第20話 九尾討伐作戦

 「おそらく、この奥です」


 薄暗い森の中、凪夜なぎやが前方を指差した。

 すると、後ろに続く討魔師たちが感嘆する。


「「「おお~」」」

「た、多分ですけどね!」


 九尾の情報を得てから、数日。

 凪夜たち討魔連盟は、隣街の山奥へと足を踏み入れていた。

 この一帯から大きな呪力を感知したからだ。


 しかし、詳しい実態は掴めていない。


『助かるぞ凪夜。連盟の感知が曖昧あいまいなのでな』


 九尾の報告後、連盟側でも感知することができた。

 だが、その範囲が広大すぎたのだ。


 九尾の反応があまりに大きく、山全体に渡る勢いである。

 これでは正確にどこで出現するかは掴めない。


 そこで、凪夜の並外れた感知能力を頼りに、森を進んでいるのだ。


「それにしても、どうやって感知を?」

「え? えーと、勘です、勘!」

「はっはっは、では史上最強の勘ですな」

「お、お恥ずかしい……」


 誤魔化しはしたが、凪夜にも一応根拠はある。

 

(こっちで合ってるんだよな?)


 凪夜の怪異ちした右腕が、ぴくぴくっと反応しているのだ。

 自分の意思に関係なく若干動く方向へ、凪夜は足を進めている。

 その様子は、天音と疾風も納得していた。


(なるほどね)

(なるほどっすね)


 怪異同士は、互いの存在に敏感だという。

 おそらく九尾の呪力に惹かれいるのだ。

 

 そうして、凪夜がピタっと足を止めた。


「この先、強い気配があります……!」

「「「……!」」」

 

 凪夜に遅れて、何人かの討魔師も気づいたようだ。

 今まで以上に全員の顔が引き締まる。


「行けますか、御神楽さん」

「ええ」


 すると、後方の討魔師たちを置いて、凪夜と天音が前に出る。

 早速、作戦開始のようだ。


 今作戦において、肝はこの二人。

 “あかつき御子みこ”である天音をエサとして釣り、九尾を強制的に呼び覚ます。

 その不完全復活のまま、凪夜を中心に討魔する。


「では、いきましょう」

「……っ」

「って、わああ!?」


 だが突然、凪夜が飛び上がった。


「御神楽さん、手、手が……!」

「怖いから仕方ないでしょ!?」


 作戦への恐怖から、天音が凪夜の肩に触れたようだ。

 こんな時でも、凪夜は変わらず陰キャを発揮してしまう。


「……師匠、まじでお願いします」


 疾風たち討魔師が若干不安になる中、凪夜は再び向き直る。

 性格に難ありではあるが、やる時はやる男だ。


「い、いきますよ」

「……ええ」


 まだドキドキしつつも、二人三脚で凪夜は進み始める。

 すると、少し行った先で何かが見えた。


「あれは!」

「ちょっ、アンタ!」


 凪夜の足が少し早まる。

 目にしたのが、女性だったからだ。


「すみません、ここは危ないですよ!」

「──あら、そうなの」

「……!!」


 振り返った女性は、超がつくほどの美人だ。

 和服に身を包み、綺麗な黒髪はお団子に結ばれている。

 あまりの美しさに、凪夜は途端にあわあわし始めた。


「は、はは、はいぃ! ですから早くあちらに!」

「って、なわけあるか!」


 だが、隣の天音は当然気づいていた。

 こんな所に一般人がいるわけないと。


「あれが九尾に決まっ──」

「捕まえた」

「「……ッ!?」」


 天音の言葉通り、その女性が九尾だった。

 凪夜が後方を指差した瞬間に、天音を包み込んだのだ。

 その“九つの尾”で。


「み、御神楽さん!」

「このアホー!」


 互いに叫びながら、天音が凪夜の手を離れる。

 天音を手中に収めた九尾は、ようやくその本性を見せる。


「うふふふっ、簡単だったわね」


 女性の和服がはだけ、小麦色の肌があらわになる。

 その体と、九つの尾はどんどんと肥大化していく。


 やがて──


『彼女は私のものよお!』

「……っ!!」


 何十メートルもの巨大な狐が姿を現した。

 

 誰がどう見ても分かる。

 紛れもなく最上位怪異の“九尾”だ。


『1000年振りの復活でどうなるかと思ったけど』

「……!」

『相変わらずちょろいわね、陰陽師』


 言葉の齟齬そごが見られる。

 前回の復活時で相対あいたいしたのは、討魔師の前身である陰陽師だったのだろう。


『まだ力は不完全で気持ち悪かったのよ』

「くっ……!」

『この娘で完全復活といこうかしら』


 だが、その脅威は古来より変わらない。

 九尾は天音を包みながら、その大きな尾の一つを振るった。


『やっておしまいなさい!』

『『『キュウゥッ!』』』

「「「……!?」」」


 九尾の尾から、大量の狐たちが出現した。

 討魔師たちはすぐに陣形を取りながら、声を上げた。


「情報にあった化け狐だぞ!」

「警戒を怠るな!」

「各自、複数人であたれ!」


 古い伝記より、記述が残されていたようだ。

 九尾は自らの体から、子分である“狐”を生み出すと。


 それと、こうも書かれてあった。


「あれ一体一体が、上級怪異だ……!」


 数えることすら億劫になりそうな、大量の狐の怪異。

 サイズはそれほどでもないが、大きな脅威だ。

 以前の大災害など、比べるまでもない。


 しかし──


「【呪力パンチ】……!」

『『『キュウゥゥゥ!』』』

『……!?』


 そのほとんどを、凪夜が一撃ではらう。

 完全に自分のせいではあるが、凪夜なりに責任を取ろうとしていた。

 

「御神楽さんを返してもらっていいですか」

『あら、面白いのがいるじゃない』


 九尾討伐作戦が開始される──。

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