第19話 二人の覚悟

 『ほう。九尾とはな』


 凪夜のイヤホン超しに、カシラが口を開いた。


 深夜の学校潜入の、翌朝。

 凪夜は、花子さんから得た情報を共有していた。

 

 すると、カシラはすかさず尋ねてくる。

 

『そんな貴重な情報、どこで入手した?』

「え! いや、それは……」

『まさか、深夜に学校に忍んだりしてないだろうな?』

「ぎくぅっ!」


 鋭すぎる言葉に、凪夜もビビる。


「カ、カシラはどこまで知ってるんですか」

『何も知らんぞ。ましてや、そこで天音に抱き着かれてドキドキしたことなど──』

「絶対知ってる!!」


 カシラこの人に隠し事はできない。

 凪夜はそう強く思った。


『それはそれとして、九尾か。もし本当なら相当厄介だぞ』

「ですよね」

『資料を送った。目を通せ』


 ──九尾。

 九つの尻尾を持つ、伝説上のきつねだ。

 美しき美貌と共に、強大な呪力を持つ。


 昔の伝記にしか記されていないため、実体データはほとんどない。

 しかし、脅威は間違いなく最も危険な“天災級”である。


「て、天災級……」

『だが、まだ焦る時間ではない』

「え?」

『もし天災級が現れてみろ。とっくに連盟が感知しているはずだ』

「あ、たしかに」


 カシラは推察を続ける。


『ならば、情報通りにこれから復活する・・・・・・・・と思われる』

「!」

『怪異同士は互いの存在に敏感だと言う。その独特の感性により、予知的に観測したのだろう』


 凪夜はうなずきながら聞き返した。


「僕たちはどうすれば?」

『……ふむ。では先手を打つ』


 対して、カシラは言葉を強める。


『九尾を強制的に・・・・呼び覚まし、“不完全”な復活のままつ』

「……!」

『完全復活をされてしまえば天災級だ。はっきり言って方法はこれしかない』


 もし天災級であれば、凪夜ですら手に余る恐れがある。

 カシラが言うのなら、これが最善なのだろう。


「でも、どうやってですか?」

『……こちらで検討する』

「!」


 だが、方法に関してカシラは言葉をにごした。

 長い付き合いの凪夜は、軽い違和感を抱く。

 こんな時でも、カシラならばすぐに返答が来るはずなのだ。


 ──すると、バンっと凪夜の部屋の扉が開く。


「待って、話は聞かせてもらったわ」

「御神楽さん!?」


 現れたのは天音だった。

 その耳には小型イヤホンが付いている。


「エサならあるでしょう。ここに特大のが」

「そ、それって……!」


 天音は自分の胸に手を当てた。

 九尾を呼び覚ますのに、自分を使えと言いたいのだろう。

 しかし、凪夜は首を横に振る。


「そんなのダメです! そもそも、どうしてイヤホンを!」

「部屋に置いてあったから付けただけよ」

「部屋にって……カシラ?」


 凪夜が問うと、カシラは言いづらそうに答えた。


『……上からの指示だ』

「じゃあ、御神楽さんにわざと聞かせたんですか!」

『すまない』

「……っ!」


 対して、凪夜は珍しく声を上げる。


「僕は反対です! 御神楽さんだけは巻き込めない!」

『……受け入れろ凪夜』

「嫌です! 僕は彼女の普通を守ると決めたんです!」

『受け入れろと言っている!』

「……!」


 すると、カシラも感情をあらわにした。


『九尾が完全な状態で復活すれば、どれだけ被害が出るか分かっているのか!』

「……っ」


 天災級怪異。

 それは討魔連盟が発足してからも、一度も観測されていない。

 完全復活させてしまえば、未曾有みぞうの事態になるのは確定していた。


『……やむを得ないんだ』

「カ、カシラ……」


 珍しくカシラの声が震えている。

 恐らく、彼女も天音の参加は反対だったのだ。

 しかし、カシラより上の命令により、その作戦を取らざるを得ない。


 だが、悪いことばかりではない。 


『それに古代の記述では──いや、これはよそう』

「?」


 不確定要素は話さない。

 それでも、何かしらの希望は見えているようだ。


 話がまとまると、天音は改めて口にした。


「わたしにも出来ることがあるなら、協力したい」

「……!」

「守ってくれんでしょ、最強の討魔師さん?」

「わかり、ました……!」


 天音の覚悟が決まった表情に、凪夜も強くうなずく。

 この表情は決意を固めたようだった。


 こうして、天災級怪異『九尾』の討伐作戦が決まった。





 同時刻、どこかの場所。


「キュゥ……」


 その可愛げな声とは裏腹に、今にも呪力が溢れ出しそうになっていた──。

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