とにかく当たる、占いクッキー
高井希
第1話カイトウ ニ チュウイ
「篠原さん、お一つどうぞ。」
「ありがとう。変わった形だね。」
「占いクッキーなんですよ。懐かしいでしょ?。」
「へえ、こんなのまだあったんだ。」
包装紙を破き、クッキーを二つに折ると、丸めた小さな紙片が出て来た。
『カイトウ ニ チュウイ』
カイトウってなに?。
怪盗?。
泥棒に気をつけろという事かな?。
仕事を終え、コンビニで夕食を買い、自宅にもどった。
「ただいま。」返事がないのは百も承知で、それでも声に出してみる。
ガランとした古く広い家。
何代前の当主が建てたころには何世帯が同居し、大家族で住んでいただろう。
そんな家に残されたのは、数年前に両親もなくなり俺が一人。
俺が使っているのは自分の部屋と風呂、トイレ、台所だけ。
「固定資産税も修繕費も馬鹿にならないけど、ここは俺が育った家だからな。」
コンビニ飯もすぐに食べ終えて、スマホを眺めていると、
ピンポーンと、インターホンの音がした。
「宅配なんかたのんだかな?。」
よっこらしょっと立ち上がり、玄関へ。
「はい、どなた?。」
「篠原健です。」
同じ苗字?、親戚に健さんなんていたっけ?。
「何の御用でしょう?。」
「ここは、私の家なんです。帰ってきました。」
「なにを言ってる。ここは俺の家だ。変なことを言うと警察を呼ぶぞ。」
警察は直ぐにやって来た。
交番の巡査で俺とも顔見知りだ。
「あなたですか?。ここが、自分の家だと主張しているのは。」
篠原健と名乗った男は俺と同じくらいの年で、ちょっと俺に似ていた。
「身分を証明するものを見せてください。」
巡査の言葉に、
「この家の奥の部屋に代々の当主の写真がかざってあるでしょう。自分の写真もそこにあるはずなんですが。」
「確かに奥の部屋に当主の写真がありますが、どれも古いモノです。念の為、奥の部屋を見てきます。ちょっと待ってて下さい。」
俺は奥の部屋に行き、写真を見ると、先々々代の写真と男は似ているように思え、スマホで写真を撮って玄関に戻った。
「確かに似ている写真はありましたがもう、とうの昔に亡くなった人ですよ。」
「私は人体冷凍保存の処置を受けて、昨日目を覚ましたのです。」
「人体冷凍保存を処置した会社の名前は解りますか?。」
男が懐から出した名刺に巡査が連絡すると、男の言った通り人体冷凍保存をし、昨日回答されたという事だった。
「では、あなたは俺の曽祖父ということですか?。」
「君は私のひ孫にあたるのか?。正一がどうしたか知っているかい?」
「正一は私の祖父の名です。祖父は三十年以上前に亡くなりました。」
巡査が話に割り込んで、
「では、我々はこれで引き揚げます。この家の所有権は既に、ひ孫さんに移っています。でも、親族なんですから、同居を考慮されたらどうですか?。」
「とりあえず、上がって下さい。客用の布団を引きますから、ゆっくり眠ってから、考えましょう。」
和食がいいだろうと冷凍の鍋焼きうどんを温めて曽祖父に渡すと、それをおとなしく食べて、客用の布団にくるまって寝てしまった。
次の日、目を覚ますと、曽祖父はすでに起きていて、布団はたたまれ、部屋も掃除されていた。
「ひいおじいさん、簡単ですが、朝食にしましょう。」
トーストとジャムと卵とコーヒーの簡単な朝食だったが、彼は黙って大人しく食べた。
「市役所に行って戸籍を取り戻さないと。ひいおじいさんはたぶん死んだことになってますよ。」
少しの金と市役所の地図と俺の連絡先を渡し、ひいおじいさんと駅まで歩いた。
途中コンビニに寄ってコンビニの使い方を教え、
「6時には帰ります。市役所の隣の図書館で本でも読んでいて、時間を潰してください。」
夕方帰宅すると、直ぐにひいおじいさんも帰ってきた。
「市役所から連絡が私にも来ました。失踪宣告の取り消しが認められ、戸籍が戻ったそうですね。」
「次は仕事を見つけたいんだが。」
「ひいおじいさんは何の仕事をしていたんですか?。」
「会計士だ。」
「そろばんは得意ですか?。」
「もちろん。」
ひいおじいさんは二つの幼稚園と家庭教師でそろばんを教えて生計を立てられるようになった。
家にも金を入れてくれるので、食費と家の修繕費に使っている。
それに、ちょっと教えただけで、スマホの使い方や、コンピューターまですぐに理解し使いこなしてる。
「ひいおじいさん、毎朝早起きして、剣道の素振りやいろんな運動をしているけど、凄い身体能力ですね。まるで忍者だ。」
「そうかい?。私の時代はみんなこれくらいできたんものだよ。」
「そうかもしれませんね。俺なんか歩いてるだけで息があがるのに。」
「篠原さん、怪盗Xの都市伝説聞きました?。」
「なんだいそれ?。」
「100年前の義賊が現代に現れて、悪徳政治家や経済界のドンからお金を盗んで、困ってる人にバラまいてるっていう話ですよ。まるで忍者みたいに素早くて、警察が捕まえれれないんですって。」
「いや、そんなのニュースになってないだろう?。」
「盗まれたお金が裏金とかで表に出せないから、盗まれた人が被害届を出せなくて、ニュースにならないらしいですよ。」
ー100年前から現れた、忍者みたいな人?。まるで、ひいおじいさんみたいだな?。ー
「また、ひいおじいさんが夜中に出て行った。」
解凍されて蘇ったひいおじいさんが、怪盗Xだという、回答がでた。
解凍、怪盗、回答、カイトウだらけだ。
占いクッキーから出た紙片を思い出した。
カイトウ ニ チュウイ
俺はどのカイトウに注意すべきだろう?。
ひいおじいさんとの暮らしは俺にとって心地よい。
怪盗X?。
法律を破る悪い奴を困らせて、困った人に金を渡すのが悪いことだと思えない。
占いは外れだな、だって、俺がチュウイすることは一つもないんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます