空色エクスプレス

YamiYami

第一章

第1話 推し

 君たちに推しはいるだろうか?

俺の名前は五十嵐裕介いがらし ゆうすけだ。両親をなくし、一人暮らしをしている高校生だ。恋愛感情?そんなのなんて分からなかった。


 俺の好きなアニメは神のエクルシア。

まあ世間には、あまり知られてない現代ファンタジーのマイナーアニメだ。

 その中でもよぞらを推している。俺がよぞらを推し始めたのは、第一話からだった。 ちなみに今だと俺はよぞらと同い年だ。


 アニメ 神のエクルシア。

 ここは、概念から神が生まれる世界。

神ならざる物は弱き世界


「大丈夫ですか? ケガない?」


 よぞらの笑顔はとても可愛くて、優しさがあって品がある。長い黒い髪が風になびく。よぞらは生きがいで失礼ながら死んだ親よりも大事な存在だ。


  

 第一クール最終回。それを見て、俺の心は絶望に染まった。



ザシュ! 


どこかのビルの路地裏で……


誰かの血が広がってく……


     ──誰の血なんだろうか?──


 テレビの画面には血を流した俺の推しであるよぞらが映っている。

身体に剣が刺さって倒れている……

しかも心臓の位置に……

 特徴的であるきれいな瞳から、生気が失いかけていることが分かる。


「なんで、裏切った……んですか……」

よぞらの瞳は光を失った……

 俺は何が起こっているか一瞬分からなかった。


「お前じゃ分からないことだ!」

よぞらの敵である男は彼女の死体をメッタ刺しにし始めた……


──は?


 俺だけじゃなく、よぞら推しにとっては耐えられないシーン。

まず普通の人間ならば耐えられないシーン。

じゃなければおかしい……


──なぜ……


 失礼なのは分かっているが、俺はこんなシーンを考える作者の人間性を疑ってしまった。


──なぜ


   ──人はこういうシーンを考える──


     こ ん な 仕 打 ち を 


 俺は一人雨の中、深夜のマンションの屋上に一目散に走った。そして屋上につき柵にもたれかかる。


 ──俺はこれから何を生きがいにしようか──


「はは…… な に も な い や……」


 その柵はとても脆かった。思ったよりも脆かった。

路地裏のコンクリの地面が近づいてくる。

いや俺が落下している。


 地面に真っ逆さまと。


──死にたくない


 不思議なことに風景がスローモーションに視えた。信じてなかったが本当のことだった。


──死にたくない……


ドシャッ!


頭を地面に強くうち息を引き取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る