【特別編】仮面バトラーレンズ&ストリングス

遲?幕邏咎哩

EX 風呂と紙 1

 クリスマスを目前にして駅前を俺たちは歩いている。男と男で。ひしめく人々は何か無意味に浮かれ、また冬の寒さでナーバスになったりしている。

 一陣の風が吹いて、帽子が飛ばされそうになる。

 冬の風は冷たい。冷たさはやる気を減退させるが、俺は今動かなければならない。何故ならば俺の目の前を時間怪盗が通り過ぎたからだ。

 時間怪盗というのは文字通り、時間を盗む者である。それは日本の秩序を揺るがし、人々を恐れさせている。

 人々は突然現れた時間怪盗に怯え、我先にと逃げ出す。俺たち二人は人並みをかき分ける。


「草加さーん」

「乾」


 お互いに気づいたようだった。俺は全く無から目元に出現した赤い眼鏡をかける。草加は常時戦場の心構えがあり、常に黒いサングラスをかけている。


「「装着ッ!」」


 俺たちは時間怪盗と戦う仮面バトラーである。このお互いにかけているタイムレンズが、俺たちに超人的な能力と強化服パワードスーツを与える。

 お互いのかけていたレンズが発光し、光が収まると俺も草加も仮面バトラーに変身している。

 俺は黒い強化スーツの上に半透明で赤く輝く結晶装甲を纏い、黒いシルクハットを被っている。被る仮面はガスマスクを白く塗ったような形をしている。

 対して、草加の胸には穴が開き、紫色の強化スーツの上から黒い結晶装甲を纏う。胸部装甲の上を弦が走り、側頭部には糸巻(ペグ)が打たれている。

 この不可思議なスーツを装着者に与える機能を持つタイムレンズ。これは正体不明の『』が製造しており、原理はほぼ不明だ。

 そして時間怪盗と仮面バトラーは同じものだ。

 装着するタイムレンズが簡易版か『』の正規版かの違いでしかない。


「残念だったな、時間怪盗」

『適合値:100。結晶装甲、強化スーツ、装着のリクエストを実行します』


 と走り逃げる時間怪盗を追いながら話しかける。適合値:100云々というのはタイムレンズのシステム音声だ。数字が大きいほど強化スーツやタイムレンズ自体の特殊能力が強くなる。


「時間怪盗、抵抗は無駄だ。私には抵抗を打ち破る備えがある」

『適合値:87。結晶装甲、強化スーツ、装着のリクエストを実行します』


 草加はいつもの決まり文句を宣う。俺もそういう決まり文句考えた方がいいよなと思う。まあ暇なとき。


「『』のエージェントか!?許してくれ俺は真面目に衆愚から時間を集めているんだよ!」


 時間怪盗は俺たちの姿を見て命乞いをし出す。時間怪盗は一般人から時間を奪い、『』に上納している。俺や草加の姿が『』のエージェントに見えるんだろ。エージェントもこんな感じにタイムレンズで変身するから。

 時間怪盗は黒の強化スーツのみを装着し、土踏まずに小さいタイヤが付いている。ローラー付きシューズみたいだなと思った。


「俺は仮面バトラーレンズ。しがない探偵助手だ」


 探偵助手が本業で仮面バトラーは与えられた役目というか。世話になった恩人から託された呪いだ。しかし、俺が仮面バトラーであろうとするのは俺が自由意志で選んだことだ。


「警視庁時間犯罪対策班班長、草加タクミだ。この姿の私はストリングスと呼ばれている」


 草加は警察であり、かつ二代目ストリングスなんだが初代のことを俺は知らん。

 ストリングスが弦を伸ばして時間怪盗の足に引っ掛ける。時間怪盗は転倒し、顔面から地面にぶつかった。

 そこに追いついた俺は時間怪盗の頭を勢いよく踏みつけた。時間怪盗のタイムレンズが割れ、装着が解かれる。

 盗まれた時間もタイムレンズの破損と共に元の持ち主に戻っていく。


「十三時二十四分、現行犯逮捕ッ!」


 草加が時間怪盗だった奴に手錠をハメ、所轄の警察に引き渡し、事情聴取やなんかで一時間くらい使った。

 解放され歩いているとスーパー銭湯の看板が見えた。寒い日は熱い湯につかりたい。


「スーパー銭湯ありますし、ここらで一風呂どうすっかね」

「構わんが」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る