第23話 閑話・復活のF(フィオ)

 勇者アルスのパーティの一員として、勇者の婚約者フィオとして世界中の憧憬を集めていた頃が私が一番輝いていた時だった。しかしパレオスの甘い言葉に騙され最愛の婚約者を裏切った私に待っていたのは、容赦の無い断罪と婚約破棄、そして終わりのみえない労働の日々。今の私は世界中に恥をさらした尻軽女のフィオとして後ろ指を指され嘲笑を受ける身だ。

 後悔しても時は戻らず、心身ともに擦り切れボロ雑巾のようになっていく自分を呪いながらあんな男に靡かなければ、アルスにずっと添い遂げていたらと思い枕を濡らす日々だった。

 あの男が、諸悪の根源のパレオスという屑が私の人生を、そしてアルスとの未来をぐちゃぐちゃに踏みにじって行った。パレオスは王家への反逆とみなされて苛烈な生き地獄を味あわされているようだけれど、それは当然の事だからざまぁみろとしか思わない。そんな事よりも、この地獄を何とかしてほしい。アルスに会いたい。

 断罪の場ではまともに話す機会もないままにアルスにさられてしまった。だけど10年以上ずっと一緒にいた幼馴染でもある私をそんな簡単に切り捨てることができるだろうか?いや、そんなことは無い筈。きっとアルスも私の事を思い出している筈。今はどこで何をしているかわからないけれど、アルスならきっと、今の私の境遇を知れば……子供のころのように頭を優しくなでて、困ったような笑みと共に許してくれるはずなんだ。

 前線から前線へ移動しての治癒師としての激務は、行方不明となったアルスと出会うためでもあった。指はあかぎれと擦り切れでボロボロ、肌はガサガサ、目の周りは落ちくぼみ頬は痩せこけ、肌の色も青白い。髪も縮れてゴワゴワで本数もすくなくなっている、だけどアルスなら―――女神様の奇跡の力の最後の一回があるから私を元に戻せるはず。そう、パレオスに汚される前のあの頃の私に戻す事だってできるはずなんだ。

 

 そして、前線を渡り歩く中で次の戦地でアルスと再会できるのではないかという確信があった。

 大陸の北側には魔物の狂騒が激しくなっており魔物の集団と闘い続ける激戦の要害、シリル要塞。

 正義を愛し苦しむ人々を見捨てらないアルスならきっと、あの砦に現れる筈。アルスに会えばきっと何もかもすべて元通り、上手くいくのだ。

 それにもしもアルスと再会できなくても、私にはあの忌まわしい王の間での自白で隠し通した『最後の切り札』がある。

 私が地方の貴族たちや私よりも可愛いと思った女を攫って売り飛ばしたお金はメニットの研究に出資していたけれど、細かいところはメニットに任せていた。

 だから確信はないので玉座の間で問われても応えられないが、メニットの言葉や会話の中で零していた断片的な情報からシリル要塞の傍にはメニットの“研究の成果”がある筈なのだ。

 魔物の狂騒、そして圧倒的な力を持ち魔物を統率する魔物の存在。それらには本人に自覚がないだけでメニットが深くかかわっている気がする。

 ……だからそれを手に入れれば力ずくでこの現状も変えれる。

 私にはその権利がある、だって『私は悪くない』んだから。これは失った時間。理不尽に奪われたものを取り戻す正当な行動。


 待っててね、アルス。―――――今、会いにゆきます


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 2章はこれにて完結となります、物語も長くなってきましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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