019 送別します

 まず、窃取したスキルを確認しよう。

 トイレに行きがてら、個室でステータスを展開する。


「ステータス」


 前半は変化してないから無視して、スキル欄を見る。


 〈スキル〉

  加護:悪運

     金獣母神

  固有:変化

     動作確認

  職業:金鵄羅眼 Lv1

     金蚊鉄蠍 Lv1

  通常:直感   Lv2

     投擲   Lv2

     貫通   Lv3

     衝撃   Lv1

     黄魔法  Lv1

     金魔法  Lv1

     地図作成 Lv1

     短剣術  Lv1



 スキル〈動作確認〉は固有か。

 内容も良い。

 一部文字化けするが、試運転時に鑑定のように情報が開示されるらしい。


「職業スキルは無理だったか」


 さすがに金色ダンジョンのスキルだったとしても、Lv一のスキルでは職業スキルを奪えなかったか。


 それから〈動作確認〉で珠を鑑定したが、錫杖の音が発動のトリガーになっているらしく、両方が揃わないと発動しないらしい。

 まぁ敵の切り札を奪えたわけだから、当初の目標を達成したことに満足しよう。


「大福ーーっ。ただいまっ」


『ぱぱ。おかえり』


 病院の外で女性陣に囲まれた大福を迎えに行き、検査と治療を終えた雪平を連れて帰宅する。

 途中スーパーに寄って食料を買い込んだ。

 雪平は恐怖が忘れられないということで、今日は我が家に泊まるとのこと。

 それに伴い、女性陣がいた方が良いだろうとゴリ押しされて護衛隊の女性陣も泊まることになった。


 でも、我が家に布団はない。

 彼女たちも準備がない。

 ということでやってきました、ドン・ロシナンテ。


 大容量で低価格を実現する熱情価格のおかげで、ついついたくさん買ってしまう。

 覚醒者に対する商品も多く取り扱っている関係で、従魔も入店OKの優良店だ。


「早くしろよー」


 キャッキャウフフとはしゃく女性陣に対して、真が空気をぶった斬るように言い放つ。


「団長っ。もっと若者らしく行動しましょうっ」


「お前たちは大人らしく仕事中という意識を持つべきだな」


「護衛対象が恐縮しちゃう空気づくりはプロとして良くないと思います」


「お前たちが護衛すべき対象は、俺っ。全然恐縮してない」


「そう言えば……」


 女性陣と同様に俺も忘れていたけど、そもそも真の護衛部隊だったな。


「…………覚えていますとも」


 全員視線を合わせないんだな。

 つまり、全員忘れていたと。


「はぁ……」


 その後は真の叱責もあってサクサクと買い物を終え、帰宅したときには辺りが真っ暗になっていた。


「やっべ」


 パソコンのセットアップに来てくれた人を待たせてしまったようで、謝罪しつつ設置場所に案内する。


 取り付け後にもう一度謝罪と御礼を伝える。

 田舎の数少ない家電量販店で、今後行きづらくなるというのは避けなければいけない。

 それに自らのミスが原因ならば、謝罪するのが当然だろう。


 まぁ後方では真が買い物を楽しんだ女性陣のせいだと言って、逆に猛反論を喰らっているけど。


「団長。それでどうしてモテているのか不思議でなりませんっ」


「俺も不思議」


「それは私たちも敵に回しますぞ?」


「そうよ。モテない男性陣もいるのよっ?」


「お前が一番酷い」


 ちなみ、雪平は晩御飯を作ってくれている。

 被害者なのに、一部女性陣に混じって料理をしていた。


「真くん。会議始めるって」


 正宗さんは絶賛仕事中。

 女性陣が一泊すると決まったときから、真の母親に護衛のローテーション確認などを再調整したり、営業部にドラゴン娘のことを指示したり、研究開発室に緊急会議を指示したりと、山程の仕事を熟していた。


「画像を送っておいてくれた?」


「はい」


「ありがとう。じゃあ始めるから、向こうのドアには入らないように」


「はーい」


 拳銃型魔法発動体についての開発会議を始めるようで、真と正宗さんは護衛隊長を連れて和室に向かった。

 和室だから鍵はない。

 それゆえの注意だろう。


「大福。みんなに遊んでもらいな。明日からいないからさ」


『うん。遊ぶ』


 いないって言ったときの女性陣の顔。

 絶望を滲ませていた。


 俺はその間に小物類をポチポチさせてもらおう。

 今日中に決済し終われば、明日到着する指揮車に積んできてくれるらしい。


 お金に余裕があるから、迷ったものは全て買おう。

 状況によって使い分けてもいいしね。


「先輩もダンジョンに行くんですか?」


 料理を配膳しに来た雪平が、ダンジョン用品を購入している俺を見て不思議に思ったらしい。

 バイト中に誘われていたダンジョン攻略を全て断っていたから、いきなりどうしたって思うのも当然だ。


「大福を飢えさせるわけにはいかないしね」


「じゃあ今度一緒に行きましょうっ」


「学校のパーティで行くんでしょ?」


「授業だけですよ。休日は自由なんです」


「うーん。機会があったらね」


「作りますねっ」


 学生が学外の覚醒者ダンジョンに行く場合は、基本的に同じギルドに所属している人とのみ行動するらしい。

 仮に別のギルドに所属している人と行動して問題が起こった場合、ギルド間の問題に発展する可能性があるからだ。

 俺は今のところギルドに所属しないフリーで行動しようと思っているから、雪平と行動して悪い方に転がるのは良くないと思っている。


「いただきますっ」


 面倒なことは横に置いといて、今は晩御飯の焼肉を楽しむことにしよう。

 大福も待ちきれないようだしね。



 ◆



 翌日。

 指揮車の到着と同時に、交代要員が到着する。

 彼らは本日からホテル暮らしとなり、毎日俺の家に出勤してくるそうだ。

 同時に、絶望の表情で大福とお別れをする女性陣。


 大福は昨夜と今朝の食事が大変満足いくものだったらしく、作ってくれた雪平や女性隊員と離れることを悲しく思っているようだった。

 お互い感動の別れを済まし、学校に行かなければいけない雪平を伴って出発した。


 なお、雪平は【鳳あんしんサービス】と契約し、警護を派遣してもらうことにしたらしい。

 一般人でも出入りができる大学なら、校内での警護も可能ということで契約を決めたらしい。毒坊が簡単に引き下がるとは思えないので、少しは安心できるなら良かった。


「騒がしいやつらは出発したか」


 昨夜遅くまで仕事をしていた真は、女性陣が出発したあと起きてきた。


「そういえば真も一度本邸に帰らないといけないんでしょ?」


「あぁ。そんなこと言ってたな。翻訳ソフトが一段落したら帰るわ」


 別に暗号は逃げないよ?

 帰宅を優先した方が良くないか?


「宗真はどうするんだ?」


「指揮車が小物を持ってきてくれたから、少しダンジョンに行ってみる」


「車ないけど、近くにあったっけ?」


「麓に小さいのがあるよ」


「迎えが欲しかったら連絡してくれ」


「ありがとう」


 ペストマスク含む装備を整え、戈を背中のホルダーに固定して衝動買いした電動キックボードに乗る。

 立っているから背中の戈も邪魔にならないし、折り畳めるからダンジョン管理部のコインロッカーに入れておける。

 車のトランクに収納できるからこそ、真も迎えに行くよと言ってくれたと思う。


「相変わらず奇天烈な格好だな」


「近寄りがたさがあるでしょ?」


「間違いない」


 マットブラックのキックボードに乗り、俺はダンジョンへと向かうのだった。



 ◆ ◆ ◆



 宗真が出発したあとの宗真の家では、先日のショッピングセンター事件について話されていた。


「隊長。この家の少年って有力覚醒者なんですか?」


「何故?」


「昨日のショッピングセンターのことを聞いたんですけど、四人とも金銭的な問題で転職できないだけで、かなりの実力者だったらしいですよ」


「それで?」


「それを無傷で制圧したんでしょ? 団長と同じ年齢だとしたら時間的にも同レベル帯は無理でしょ? となると、職業に恵まれた有力覚醒者かなって」


「第一に有力覚醒者じゃない。第二に彼は覚醒前から強かった」


「覚醒前から、ですか?」


「あぁ。団長が高校生のとき、我々は校内での護衛を許可されていなかった。学校側が猛烈に反対したからな」


 それは当然だろう。

 学校を信用していないとも取れる発言をし、あまつさえ護衛が必要な問題が起こる前提というのも腹立たしい発言だ。


 護衛も実際の経験を元にした発言ゆえ仕方がないのだが、当時の隊長は学校側への配慮が足りなかった。

 そして頑なになった学校側に反対されたせいで、校門への送迎しか許可されなかった。


「結局問題は起こった。相手は殴られても得をするように仕向けたらしく、病院送りを覚悟したらしい。しかし、話を聞いて駆けつけてくれた宗真くんが全員制圧してしまったそうだ」


 後ほど追及されても良いように、たどり着くまで集団暴行の様子を動画で撮影し、虐めれられていた友人を助けたという弁護しやすい構図を作ったらしい。

 もちろん、宗真くんも怪我をした。

 でも、決して団長に手を出さないように徹底させたという。

 全ては団長の立場を考えて。


「当時から護衛を担っている者たちで宗真くんを侮る者はいない。そして職業で実力が決まることもないと、全員が心に刻んでいる。新人だからといつまでも学生気分だと、あっという間に置いていかれるぞ?」


「お、俺──じゃない。私も訓練頑張りますっ」


「うん。もう少しで道場見学があるが、周りに流されないように自分で選ぶように」


「はいっ」


「みんな期待しているから頑張れよ」


「頑張ります」


 何故なら、彼はデスクワークも戦闘もできる期待の新人だったから。

 本社含むグループ全体でドラフト一位の新人。

 さらに、何故か奥様の推薦もあった。


 他の採用担当は奥様との繋がりが欲しくて採用したかったようだが、我々は違う。

 わざわざ名前を出してドラフトに出したということは、何かしら意味があり、我々に絶対に採用しろという圧力をかけたということ。

 それも他者にも知らしめる必要な何かがあるのだろう。


 そもそも本当に推薦する気があるなら、ドラフトなんかに出さず希望部署にねじ込めば良いだけ。


 面倒なことこの上ないが、前日に連絡が来て「採用しません」なんてことは俺にはできなかった。

 そのようなことをすれば俺は妻に殺される。

 正座地獄で済むはずがない。絶対に。


「まぁ団長に任せるか。それが良い」


 興味津々に元気に仕事を引き受ける新人を眺め、これから起きるだろう大量の事件に憂鬱になりながらも、若かった頃の自分を思い出し、胸を躍らせていた。



 ◆ ◆ ◆





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る