今川義元から無慈悲な要求をされた戸田康光。よくよく聞いてみると悪い話では無い。ならばこれを活かし、少しだけ歴史を動かして見せます。主人公は戸田忠次。
俣彦
第0話プロローグ
とある旧家。そこに
『門外不出』
と認められた巻物が。
ある日。暇を持て余したその家の少年が手に取るものの……
「何が書いてあるのかわからない。」
と、元あった場所に戻そうとした。その時……。
「坊主。」
と問い掛ける声が。
少年「誰!?」
周囲を見渡すも人影は無し。
(疲れているのかな?)
と子供用の目薬をさそうとする少年を制するように。
「何と書かれているのか教えてやろうか?」
の声が。
少年「別に。」
「まぁ聞け。」
と諭す声の主。
少年「何処に居る?」
「お前の脳に語り掛けているんだよ。」
少年「へぇ。」
「……それで納得するのか?」
少年「面倒何で。ところで誰?」
「私はお前の御先祖様だよ。」
少年「ふ~~~ん。で何の用?」
「巻物に書かれている文字。気になるだろ?」
少年「別に。」
「……聞いてくれないかな?」
少年「良いけど。手短に。」
「……わかった。最初の所だけ教えてやろう。」
少年「『門外不出』はわかっているよ。」
「いや。そこでは無い。大事なのは巻物の最初に書かれている言葉なんだ。」
少年「何て書いてあるの?」
「聞いてくれるのか?」
少年「興味は無いけど。」
「……わかった。巻物の最初に書かれている文字。それは……。」
『私は徳川家康を尾張に売り払ってはいない。』
少年「えっ!噓でしょ!?」
「いや。本当だ。」
少年「でもその事で……。」
「我が子孫が世間から謗られている事。重々承知している。枕に必ず
『将軍様を売り払った一族にも関わらず。』
とな……。しかしあれは嘘何だよ。」
少年「えっ!何でそれが本当の事になってしまっているの?御先祖様が何かしくじったの?」
「……しくじっていないと言い切る事は出来ない。」
少年「ほら。」
「良く聞け。私はしくじった。それは認める。ただ徳川家康を尾張に売ったり等はしていない。」
少年「小学生を対象にした歴史漫画には必ず登場するエピソードだよ。それが出るたびにクラスメイトの視線が……。」
「こうなってしまったのには理由があるんだよ。それを今日。坊主に伝えようと、ここに来たんだよ。」
少年「……わかった。ところで。」
「どうした?」
少年「おじさん。名前は何て言うの?」
「私か。私の名前は……。」
『戸田康光』
少年「えっ!?戸田康光って!」
戸田康光「そう。徳川家康を尾張の織田信秀に売り払ったと言われている張本人だよ。ただ1つ言っておく。それは事実では無い。おじさんの話。聞いてくれるか?」
戸田康光「うちと徳川ないし松平は長年同盟関係にあった。」
少年「それで家康の駿河移送を頼まれたのでしょう?」
戸田康光「まぁ待て。うちと松平が繋がりを持つ切っ掛けとなったのが額田郡。地図あるか?」
少年「これで良い?」
戸田康光「愛知県がわかるページはあるか?善し。愛知県の真ん中に岡崎市があるだろ?そこは昔、額田郡と言われていてな。そこに暮らす人達が幕府や守護の言う事を聞かなかった事があって。その首謀者を取り締まる役目をうちと松平が担い、見事役目を果たすに至った。その額田郡での影響力を高める事になったのが松平家であった。」
少年「それに対しうちは?」
戸田康光「額田郡から離れる事になった。」
少年「額田を失った事による憎しみが家康を尾張に……。」
戸田康光「そうでは無い。正しくは、家康を尾張に売り払ってはいない。」
少年「動機にはなりますね。」
戸田康光「……うちが興った場所はわかるか?」
少年「右にある半島の付け根。田原でしょ?」
戸田康光「そうではない。うちのスタート地点は……。」
愛知県名古屋市中川区。
戸田康光「今は埋め立てられてしまったが、当時は海に面していた。それ故うちは舟を用いての活動を得意としていた。理想は熱田や津島であるが、そこは織田の土地。とてもでは無いが手に入れる事は出来ない。そこで目を付けたのが知多半島。そして……。」
渥美半島。
