第2話イガイ アリ
「東堂さん、お一つどうぞ。」
「ありがとう。占いクッキーかい?。子供の頃食べたよ。懐かしいな。」
「昔からあるんですか?。私、初めて見ました。」
包装紙を破き、クッキーを二つに折ると、丸めた小さな紙片が出て来た。
『イガイ アリ』
イガイってなに?。
以外?、それとも意外かな。
ーあ、小野さんだ。いつも可愛い。いつか話かけたいな。でも、話かけて引かれたらショックだし。勇気ねー。あれ?、こっちくる。ー
「東堂さん、来週、一緒に旅行に行ってくれませんか?。」
ーえ?。小野さんが、僕に話かけてる?。一緒に旅行?。これ、ドッキリか罰ゲームかなんか?。ー
「え?。小野さんが僕とですか?。」
「ええ、伊豆に興味あります?。」
「熱海までは行ったことありますが、伊豆は未だ行った事ないです。海もきれいだし温泉もあっていい所だそうですね。」
ー僕、今普通に話せてるかな?。どっかに、隠しカメラとかあるのかな?。ー
「ええ、来週伊豆に行くことになったんですけど、一緒に行って欲しいんです。祖父の家が温泉付きの民宿をやっていて、そこに泊まっていただければ。もちろん、私は祖父の家に泊まります。」
ー占いクッキーが当たったかな?。もう意外があった。ドッキリでも罰ゲームでも良い。小野さんと話せてうれしい。旅行なんて最高すぎだろ。ー
「喜んでご一緒します。伊豆を案内してくれるんですか?。」
「ええ、それは子供の頃から夏を伊豆で過ごしていますから、任せて下さい。」
「あ、お待たせ。未だ待ち合わせ時間より前ですよね。」
「私も今来たところですよ。」
小野さんは白いワンピース姿、仕事場とは雰囲気が違う。
ーああ、小野さんのこの姿を見れただけで尊い。ー
東京駅から、伊豆急下田行きの「踊り子」で
左に海、右に山の景色を眺めながら熱海に到着。
「ポッキーどうぞ。」
「ありがとう。」
ーうわ、ポッキー似合ってる。ポッキーのCMに出られそう。ー
そして、三島を通って修善寺観光へ、次は竹林の小径を歩き、修善寺温泉にある小野さんの祖父の民宿に到着。
小さいけど、清潔感があって、懐かしい感じの宿だった。
「このお部屋を使って下さい。」
「ありがとうございます。小野さん。」
「お茶いれましょうか?。」
「いえ、大丈夫です。」
「夕食は7時くらいで良いですか?。」
「ええ、大丈夫です。」
「良かったら夕食前にお風呂にどうぞ。」
「はい、行ってきます。」
ーいやいや、緊張する。僕って「大丈夫です。」ばかり言ってるな。ー
小野さんに言われた通り浴衣とタオルを持ってお風呂に。
「あ、気持ち良い。温泉良いな、しみる。」
ーでも、どうして僕なんか、旅行に誘ってくれたんだろう?。ー
部屋に戻って、のんびりしていると、
「お食事を持ってきました。」
と、小野さんの声で、ドアを開けると、
小野さんもお風呂上りらしく、浴衣姿で、ちょっと髪が濡れている。
ー色っぽい。ダメだ。心臓が爆発しそう。ー
「 一緒に頂きましょう。」
「美味しそうだ。全部君のおじいさんが作ったの?。」
「そうよ、素材も現地の物を使ってるの。どうぞ、食べて見て。」
「 じゃあ、頂きます。うん、美味しい。新鮮。それに懐かしい優しい味。」
「気に入ってくれてうれしいわ。」
食べ物の話や今日訪れた場所の話で盛り上がる。
ーでも、「どうして僕を誘ってくれたのか?。」聞きたいけど聞けない。もどかしい。ー
「明日の予定は?。」
「大室山と城ヶ崎海岸に行ってから東京に帰ります。」
「大室山って有名だよね。城ヶ崎って吊橋があるんだった?。」
「ええ、門脇つり橋です。スリルありますよ。」
「そうなんだ。吊橋効果でその場に一緒にいる異性に対して恋愛感情を抱きやすくなっちゃうかも?。なんてね。」
「それが狙いなんです。」
「え?。どういう事?。」
「私、今年一杯で結婚してこの民宿を継ぐように両親から言われていて。職場では東堂さん以外の何人かの男性から、お付き合いを申し込まれました。でも、私、東堂さん以外じゃあイヤです。東堂さんが良いんです。」
ー『以外』も来たな。占いのイガイは以外か。ー
「東堂さんは誰か好きな人が居るんですか?。」
「僕はずっと小野さんの事が好きです。これ、罰ゲームとかドッキリじゃあないんですね。」
「罰ゲームとかドッキリ?。どういう事ですか?。」
「ごめんなさい。僕は自分に自信がなくて。でも、小野さんの事が好きな気持ちは本物です。」
「うれしい。」
「小野さん、僕と結婚を前提にお付き合いして下さい。」
「はい。お願いします。」
朝早く、朝食前に二人で民宿の近くを散歩した。
二人の距離は昨日よりも確実に近づいた。
僕はそっと小野さんの手を握った。
「朝早く散歩するのって、良いですね。」
「あら、崖が少し崩れて、散歩している道路にまで岩や土砂が落ちているわ。先週まで降り続いた雨のせいかしら?。」
「あれ?、まさか骨じゃあないですよね。いや、骨だ。昔、この辺、昔、墓地だったんでしょうか?。」
「さあ聞いたことないですけど。あれって、人の骨なんですか?。」
「たぶん。」
小野さんの祖父にも確認してもらい、人骨を発見したと、警察に届けた。
駐在さんが来て、書類を書いて、そんな事をしているうちにもう一泊する事にした。
二人は次の日、朝一で新幹線にのって会社に通勤した。
数日後、
「遺骸でした。」
と警察から連絡があった。
ー意外から以外そして遺骸。占いクッキーは全部網羅して当たったな。ー
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