人見知りのその少年、実は最強の討魔師~陰キャに日本の命運を背負わせるのは勘弁してください!~

むらくも航

第1話 史上最強の討魔師

 「今回の任務も見事だった」


 暗い部屋の中、上司の女性が口を開く。

 成果を称えられているのは、一人の少年である。


「さすがは史上最強・・・・と呼ばれる“討魔師とうまし”だ」

滅相めっそうもございません」


 お褒めの言葉にも、少年はただ控えめにうなずく。

 冷静沈着な姿勢を決して崩さない。

 

「では、次の任務だが──」

「はい」

「学校へ潜入してもらう」

「……はい?」


 だが、その態度は一瞬で崩れ去った。


「今、学校と言いましたか!?」

「……うむ。君が学校NGなのは知ってるが、これは君にしか頼めないことで──」

「無理です! 絶対無理無理!」


 それもそのはず、少年は──


「だって僕、人見知りですからあああ!!」


 コミュニケーションが苦手だった。





 とう

 古くは陰陽師から受け継がれる、現代の職業だ。

 彼らの使命は、かいやそれに関する悪を討つこと。


 そんな由緒ゆいしょある討魔師において、“史上最強”と呼ばれる少年がいる。

 彼の名を月燈つきとうなぎ


 その凪夜は今──


「ふぅ……」

 

 学校近くで鋭い視線を浮かばせていた。


 その身は柱に張り付き、誰も気づかない。

 見事な隠密能力で学校の様子をうかがっている。

 まさに最強の為せる技だ。


(あれが高校……)


 怖い顔で、じっとにらむこと一時間。

 息は切らし気味に、汗は止まらない。

 まるで、まだ見ぬ強敵を前にしているかのようである。

 

 だがこれは──


(どうしよう、緊張でおかしくなりそう……!)


 挙動不審なきょどっているだけだ。

 月燈凪夜、彼は極度の“人見知り”だった。


 年齢は十六歳。

 高校一年生の年代だが、特殊な訓練のために一般社会から離れていた。

 その結果、人と話すのが苦手である。


(なんで僕なんかが学校に……)


 ガクガクと足を震えさせながら、凪夜は胸を抑える。

 精一杯に反対したが、結局上からの命令には逆らえなかったのだ。


「!」


 すると、校門前に一台の黒い車が止まった。

 全面が防弾仕様になった高級車だ。

 凪夜は確信した。


(あれが……!)


 凪夜の任務は、“とある少女を秘密裏に護衛すること”。

 高級車からは、情報通りの少女が降りてくる。


「……いってきます」


 美しい黒髪がふわっとなびく。

 髪から覗かせる端麗たんれいな顔は、同年代離れしていた。

 同じ制服のはずが、彼女をまとうのはどこか高貴な雰囲気だ。


 彼女の名は、『御神楽みかぐら天音あまね』。

 凪夜の護衛対象だ。


 天音の登場には、男女問わず一斉に振り返った。


「「「……っ!」」」


 浮世うきよ離れした美しい姿だからだろう。

 しかし、その温かい雰囲気は一変する。


 ──ギロリ。


「「「ひいっ……!?」」」


 天音が周囲をにらんだのだ。

 ヤンキーもびっくりなその冷たい視線は、周囲を一気に怯えさせる。

 振り返っていた生徒は、全員目を逸らしていた。


 ヤバイ奴が来たと、そう思ったのだろう。

 もちろん凪夜もだ。


(今までありがとうございました)


 凪夜は早々に任務を諦めた。






「……」


 チャイムが鳴り、放課後。

 入学初日という晴れ晴れしい日の中、凪夜は机に突っ伏している。


(誰とも話さずに一日が終わってしまった……)


 入学式ではうつむき続けた。

 自己紹介では一言目に噛み、名前すら覚えてもらっていない。

 その後、隣の席に話しかけられるはずもなく。


 周りがわいわいする中、凪夜は腕の隙間から周囲をうかがう。

 悲しき“ぼっち”のムーブだ。


 すると、ふと思い至ることがある。


(そういえば、御神楽さんも誰とも話していなかったな……)


 朝の校門前での一睨み。

 あれ以降も、天音の様子は相変わらずだった。

 一日を通して周囲を威圧し続けていたのだ。


(上司の言ってた通りだな……)


 天音には、常にSP(警護)が付きまとっている。

 実家は名家の上、彼女自身も特別な存在・・・・・だからだ。

 そんな事情もあり、幼少期は苦労したらしい。


 そうして、やがて人を近づけることを拒むようになったという。


(それにしても、ちゃんと帰れたかな……)


 天音の護衛任務は、学校にいる間のみ。

 行き帰りはSPに引き継ぐようだ。

 ついでに、交友を深めろとも言われていない(期待されていない)。


(じゃあ僕も帰ろ──)


 そんな時、耳の小型イヤホンから緊急報告が入る。


『第二公園近くに怪異が発生! 近くの討魔師は至急、討魔にあたってください!』

「……!」


 討魔師全体への緊急報告だ。

 第二公園は、学校のすぐ近く。

 凪夜は音もなく立ち上がると、嫌な予感がした。


(まさか……!)


 カシラの言葉を思い出したのだ。


 御神楽天音には、SPが付いている。

 だが、討魔師ではない。

 もしそれらがやられるようなら──お前の出番だ。





「なんなのよ、これ……」


 学校近くで、一人の少女が腰を抜かしている。

 御神楽天音だ。


 彼女の前には、大きな“鬼”が立っていた。


「グオオ……」

「こんなのが、現実に……?」


 天音は怯えながらも、どこか現実だと信じ切れていない。

 一般的に、怪異は見ることができない・・・・・・・・・からだ。

 だが、死が迫った時など、感覚が鋭くなる時は別である。

 

「オマエ、“上質な魂”をモッテイルナ?」

「ひっ……!」


 近くには、彼女のSPが横たわっている。

 目の前の鬼にやられたのだ。

 その光景が現実だと再認識させる。


 すると、途端に恐怖は増す。


「ソレを喰わせろオオオオ!」

「きゃああああああああっ!」


 自分の体よりも大きな手が、天音に迫る。


 腰は引け、対抗手段もない。

 天音はそのまま鬼に喰われる──はずだった。


「それはちょっと困ります」

「グアッ!?」


 少年の声と共に、鬼の手が吹っ飛んだ。





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