戸田康光「当時、渥美半島は神宮領。そこを守っていた守護代家に衰えが見え、治安が良くない不安定な状況にあった。そこで暮らす人々の安全を確保するべく一肌脱いだのが、私の曽祖父である宗光であった。」
少年「喜ばれたのですね?」
戸田康光「そこで暮らす方々には喜んでいただいた。ただ……。」
少年「どうしたの?」
戸田康光「神宮の方々がどう思っていたか……。」
少年「何かあったの?」
戸田康光「一禰宜。神宮のトップの方ね。その方から
『本来納められるはずの年貢がまだ届いていません。現物が難しいのであれば、金銭でも構いません。寄付と言う選択肢もあります。至急お願い申し上げます。』
と言った内容のものが送付された事が……一度や二度では無かった。と聞いている。」
少年「横領?」
戸田康光「たださっきも言ったように民には喜ばれた。その証拠にうちの版図は……。」
今の田原市全域と朝倉川以南の豊橋市の大半。そして……。
戸田康光「国を越え、遠江にも及ぶ事になった。そのほとんどが神宮領。」
少年「うちの御先祖様は悪い人だったのですね……。」
戸田康光「……いや。」
そう言う時代だったんです。
戸田は知多半島を経由し渥美半島。松平は西三河にそれぞれ勢力を拡大。両者の利害がぶつかり合う事は無かったのでありましたが……。
戸田康光「徳川家康の祖父にあたる松平清康が東三河に進出して来た。」
少年「戦いになったの?」
戸田康光「いや。私が彼と戦う事にはならなかった。」
少年「昔の関係が生きたの?」
戸田康光「そうでは無い。正直……。」
勝てる相手では無かった。
戸田康光「朝倉川とその朝倉側と合流する豊川の北に勢力を誇り、うちと対立関係にあった牧野氏と清康が激突。そこでの清康の戦いぶりを見て従う事にした。幸い清康は私の申し出を受諾。権益を維持する事に成功している。」
少年「でも従ったとなると、その後理不尽な要求をされたのでは?」
戸田康光「いや。そうはならなかった。理由の1つは彼の視線が西の尾張に注がれたから。そしてもう1つの理由が……。」
松平清康が家臣の勘違いにより討たれたから。
戸田康光「その時、清康は25歳。嫡男となる男子はいたが、まだ10歳。西三河の大半と東三河にも進出した一族を束ねる事など出来ない。親戚と言う親戚が
『今が権益拡大の好機。』
と考え行動した結果。その男子は国を追われ、伊勢に逃げなければならなくなった。まぁうちとしては幸いしたとも言えるのではあるのだが……。」
少年「どうして?」
戸田康光「朝倉川と豊川の南は基本うちの。正しくは神宮の権益なのであったのだが、その中にあって一ヶ所。どうする事も出来なかった場所があった。それが……。」
今橋城。
戸田康光「今川氏親の要請を受けた今の愛知県豊川市に勢力を誇った牧野古白が築城したこの城。その後、今川氏を経て再び牧野氏が押さえていたこの城がどうしようもなく邪魔な存在であった。その今橋城を……。」
松平清康は落としてくれた。
戸田康光「その数年後に彼はこの世を去り、松平は西三河で内輪揉め。その間隙を縫って牧野が三度支配するも、牧野は清康とのいくさで疲弊。私はこの機会を狙い城を攻撃。見事奪取に成功したのであった。」
少年「火事場泥棒?」
戸田康光「う~~~ん。ちょっと違いかな?それに私は……。」
一応御先祖様。
戸田康光「使う言葉には注意した方が良いかもしれないよ?」
少年「でも御先祖様のせいでうちの家族は世間から白い目で見られているんだよ?」
戸田康光「……悪かった。それに坊主の言う通り……火事場泥棒だったのかもしれないな……。」
少年「どうしたの?」
戸田康光「私が今橋城を手に入れてしまったがために……厄介な人物を引き入れる事になってしまったのだから……。」
戸田康光が言う厄介な人物。それは……。
戸田康光「うちは私以前に一度大きな挫折を経験している。その原因となったのが今の静岡県に勢力を誇っていた今川氏による三河進出。ただその時うちは今川方を選択。牧野氏の勢力を削ぐ事に成功したのだが、今川は松平との戦いに敗れ三河から撤退。この時うちは今川との間で問題が発生していた。遠江における利権についてである。神宮領については問題無かったのだが、その周辺の寺と揉め。今川から待ったを掛けられる事態となった。これに不満を覚えた私の祖父憲光は、今川が三河に残した拠点船形山を攻撃した事が……。」
