栞。

トクメイ太郎

楽しみ

 私は、朝6時半ごろ、右側と左側に柵がある子供が寝るには少し大きい、白い布団とさらっとした白いシーツが敷かれたベッドで誰よりも早い朝を迎える。

 私には日課がある。


「テレホンカード貸してください」

「今日も電話?」

「はい!」


 看護師さんに預かってもらっているテレホンカードを受け取る。

 テレホンカードを受け取って、真っ先に休憩室に併設されている公衆電話に直行する。


「お母さん。今日は何時頃来るの?」

「今日は仕事があるから夕方の6時頃かな」

「わかった!」


 お母さんと電話越しで話している姿を、看護師さん達がなぜかいつも笑顔でみてくる。


「ほかに何かある? 持ってきてほしいものとか」

「特にないよ。そうだ! いつものあれ食べたい」

「わかった。でも看護師さん達には内緒だからね」

「わかった。そろそろみんな起きてくるから一回電話切るね」

「じゃあね」


 お母さんは、いつも優しい声で返事をして電話をきってくれる。

 あの声を聞くだけで、私はなぜか安心してしまう。

 お母さんと話し終えた後、テレビを一人で見ていると、徐々に小児科に入院している子供達が起きてくる。


「今日もはやいね。ラジオ体操?」

「そうだよ」


 目が覚めて目脂をつけて病室からやってきた寝起きの平次に声をかけられたが、私は嘘を言う。

 6歳の平次に親と朝一で起きて話してるなんて聞かれた日には、その場で赤面して、恥ずかしくなる自信がある。

 そんなこんなで、みんなが朝起きてきて8時頃になると、朝ご飯がやってくる。

 みんなで、それを休憩室で囲みながら、わきあいあいとしながら食べる。

 食べ終わると、みんなと仲良くトランプをしたりする。

 みんなといっても、十人くらいしかいないが。


「栞ちゃん! 後で何人かあつめてトランプでババ抜きしよ」

「いいね」


 食器を看護師さんに返しに行こうと思ったとき、一番仲がいい同い年の沙織ちゃんに声をかけられて、すぐオッケーした。

 何人かで集まって、トランプをしていたが、飽きてきて、沙織ちゃんと私のつかっているべッドに二人で座った。

 私から話そうとおもったが、沙織ちゃんが先に話しかけてきた。


「そういえばさ、来年私達中学生だけど中一の勉強って小学校より難しいのかな」

「たぶんむずかしいんじゃないかな。中学受験とかもあるぐらいだし」

「いやだなぁ。」

「新しいこと学べるから私は楽しみ。それに新しい友達とかできそうだし」

「栞ちゃんはほんとポジティブだね」


 沙織ちゃんと話していると、昼ご飯の時間になった。

 ご飯を食べ終わって看護師さんに食器を返す。

 私はその後、沙織ちゃんと休憩室で問題集を並べて勉強をしていた。

 勉強をしていると、頭が疲れてきて私が沙織ちゃんに話しかけた。


「そろそろ疲れてこない?」

「確かに」

「休憩しようよ」

「うん」


 休憩していると、看護師さんが来て私は検査室に行くことになった。

 どうやら、背中に注射を打って細胞をしらべるとかなんとか。

 詳しくはわからないけど、私の病気にとっては大事な検査らしい。


(背中に注射か。こわいなぁ)


 不安の中、私は検査をした。

 検査が終わって、腰に注射をしたせいもあって腰が曲がらず、よくいる腰の曲がってるおじいちゃんみたいになった。

 私を見て同じ小児科に入院している小学生、低学年くらい子達は笑っていた。

 それを恥ずかしいと感じた。


(もうこの検査だけは死んでも一生したくない)


 私は心に決めた。

 そんなこんなで、お母さんがやってきて、病院にあるコンビニであれを買いに行く。


「内緒だからね」

「うん」


 私は腰が痛いのを我慢しながら、あれを手に取って、お母さんに渡す。

 お母さんがコンビニで支払いを済ませて、静まり帰った診察室の待合であれを食べていた。


「おいしい?」

「うん。特にこのキャラメルソースがおいしいんだよね」

「ほんとに栞はプリンが好きだね。」

「だっておいしいじゃん」


 私がプリンを美味しそうに食べているのをお母さんが横に笑顔で座ってみていた。


「たべおわっちゃった。もう一個食べたい」

「また来月ね」

「来月? いつも検査入院だからそんなに長く入院しないでしょ。冗談になってないよ」

「ごめんごめん」

 私はプリンの容器をコンビニ前のゴミ箱に捨てて、病室に帰った。

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