第4話 仮面の冒険者、誕生

 ボクはウッドゴーレムとしてではなく、コーキという、『木製の全身ヨロイを着た冒険者』として過ごすこととなった。


「どうしてまた?」


「キミがウッドゴーレムであると、隠すためだよ」


 パロンは、ボクがウッドゴーレムだとわかると、都合が悪いみたい。


「そうなの? ボクはこのままでもいいよ?」


「キミが街へ降りた途端、王族や貴族がキミを面白がって実験したがるけど、それでもいいなら」


「ううっ。それはちょっと辛いかも」


 パロンとも、離ればなれになるかもだし。


「でもさ、ボクが旅をする目的は、キミが一人前であることを証明するためで」


「ワタシはもう、十分成果を出してる。自分ではこの状態を、気に入っているんだ」


 ヘタに他人に評価されると、国家や貴族たちに利用されるからと。


 有名になるって、あまり特をしないみたいだ。


「どんなに成果を出したところで、他人はどうせワタシなんて高評価しないものだよ。自分の考えは、覆らないもんだからさ」


 人間は思いの外、自分の非を認めたがらないという。

 

 そんな人間たちに、わざわざ力をひけらかすこともなかろうと、パロンは考えていた。


「自分のよさ、すごさなんてさ、自分が知っていればいいんだよ」


 身体は小さいのに、パロンは大人だ。


「だからさ、キミは自分のために旅をしてよ」


「ふむ。ワシはお主を認めておるがの?」


「それは薬草茶を作るからでしょ?」


 パロンが、クコを茶化す。


「いやいや、パロンよ。お主の薬草茶が、一番効くんじゃ。なんたって、ものづくりの天才じゃからのう」


「まあ。ものを作るのは昔から得意だったかな?母親が錬金術をかじっていたからかも」


 彼女が錬金術に熱心なのは、母親から教わったからみたいだね。


「それはそうと、コーキが街に入ったとして、言い訳はどうしようか? 鉄のアーマーを着ないのかとか言われたら」


 フードを被って姿を隠していると、「取りなさい」とか言われちゃうかも。このままじゃ、不審者だもんね。


「取れば? 革製のヨロイで身軽に動く、シーフ系冒険者もいるんだよ? 木製で固めたやつがいたって、おかしくない」


 なるほど。別に取っても、ヨロイだと言い張れば。


「それにキミは、ヒーラーの特性があるみたいだからね。『神様の加護を受けているので、金属をつけられなーい』と言っておけば、信じてもらえるって」


 なんか強引だけど、いいか。


「強い魔物とか、出て来ない?」


「大丈夫さ。賢人が管理・コントロールしているから」


 賢人クコも、「うむ」と言って腕を組む。


「さっきまで二日酔いじゃったから、結界は弱まったかもしれんが、大丈夫じゃろう?」


 それは大丈夫と言わないのでは? 


「言ってる側から、凶暴なモンスター出現なんだけど?」


 ドシンドシン、と、三メートルくらいあるイノシシが、森から現れた。口から二本の太い牙を生やし、こちらを威嚇している。


「危ない!」


 イノシシが、パロンをはね飛ばそうと突撃してきた。


 ボクはパロンを抱き上げて、跳躍する。木の上に着地した。


「あのモンスターは?」


「こやつは、森の主の座をワシと争っていたキングボアじゃ。あまり利口ではないから、この森にふさわしくないのじゃが」


 たしかに、知性は低そうだ。何事も、暴力で解決しそうなタイプだな。


「しかし、この付近に結界を張れそうなやつは、こやつくらいしかおらぬ。どうしたものか」


「話だけでも、聞いてみよう」


 よだれを垂らしているキングボアに、パロンは近づいてみた。


 イノシシはパロンに鼻を近づけて、会話をしているみたい。


「なんて言っているの?」


「コーキ、キミを食べさせろだって」


 ロクでもない会話だった。


「ここから美味しい匂いがするから、たどってみたらキミから溢れてきているって。辛抱たまらないから、一口かじらせてくれって」


 すごい要求だなあ。動物そのままじゃないか。


 つまりボクが無限に果実を生産できるから、一生無限に食べたいってわけか。となると彼は、ボクがウッドゴレームだって、本能でわかっているんだろうね。


「まったく、食い意地の張ったやつじゃ。やはり森は任せられぬ。ワシが留守番をするしかなかろうな。しかし、二日酔い止めの薬草茶を毎日飲めぬのは、しのびない」


 腕を組みながら、賢人クコが考え込んでしまう。


「パロン。食べられるなら食べてみろって、伝えて」


 ボクは、パロンたちをかばうようにして、身構えた。武器はないけど、最悪ボクの身体でどうにかしよう。


「戦うの?」


「ボクの強さがどれだけなのか、見てみたい」


 ゴーレムだから、戦闘スキルくらいはあると思うだけど。冒険者になるんだ。多少は力をつけておかないと。


「ボクが勝ったら、食べるのはあきらめてほしい。でも負けたら、ボクはおとなしくかじられるよ」


 パロンがボクにお願いしたとおりに、イノシシに伝えた。


「ブモオオオ!」


 イノシシは興奮状態で、前足で地面ををかく。


「コーキ、本気で言ってる?」


 心配げに、パロンがボクに振り返る。


「ボクは本気だよ」


 こんな試練も乗り越えられないなら、冒険に出る意味がない。

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