少年「今川の逆鱗に触れた?」
戸田康光「今川の部隊は田原にまで進軍。降伏を余儀なくされる事に相成った。ただ幸いにして今川が代替わり。政策が内向きになった事に加え、更にその次を決めるにあたり今川家が分裂。東三河に目を向けられる事は無かった。」
少年「好き勝手やりたい放題?」
戸田康光「ちょっとやり過ぎてしまったかもしれないな……。」
少年「と言うと?」
戸田康光「川向うの牧野が今川に救援を要請したんだよ。」
少年「でも今川は?」
戸田康光「後継者争いが決着し、氏親の息子義元が跡を継ぐ事になった。加えて長年対立していた甲斐の武田と相模の北条と和睦。北と東の脅威が無くなった義元の目は自然と……。」
少年「三河に向けられる事になった?」
戸田康光「三河は義元の父氏親が所望した場所。是が非でも。の思いがあったのかもしれない。そんな今川の状況を察知した牧野が今川を頼りにした。これだけでは無い。三河を追われ、伊勢に逃げていた清康の息子と家臣が今川義元に救援を依頼。今川の後援を得た清康の息子は岡崎に復帰。とは言え彼の基盤は脆い。独力でやっていく事は難しい。となると……。」
少年「清康の息子を支えるため、今川は東三河を越え。西三河にまで兵を動かさなければならなくなった。その通り道にある牧野も今川を頼って来た。義元が三河に進出する環境が整った。」
戸田康光「坊主の言う通りだ。私は難しい選択を迫られる事になった。
『今橋城を返すか?戦うか?』
ただ義元の考えはそれだけでは無かった。」
少年「と言うと?」
戸田康光「清康の息子を岡崎に戻す事には成功したが、清康の息子に西三河を束ねるだけの力は無い。今川は過去。松平に敗れた苦い記憶がある。独力では不安がある。加えて東三河の基盤も無い。協力者が必要だ。誰を選んだと思う?」
少年「……。」
戸田康光「今川義元が三河進出の協力者に選んだ人物。それは……。」
織田信秀。
少年「えっ!今川義元が織田信秀と結託して三河を?」
戸田康光「うむ。」
少年「でも日本の歴史漫画には……。」
戸田康光「清州から織田信秀が。駿府から今川義元が大きな顔をして刀を突き出し、間で小さくなっている岡崎の松平広忠に対し、
『俺の味方になれ。』
としているあの絵だろ。まぁ確かにこの漫画の通りになった時期があるのは否定しない。ただこの時では無い。その連携にうちも巻き込まれる事になってしまった。その時、うちは松平の当主広忠と縁戚を結んでいた。広忠は再婚。何故再婚になったのか?と言うと……。」
少年「家康の母の実家水野氏が織田家に鞍替えしたから。」
戸田康光「その通り。で、1つ気になる事は無いか?」
少年「?」
戸田康光「何故松平広忠とうちから嫁を取ったのか?を。」
少年「……。」
戸田康光「この縁談を取り持った人物がいるんだよ。誰だと思う?」
少年「……。」
戸田康光「その人物の名は……。」
今川義元。
少年「そうなの?」
戸田康光「松平は今川の庇護下にある。故に広忠が婚姻を結ぶには義元の許可が要る。つまりうちと今川の関係は悪く無かった。むしろ良好なものであった。故に牧野が今川に何か言って来たとしても、落し所を探る事は可能な状況にあった。」
少年「でもその今川と……。」
戸田康光「戦う事になってしまった。」
少年「何故?」
戸田康光「その鍵を握るのが水野信元。奴は知多半島への進出を考えていた。その知多半島の東部。三河湾沿いはうちの権益。うちは今川と良好な関係にある。このままでは手を出す事は出来ない。そこに目を付けたのが織田信秀。水野の権益と織田の権益は西隣。水野の東、松平は頼りにならない。その松平は今川陣営であり、水野が狙う知多半島も今川陣営。今後の発展を考えた場合、何処に付くのが得なのか?を考えた結果が。」
自分の妹とその旦那を棄て織田陣営に加入。
