人見知りのその少年、実は最強の討魔師~陰キャに日本の命運を背負わせるのは勘弁してください!~
むらくも航
第1話 史上最強の討魔師
「今回の任務も見事だった」
暗い部屋の中、上司の女性が口を開く。
成果を称えられているのは、一人の少年である。
「さすがは
「
お褒めの言葉にも、少年はただ控えめにうなずく。
冷静沈着な姿勢を決して崩さない。
「では、次の任務だが──」
「はい」
「学校へ潜入してもらう」
「……はい?」
だが、その態度は一瞬で崩れ去った。
「今、学校と言いましたか!?」
「……うむ。君が学校NGなのは知ってるが、これは君にしか頼めないことで──」
「無理です! 絶対無理無理!」
それもそのはず、少年は──
「だって僕、人見知りですからあああ!!」
コミュニケーションが苦手だった。
★
古くは陰陽師から受け継がれる、現代の職業だ。
彼らの使命は、
そんな
彼の名を
その凪夜は今──
「ふぅ……」
学校近くで鋭い視線を浮かばせていた。
その身は柱に張り付き、誰も気づかない。
見事な隠密能力で学校の様子を
まさに最強の為せる技だ。
(あれが高校……)
怖い顔で、じっと
息は切らし気味に、汗は止まらない。
まるで、まだ見ぬ強敵を前にしているかのようである。
だがこれは──
(どうしよう、緊張でおかしくなりそう……!)
月燈凪夜、彼は極度の“人見知り”だった。
年齢は十六歳。
高校一年生の年代だが、特殊な訓練のために一般社会から離れていた。
その結果、人と話すのが苦手である。
(なんで僕なんかが学校に……)
ガクガクと足を震えさせながら、凪夜は胸を抑える。
精一杯に反対したが、結局上からの命令には逆らえなかったのだ。
「!」
すると、校門前に一台の黒い車が止まった。
全面が防弾仕様になった高級車だ。
凪夜は確信した。
(あれが……!)
凪夜の任務は、“とある少女を秘密裏に護衛すること”。
高級車からは、情報通りの少女が降りてくる。
「……いってきます」
美しい黒髪がふわっとなびく。
髪から覗かせる
同じ制服のはずが、彼女を
彼女の名は、『
凪夜の護衛対象だ。
天音の登場には、男女問わず一斉に振り返った。
「「「……っ!」」」
しかし、その温かい雰囲気は一変する。
──ギロリ。
「「「ひいっ……!?」」」
天音が周囲を
ヤンキーもびっくりなその冷たい視線は、周囲を一気に怯えさせる。
振り返っていた生徒は、全員目を逸らしていた。
ヤバイ奴が来たと、そう思ったのだろう。
もちろん凪夜もだ。
(今までありがとうございました)
凪夜は早々に任務を諦めた。
「……」
チャイムが鳴り、放課後。
入学初日という晴れ晴れしい日の中、凪夜は机に突っ伏している。
(誰とも話さずに一日が終わってしまった……)
入学式ではうつむき続けた。
自己紹介では一言目に噛み、名前すら覚えてもらっていない。
その後、隣の席に話しかけられるはずもなく。
周りがわいわいする中、凪夜は腕の隙間から周囲をうかがう。
悲しき“ぼっち”のムーブだ。
すると、ふと思い至ることがある。
(そういえば、御神楽さんも誰とも話していなかったな……)
朝の校門前での一睨み。
あれ以降も、天音の様子は相変わらずだった。
一日を通して周囲を威圧し続けていたのだ。
(上司の言ってた通りだな……)
天音には、常にSP(警護)が付きまとっている。
実家は名家の上、彼女自身も
そんな事情もあり、幼少期は苦労したらしい。
そうして、やがて人を近づけることを拒むようになったという。
(それにしても、ちゃんと帰れたかな……)
天音の護衛任務は、学校にいる間のみ。
行き帰りはSPに引き継ぐようだ。
ついでに、交友を深めろとも言われていない(期待されていない)。
(じゃあ僕も帰ろ──)
そんな時、耳の小型イヤホンから緊急報告が入る。
『第二公園近くに怪異が発生! 近くの討魔師は至急、討魔にあたってください!』
「……!」
討魔師全体への緊急報告だ。
第二公園は、学校のすぐ近く。
凪夜は音もなく立ち上がると、嫌な予感がした。
(まさか……!)
カシラの言葉を思い出したのだ。
御神楽天音には、SPが付いている。
だが、討魔師ではない。
もしそれらがやられるようなら──お前の出番だ。
★
「なんなのよ、これ……」
学校近くで、一人の少女が腰を抜かしている。
御神楽天音だ。
彼女の前には、大きな“鬼”が立っていた。
「グオオ……」
「こんなのが、現実に……?」
天音は怯えながらも、どこか現実だと信じ切れていない。
一般的に、怪異は
だが、死が迫った時など、感覚が鋭くなる時は別である。
「オマエ、“上質な魂”をモッテイルナ?」
「ひっ……!」
近くには、彼女のSPが横たわっている。
目の前の鬼にやられたのだ。
その光景が現実だと再認識させる。
すると、途端に恐怖は増す。
「ソレを喰わせろオオオオ!」
「きゃああああああああっ!」
自分の体よりも大きな手が、天音に迫る。
腰は引け、対抗手段もない。
天音はそのまま鬼に喰われる──はずだった。
「それはちょっと困ります」
「グアッ!?」
少年の声と共に、鬼の手が吹っ飛んだ。
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