021 防衛します
一部検証ができていないスキルもあるが、モンスター相手でも効果があるのは純粋に嬉しい。
少々手間だが、捕獲できるものは〈窃取〉を試しても良いし、吸血でチューチューしても良いだろう。
俺にとっては発端であるが、基本的に雑魚で利益が少ないゴブリンはボーナスモンスターになると思っている。
人間に近いスキルを持っているだろうし、能力値をチューチューしても利益を得られるモンスターだ。
是非とも集落に潜伏したい。
『むーーっ』
「お肉が良かった?」
『うん』
「お腹空いたの?」
『うん』
まだお昼になっていないけど、早めの食事にするのも良いな。
「じゃあご飯にしよう」
『うん』
大福を抱えて一層の最奥に向かう。
五層ごとにボスがいるから、最奥に向かったところで階段があるだけ。
でも俺の目的地は、最奥に向かう手前にある分岐のハズレ側。こちらは行き止まりに落とし穴の罠がある。
このことは協会の掲示板に簡易地図とともに掲示されている。
多くの人はこの落とし穴をゴミ箱のように使っているが、中には目的階層へのショートカットコースに使っているらしい。
俺も五層に用があるので、一気にショートカットする予定だ。
「ここから落ちるからね」
『楽しそう』
可愛い。
肉を獲得できないことにストレスを溜めていたようだが、少し機嫌が良くなったようで嬉しい。
「3、2、1──」
『ごーーーっ』
地面がパカッと開き、垂直落下していく。
落下直後、地面が元通りに閉じて周囲は真っ暗になる。
──〈暗視〉
流石に昼間と同様には見えないが、暗視スコープよりかは見えると思う。
「あれか」
五層ごとに突起があるらしく、そこに立てればショートカットできるらしい。
「──着いた」
『はやーい』
ショートカット入口の周辺は一層と同様に洞窟型だが、五層には一部木立付きの草原エリアがある。
俺もここまでは来たことがあり、一番人気のエリアだ。
というのも、キャンプサイトとしても利用されているらしく、護衛付きの一般客もちょこちょこ見かける。
それに人工セーフエリアとしても活躍しているエリアで、グランピングテントで取引を行う企業も少なくない。
俺達は少し外れた位置で朝食の残りを食べた。
昨夜の焼肉で残った野菜と少量の肉で野菜炒めを作ってくれ、追加で出汁巻き卵も作ってくれた女性陣。
大福の前に置かれたそれのおこぼれをもらったわけだが、真を除いた男性陣はそれでも大満足だった。
『おいしい』
「美味しいね」
『うん。おねえさんたち、いつかえってくるかな?』
「いつだろうね」
副隊長と呼ばれていた女性は、帰れる機会が訪れたら迷わず帰って来そう。
出発するときも引きずられるように無理矢理車に押し込まれていたし、長時間大福の側から離れることは嫌がるはず。
『ぱぱ、きもちわるいひとがみてる』
「えっ?」
一瞬大福が悪口を言ったのかと思ったが、遅ればせながらスキル〈直感〉が発動し、視線の主の意図を悟る。
横目に確認すると、その者の視線は大福に釘付けとなっていた。
「次に進もうか」
『うん』
六層の階段はショートカットコースの近くであるため、往路を戻る。
その際、草原エリアで投石用の石を数個拾った。
武器での手加減よりも簡単かもしれないと思ったからだ。
「──待て待て」
後方から突然声をかけられ、同時に前後を挟むように六人の男女に囲まれた。
検証で吸血Lv一の状態は、一〇m以内に接近した対象一人に対してのみ発動し、外れると吸収が停止する。
が、回数に上限はないから、指定し続けている限り接近すれば自動的に吸収する。
そして、今は想定していた心が痛まない相手で、さらに一〇m以内に接近している状況だ。
──〈簡易鑑定〉
「どちら様です?」
会話で時間を稼ごう。
人間相手なら先に〈窃取〉をしたい。
しかし【案内人】で検証した通り、〈窃取〉は時間がかかる。
となると、足を砕いて動けなくさせる必要があるわけだ。
正当防衛を主張できるように胸元に付けたボディカメラを起動してあるが、一応応戦した形を取りたいから手を出されるまで待つことにしよう。
「俺達は【国防軍ギルド】の者だ」
「あーー。ドラゴンテイマーが所属しているところですね」
あえて、ギルドとは言わない。
理由は、政府が運営しているからだ。
主力は自衛隊で、警察官や消防官などがサポートする形で所属している義勇兵である。
別名【ヒーローギルド】。
称賛ではなく皮肉だ。
遅れて来るのがヒーローというものという共通認識に、美味しいところを狙ったかのように毎回遅刻してくる腹立たしさを組み合わせた結果である。
表向きには、マスターが「日色」という名前だからと通しているが、違うことは伝わっているだろう。
「そう、そのギルドだ」
「そちらがなんの用で?」
「俺達はテイマーを育成することに力を入れている」
「で?」
「だから、君さえ良かったらうちに来ないか?」
「お断りします」
「何故だ? まだ待遇に関しても説明していないぞ?」
「そちらに所属している方が先日協会職員とともに私の元に訪れまして、『俺の言う事を聞け』と言われましてね。断った後、後悔するぞって脅迫されたんですよ」
洗脳役の水崎湊が所属しているギルドは、政府の息が掛かった【国防軍ギルド】だ。
撃退した後に所属ギルドの別の人員の登場。勘繰らない方がおかしい。