戸田康光「話はこれで終わらない。うちと松平に敵対している勢力は他にもある。そう。牧野氏である。水野と牧野が連携。水野は織田陣営にあり、牧野は今川陣営であったため……。」
少年「今川と織田が連携する事になってしまった。松平が今川側に立っているにも関わらず。」
戸田康光「尤も今川義元は松平広忠とのいくさには加担していない。あくまで松平と戦ったのは織田信秀とであり野信元。そして牧野氏当主保成であって、今川義元は無関係を装っている。」
少年「でもその時、義元はうちを狙っていた?」
戸田康光「そう。この状況を踏まえて、あの有名な出来事の話をする。」
少年「歴史漫画持って来るね……。」
戸田康光「頼む。」
少年「えぇっと……。松平広忠の居城岡崎から陸路で西郡。今の蒲郡市で良いのかな?に移動します。」
戸田康光「ここまでは当時、分裂していたが松平一族の土地を通る事になる。ルートに選定されて問題は無い。そこからはどうなっている?」
少年「そこから舟に乗り、田原に向かう事になります。」
戸田康光「岡崎から駿府に向かうのであれば、全て陸路が最も近く。天候にも左右され難い。たださっきも話したように東隣の牧野が松平の領地を狙っているため通るのは難しい。故に田原を通る事にしたのであろう。ただな。」
少年「どうしたの?」
戸田康光「駿府に向かうのであれば上陸地点は田原では無い。大津だ。」
今の愛知県豊橋市老津町付近にある地名。
戸田康光「そこから陸路で浜名湖の西岸にある吉美まで送り届ける役を担ったと伝えられているよな?」
少年「うん。そこで
『陸路は危険ですから海を使いましょう。』
と唆して家康を尾張に売り払った?」
戸田康光「と言われているよな?」
少年「うん。」
戸田康光「その時、大津から吉美までの陸路が危険であった事は事実である。それは認める。故に海路の方が安全であった。この事も認める。ただその原因となったのが……。」
戸田と今川の対立。
戸田康光「のちの家康となる人物が駿府に向かったのが1547年の8月。その前年の1546年。我らの権益となっていた今橋城は、今川の手によって落城した。しかし戦いは翌年以降も続いた。その舞台となったのが……。」
田原城。
戸田康光「田原城の戦いは1550年まで続いた。広忠の息子は今川義元の下へ移送される事になった。その役目を……。」
今川と敵対している相手に依頼するであろうか?
戸田康光「跡取りを人質に出す事は重大事も重大事。綿密なやり取りを経て実行に移されるべきもの。岡崎と駿府の間で頻繁にやり取りが交わされた事は容易に想像がつく。受け入れ態勢はどうなっているのか?待遇はどうなるのか?そして最も大事な事は……。」
安全に移動するにはどうするべきなのか?
戸田康光「うちは娘を広忠に嫁がせている。広忠の事を蔑ろにするつもりは無い。ただ広忠の倅は、娘の子では無い。知多半島で諍いとなっている水野の妹の子だ。加えてうちは今川といくさの真っ只中にあり、劣勢も劣勢。滅亡を覚悟しなければならない状況にあった。そんな人物に……。」
人質の移送を依頼すると思うか?
戸田康光「あり得ないだろ?」
少年「うん。」
戸田康光「実際はどうであったのかを次に話そうと思う。」
ここからは織田と松平の関係を見ていきます。
戸田康光「松平広忠が水野信元の妹と離縁したのが1544年。翌1545年、松平広忠は今の愛知県安城市にあった安祥城を攻めるも失敗。広忠は安祥松平の4代目。つまり安祥城は彼の本貫地であるのと同時に三河の穀倉地帯。是が非でも確保しなければならない場所なのであったのだが、当時は織田の権益。両者の対立はその後も続き、最後。」
織田信秀が松平広忠の本拠地岡崎城を占拠する事によって終結。
戸田康光「織田信秀が松平広忠に対し、降伏の証として要求して来たのが……。」
のちの徳川家康。
戸田康光「岡崎城から清州城までの道のりは全て織田方。織田信秀は誰に邪魔される事も無く徳川家康を尾張へ移送する事に成功した。」
少年「へぇぇ。」
戸田康光「自然でしょ?」
少年「そうだね。でも……。」
戸田康光「どうした?」
少年「何故その事が無かった事になっているの?
『徳川が天下を獲ったから。』
と言われればそれまでの事だけど、松平広忠にしろ徳川家康にしろ……。」
負けたいくさの経歴は記述されている。
少年「安祥攻めのそうだし、三方ヶ原もそう。それにも関わらず岡崎城で降伏を余儀なくされた記述は……。」
戸田康光「残っていない。恐らく……。」
誰かの事を慮って廃棄されたのであろう。
少年「徳川家康?」
戸田康光「それもあるが、どちらかと言えば家康のお父さんになるかな?何故なら……。」
その翌年。松平広忠が今川方に転身したから。
戸田康光「織田と今川の連携は、今川がうちを。織田が松平をそれぞれ駆逐するまでに限られていた。両者が近接した瞬間。両者の対立は表面化。その舞台となったのが西三河。織田信秀が岡崎城を降伏に追い込んだ翌1548年。織田と今川が岡崎城の東。今の愛知県岡崎市美合町の小豆坂で激突。この戦いに今川が勝利を収め、織田方を矢作川以西に追いやるのを確認した松平広忠は今川方への復帰を決断。」
少年「今川として戦ったのでは無いの?」
戸田康光「この戦いで広忠は何もしていない。仮に今川方であったのならば、矢作川で織田勢を防ぐ。もしくは撤退する織田勢に横槍を入れる等行動を起こす事が出来たのだが、彼は何もしていない。家臣の一部が今川側として戦っているが、それを率いたのは今川の家臣。つまりこの段階で広忠は……。」
織田と今川。どちらが勝っても良い様にしていた可能性が高い。
戸田康光「そこまでは問題無い。自らが生きる事。岡崎の権益を維持する事が大事なのであるのだから。ただここで大きな問題が発生する事になった。」
今川の強さを目の当たりにした松平広忠は、織田方からの転身を決断。本貫地である安祥城の奪還に乗り出したのでありましたが……。
少年「人質となっている息子を敵方に残したまま今川に……。」
戸田康光「そう言う事はこの時代、よくあった。特に広忠の場合、家康は敵方となった水野の妹の子。今後、今川陣営と活動するにあたり足枷になる恐れもある人物。」
少年「これ幸いと切り捨てた?」
戸田康光「この辺りについては、直後に広忠が亡くなってしまったためわからない。ただそう捉えられても仕方が無い行動であった事は否定出来ない。しかも厄介なのが……。」
見捨てられた張本人が天下を獲ってしまった。
戸田康光「『天下人のお父さんが、実の息子を見捨てた。』
と言う事実は、流石に残すわけにはいかないだろう……。」
少年「そうだね。ところでさぁ。」
戸田康光「どうした?」
少年「何故家康はそこで命を失わなかったの?普通、裏切って来た家の人質は……。」
見せしめの意味も込め、悲惨な末路が待っているもの。
少年「それにも関わらず何故家康は生き残る事が出来たの?」
戸田康光「1つは母が水野の出だった事。当時の水野の勢力は織田信秀を以てしても無下に扱う事が出来ない規模にあった。今川と敵対する事を考えた場合、壁となってくれる水野に変な刺激を与えたくなかったから。そしてもう1つが……。」
松平領を統治する際の切り札に考えていた可能性が高い。
戸田康光「のちの家康は安祥松平の出。松平全体を束ねる資格を持つ人物。松平は水野領を除く西三河のほぼ全域と長沢から三河の一宮にまで影響力を持つ。織田による三河支配を考えた場合、家康を残しておいて損では無いから。結果、信秀は家康を生かす事を選択した可能性が高い。」
少年「その事も計算に入れて広忠は?」
戸田康光「生きるのに一所懸命だったんじゃないのかな?うちもあの時は、長男は田原で反今川。次男は二連木(愛知県豊橋市朝倉川の南にある)で今川方に分けたりして、何とか家を残すのに必死だったからさ……。」
少年「知らなかった……。」
戸田康光「あの状況で、今川が家康の移送をうちに頼むのであれば、田原では無く今川と行動を共にした二連木。次男に行っていたはず。だから……。」
少年「『家康を尾張に売り払った話は事実では無い。』
と言いたいのだね?」
戸田康光「その通り。」
少年「家康のお父さんの隠したい事実を隠すためにうちの御先祖様達が汚れ役を引き受けた?」
戸田康光「大変な思いをさせてしまった。申し訳ない。」
少年「でもおじさんは……良い思いしていませんよね?」
戸田康光「……今川とのいくさで命を落としてしまったからな……。」
少年「おじさん。」
戸田康光「どうした?」
少年「……歴史を少しだけ変えてみませんか?」
少年が戸田康光の甥である戸田忠次に転生し、話が始まります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます