常世の番人

@kaku10

第1話 鬼の門

平日の昼間。普通の学生なら学校へ行き勉強をしているであろうこの時間に、人を殴る物騒な音が聞こえてきていた。


ーバキ!!


「ぅぐあ!!」


「っふー。なんだ?もう終わりか?」


「っそ…女のクセに…」


この町ー幽世町ゆうせちょうーに住んでいる有名な不良。


秋野金華18歳。男にも負けない腕力、負けん気の強さ。そして何よりその鋭い目に睨まれれば下っ端は腰を抜かし立てなくなる。と言われるほどの敵なし不良JKだ。


そんな金華はまた喧嘩をふっかけられめんどそうに相手したものの、数分で勝利を勝ち取っていた。


「その女に負けるようじゃぁ喧嘩売る資格ねぇーよ。じゃな、見掛け倒し」


「なっ!?待ててめぇ!!逃げんのか!?」


「おーおー。これが負け犬の遠吠えってな。」


ケタケタ倒れた不良を指さしバカにしたように一通り笑ってからその場を離れる。


つまらなそうにフラつきながら、さてどこに行くか。と一人呟いた。


「…ここ、取り壊すのか?」


行くあてもなくフラフラとぶらつく金華が足を止めたのは”現在解体工事中”と横断幕にデカデカ書かれた廃寺。


幼いころから見てきていたその廃寺はたしかに、地震でもきたら崩れ落ちそうなほど脆い物だった。


だから取り壊しには納得できるものの、少しだけ寂しいな。なんて思ってその寺の最期を見届けようと眺める事にしたのだ。だが…


「な…んだ?この悪寒。」


ゾワリとした全身を縛るような冷たい空気。


廃寺を眺めていた金華からは大量の汗が吹き出ている。


何かあった。そう直感して急いで工事現場の中まで走れば、目に入った光景に驚き警戒した。


「なんで大人達が倒れてんだよ。通り魔か?」


大きく空いた地面を囲むように倒れて白目を剥く大人達。パッと見、外傷は無さそうだが起きる気配もない。


周りを見ればショベルカーに乗った作業員までもが気を失っているこの異様な現場のさらに上を行く異質な物が金華の目に飛び込んできた。


「なん…だ…これ。」


ズゥンとそびえ立つ大きな鬼の顔。


黒く薄暗い青色の煙が立ち込め寒さを倍増させる。


ヤバい。


これはヤバい代物だ。


そう確信するには十分すぎるほどの存在感だ。


「すっげぇ…。よく分かんねぇけど、すげぇ。」


ギィィ…と少しずつゆっくりと開く鬼の顔に頭の中の警笛がビービーと鳴り続ける。逃げろと第六感が告げているんだ。


だが金華はそんな警笛も、破裂しそうな程にバクバクと動く心臓も何もかもを無視して好奇心のままにその開いた鬼の顔に触れてしまったのだ。


「!?!」


途端に目の前が真っ暗になる。


ねっとりとした気持ちの悪い感覚が全身を包んで暗闇に放り出された。


だんだんと寒さが濃くなるその暗闇に、金華は閉じた目をゆっくりと開けそしてー…。


「どこだココ。」


見た事もない知らない街に出ていた。


「すげぇ。ファンタジーの世界みてぇ。」


座り込んでいた姿勢から立ち上がり、辺りをキョロキョロと見回しては漫画に出てくる遊郭のようだとその煌びやかさに目を奪われる。


さっきから大慌に声が飛び交うのも無視して非現実的なその世界を堪能するように歩き出した。


『あれ?お前人間か!?』


「あ?だからなんだよ。てかなんだてめぇ、その見た目。」


『お、女…だよな?』


「おーよ」


途中、声をかけられて目線を前に戻せば和服を着た筋肉質な男が自分を見て驚いている。


現代では見慣れない、着崩した着物の隙間からは逞しい胸板がコンニチハだ。


その姿をマジマジと見て、すぐに強い。と判断をした金華はその男の顔をジーッと見上げた。


『マズイな…まさか人間がこっちに来るなんて。とりあえず兄貴に報告しねぇと』


「なぁおい。お前強いだろ?」


『なんだ藪から棒に。そりゃ人間よりかは強ぇだろうよ。それよりここを離れるぞ、お前には危険だ』


「あ?なんで。」


『見て分かんねぇのか?ここには妖や悪霊がわんさか…え゛。』


「妖?あいつらか?」


クイッと親指を後ろに向けたそこにはドッサリと積み上げられた妖怪の山。


歩いている時に刃向かってきていた妖怪達は皆、金華の餌食になっていたのだ。


その事にさらにギョッと目を剥く目の前の男は金華を凝視してさっきよりも真剣な顔で手を取り足早に歩き出した。


『来い。ちょっと頼みてぇ事がある。』


「は!?おいなんだよ!!手ぇ握んな変態!!」


『少しの間だ。ちょっくら番人に会ってもらうぜ』


「番人?なんの」


『ここ常世の番人だ。』


常世。


そう聞いてキョトンと黙る金華。


そんな金華に目もくれず歩くスピードを緩めない男は、慌てふためくこの常世の街の者達をすり抜けフワリと消えていった。

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