得意満面に電源ボタンを見せつける斎。楽しそうに扱うんじゃあない。


「あら、『極道』ってのはもともと仏教語よ。仏様の道を極めた人間って意味」


こっちが求めていない薀蓄うんちくをひけらかすのも毎度のこと。


「カレシとしての失態ね。十歳のころから私のこと知ってるくせに、私が羽林うりん高校でどこに所属してるか把握してなかったの?」


ちょっと待ってくれ。


「斎、よく聞け。ツッコミどころは三つだ」


一、まず、俺は玉串斎のカレシではない。


二、俺が羽林高校に転入してきたのはつい三日前の九月一日である。


三、斎と知り合ったのは十歳のときだが、翌年に俺は両親の都合で東京に引っ越した。よって、十六歳の今日に至るまでの玉串斎を俺は知らない。


「この厳しい条件下、お前が高校で何をしてるのか、どこに所属しているか、なぜ現在サイコじみた遊びに興じているかが分かると思うか?」


「分かるわ。あんたは一上 聖いちのかみ ひじりだもの」


まったく、人をドキッとさせる言葉を使うんじゃない。やはりこいつは変なところで鋭い。幼馴染の腐れ縁がなせる技か。それとも県内有数の神社で生まれ育った由縁だろうか。


はいはい、降参だ。お前に拉致・連行されたときから薄々気づいていたさ。


「要するに生徒会だろう? 後期メンバー集めに困って、こうして扱いやすい俺を強制勧誘しているってところか。俺がいた前の学校でも、生徒会役員の募集には相当に苦労してみたいだからな」


そう、ここは羽林高校のなかでも特に「秘境」とされる空間――教師以外はほぼ足を踏み入れない生徒指導室の、さらにまた奥に位置する部屋。漆黒の暗幕に閉ざされた「生徒会室」である。


斎は、完熟トマトカラーのブレザーを翻してガッツポーズをした。


「ピンポーン! といきたいところだけど、残念。惜しいわね。羽林高校の生徒会執行部は、ただの生徒会じゃないの」


ただの生徒会とは何ぞやと問いたいが、我慢しよう。


「生徒会じゃなくて、聖なる徒と書いて『聖徒会』! しかも嫌々させられる面倒な組織じゃなくて、ここは生徒が主体的に参加する部活動なのよ!」


熱のこもった声で斎は力強く宣言した。やっぱりよく分からん。くりかえし申し訳ないが、斎が説明を省くのは毎度の(以下略)だ。


……が、まあ、久々に会った幼馴染が相変わらず元気なのはいいことだ。心が和む。俺は、斎の言ったことを頭のなかで反芻してみた。


生徒会じゃなくて「聖徒会」。主体的に参加する部活動。だから斎は、開口一番に「入部」っていったのか。


へえ、おもしろそうじゃねえか。この意味不明なシチュエーションを、どうしようもなく面白がっている自分がいる。因果なもんだ。


その「聖徒会」がどんな活動をしているのか、ちょっとは真面目に話を聞いてもいい。内容によっては、すこし協力するくらいのことはしてやろう。一応、大事な腐れ縁だからな。


だが、その前に重要なことがひとつ――。早く俺を、この禍々しい電気椅子から出してくれ!


(たぶんつづく!)

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