まぁ付き纏うなという契約は、協会職員だけに向けたものだから誰か来ることは分かっていた。
むしろ、生き餌を寄越してくれることを期待していたから予想通りではある。
「誰のことだろう?」
「水崎湊って人です」
「あーー。俺達とは別の派閥なんだ。彼はテイマー育成事業に絡んでいない」
「それは嘘でしょう?」
称号【九尾狐殺し】の効果で虚偽を看破することはできないが、表情や感情を偽装するタイプのスキルを発動していた場合は無効化される。
つまり、本来の表情や感情を伺い知れるというわけだ。
「何故?」
「協会職員との会話で、私との話し合いの後はドラゴン娘のサブスクに行かないといけないと言っていましたから。事業に無関係な人物がテイマーに会って、なんのサブスクをなさるか教えてもらえます?」
「それは……」
滝のような汗に、顔面のピクピク感。
これで動揺してないって言うなら、彼は一度病院に行くべき。
「はぁ〜。もう良いじゃないですか。デートに遅れちゃいます」
戦士系の交渉相手が言葉に詰まると、交渉決裂を悟った魔法士系チャラ男が決着を催促し始める。
ちなみに、会話の最中に鑑定を終えている。
交渉役は、戦場武士。Lv三〇の狂戦士だ。
前方を塞ぐ三人の真ん中に立ち、同時に立場的にも中心的な存在らしい。
彼を挟んで両脇には魔法士系の男たちが立つ。
片方はチャラ男風の男で、一色清麿。Lv三五の呪術師らしい。
もう片方は黒井宇左というデブ。
Lv三一の魔術師らしい。
ザ・オタクという感じの男性がローブを着ていると、何故かコスプレした痛いやつという感想を抱いてしまう。
自分のことを棚に上げて言うもんじゃないと自省しつつも、なかなかイメージを追い出せず苦労している。
笑いが、笑いが止まらん。
「何がおかしい?」
「交渉する気があるなら暇な人だけが来ればいいのにと思いまして」
と言いつつ、デブ魔術師に視線を向ける。
前方三人に俺の意図が伝わったようで、本人以外の二人が笑いを我慢し始めた。
もちろん、本人は鬼の形相で俺を睨んでいる。
続いて、後方の三人。
中央には盾役らしきLv三〇の修行僧、白井巨大という名のチビが立っている。
その後方で、左右に広がりながら後衛職が武器を構えていた。本当に交渉する気があるのか甚だ疑問である。
弓で狙っている方は、狩野太狼。Lv二五の狩人で、六人の中で一番レベルが低い。
でも配置されていることを考えれば実力者であることが伺えるため、決して油断してはならない人物だろう。
最後は紅一点の那須与美。Lv二八の魔銃使いだ。
可能なら職業スキルも獲得したいが、おそらく無理だと思われる。職業が増えているわけではないから、職業スキルを得ても使いこなせるはずはない。
さて、獲物たちを狩る順序を考えよう。
今回は逃げられる心配をしなければいけない。
外見だけで判断するなら、後方の中でもさらに後方にいる二人だろう。
彼らの足を砕いてから、順に動きを止めるようにしていくのが一番効率が良いはず。
となれば、まずは正当防衛のためにデブを煽ろう。
「あの、暇人さん。せっかく来たのに会話をしなくていいのですか?」
「──いいかっ!? 僕達はっ国のために時間を割いているんだぞっ!? 邪魔するってことはっ反逆行為だぞっ?!」
「えーと……依頼者は政府ってことですね。【国防軍ギルド】は、政府とは無関係な組織だと表明していますしね」
「だからっ」
「おい、やめろ」
なおも言い募ろうとするデブを必死に止める交渉戦士。
「依頼人の素性をペラペラ話しちゃうプロ意識の低さ、脱帽ですわっ」
「──《
「バッカ野郎っ」
おっ。デブは水魔法持ちか。
吸収できても属性が解放されていないから使えないだろうな。
「攻撃を確認しましたので、反撃に移ります」
「コレで終わりだっ」
イキるデブに悪いが、簡単に避けれるから終わってあげることはできない。すまんな。
「んなっ」
周囲が驚いているうちに地を蹴って後方に跳びながら移動し、厄介そうな狩人の足を戈の鎚側で殴打する。
訓練の結果なのか反射なのか不明だが、両足を刈りにいった攻撃を躱され奥の足だけしか刈れなかった。
しかし、それで十分だった。
彼はその場で半回転して顔面から落下した。
称号【暴虐非道】の効果で威力が上がった一振りは、狩人の左足を半壊させ宙に舞い上げたのだ。
我ながら恐ろしい。
次は女性。
俺は一応男女平等主義だ。
良いことも悪いことも、酸いも甘いも全て平等。
特に自分に敵意を向ける相手にはね。
彼女も既に俺を攻撃対象と認識しているらしく、銃口を向けてきた。
だが、発射はさせない。
ポケットに放り込んであった石を、手首のスナップだけで素早く投擲。
スキル〈投擲〉の効果もあり、銃を持つ手に命中した。
痛みで握りが緩まり銃が落下仕掛けた瞬間、距離を詰めて足を刈る。が、小型の拳銃をサブウェポンとして隠し持っていたようで、近づいた瞬間左手で狙いをつけられていた。
──〈眼光〉
称号【聡明叡智】の効果でLUC値を上げておいたおかげで、期待通りにスタン効果を発揮してくれた。
動きを止めた彼女は、足と両手を砕いておくことにした。
ついでに狩人の彼も。
自殺防止対策もしたし、後は盾役要員の戦士たちと鈍足の魔法系たちだ。
張り切っていこう。
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