ヘルゲートアヴァロン ~エッチなモンスターでダークファンタジーを攻略します~

神谷モロ

第1話 プロローグ

 3024年。

 地球型惑星アーススリーに本格的に人類が入植して数世代が過ぎたころ。

 主に日系人が住む特別行政区ニュージャパンシティーに暑い夏が来る。

 

 アーススリーの環境は地球によく似ている。

 自転周期や平均気温、衛星の周期もほとんど地球と同じで、あえて違いを言うならば、大陸の配置や地球に比べて海の面積が大きいことくらいである。


 発見当初は全球凍結状態であったため、高度に進化した生命体はおらず、手付かずの大地はまさにフロンティアであった。

 故に地球の動植物をこの星に定着させるのに百年とかからなかった。


 アーススリー特有の広大で美しい海はリゾート地として有名である。

 夏季休暇を楽しむために他の地球型惑星からも観光客が訪れるほどだ。



 だが、人類すべてが海が好きという訳ではない。


 海が嫌いなごく普通の女子高生、カスガ・シズネは夏休み前日の一学期最後の登校日だというのに大きく溜息を吐く。

 

「あーあ、夏ってやだなー」


「同感ー。汗かくし下着が透けるし? ふふ、シズネっちのエッチな体が見たい放題?

 これはこれでありだぜ、ぐへへ。

 おっと、蔑むような目をしないの、一般的な男子目線? での感想です。

 そういえばまた大きくなったんじゃない? グレープフルーツ……、これは数年と待たずにメロンに育つのでは……うーん魔性ですわー」


 そう言うのは同じクラスの女子サンジョウ・シズカ。


 小学校の頃からの親友である。

 シズネとシズカ。名前が似ているという理由で直ぐに二人は友達になったのだ。


 中学時代は別の学校に通っていたので、その間はお互いに疎遠になっていた。


 高校で再会したとき、最初はシズネはシズカのことを分からなかった。

 小学校時代の面影はあるものの外見が大きく違ったのだ。


 本人曰く、ギャルを目指しているそうで、陰キャを自称するシズネにしてみれば、派手なメイクをしているシズカは自分が話していい人種ではないと思っていたのだ。


 そして良く下ネタを言うようになった。

 シズネはそういう話は同性であっても苦手である。


 シズカと違って、引っ込み思案な性格は高校生になっても治らなかったのだ。


「もう、シズカちゃん。そういうのよくないよ? でも水着はいやだなー。夏休みだからって、なんで皆海に行きたがるんだろう……」


「おう、そっか今年の水着を買わなきゃだ。その前にダイエット? あたしはシズネっちと違ってまな板ボディーだからさ。せめてプロポーションをマシにしたいし?

 ……でも、本音を言えば、めんどくせー。夏なんだから冷房の効いた部屋に籠ってアイス食べながら一日中ゲームしたいじゃん?」


「シズカちゃん。ギャル目指すんじゃなかったの? それじゃ陰キャだよ、私みたいになっちゃうよ?」


「ちっちっち。シズネっち、ゲームについての認識が間違っているぞ? 

 ゲームとは最先端のテクノロジーの結晶なのだ。むしろパリピの遊びではないかとあたしは思っている! 

 まあ親御さんとしては子供がゲームに嵌まるのは良しとしないだろう。

 でもあたしらはもうJKよ? 大人といっても過言ではないのだ。ってことでシズネっちあたしとゲームやらない?

 どうせ夏休みの予定ないっしょ?」


 やけに演説臭いと思っていたら、どうやらシズカはシズネをゲームに誘いたいだけであった。


「……予定は、確かに無いけど、一応読書とか映画みたり。お菓子作ったりとか考えてたんだけど」


「不健康! 引き籠り! シズネっち、それは良くないよ。

 そんな陰キャな君にお勧めのフルダイブMMOがあるのだ。『ヘルゲートアヴァロン』っていって。

 今一番熱いゲームなのだよ。かくいう私もドはまりしているタイトル。ゲームとはいえ、中身は一人の人間。

 パーティーを組んで、ネット上の人達と一緒に遊ぶこともできる。……私はずっとソロだけど……」


「なんだ、シズカちゃん、ゲーム友達が欲しいだけじゃん。ギャルやってるのになんでそこは人見知りなのよ」


「う、うるさい。なんか勝手が違うっていうか? 相手は年上かもしれないし? ちょっと緊張してるだけだって。

 でも面白いのは本当だから。

 どう? やってみない? 夏休みだけでもいいからさ」


 そこまで真剣に頼まれたらしょうがない、確かに夏休みの予定はないのだとシズネは自嘲気味に頷くのだった。


「わかった、確かにずっと引き籠ってたら親は心配するし、フルダイブ? ネットで会話できるゲームがあるから、それで人見知りを直したいって言ったらきっと許可がもらえると思うから……」


「ほんと? さすがは心の友。朗報を期待してるぜ!」



 ――その日の夜。



 夕食を終え、片づけをしようと母親は席を立とうとした。


「あの、お父さん、お母さん。お願いがあるんです!」


「まあ、何かしら? シズネからお願いだなんて、珍しいこともあるのね」


 母親はそのまま席に座り直す。


 シズネにとっては緊張する場面だった。


「……あの、実は、ゲーム機を買ってほしくって。シズカちゃんが誘ってくれたの、そのフルダイブのネットゲーム?

 それで、夏休みの間にいろんな人とお話して人見知りの性格を直せたらって……」


 …………。


 ……。


 少しの沈黙、そして父親はやや目に涙を溜めながら答えた。


「母さん! シズネが、初めておねだりしてくれたよ! パパはこの日をどれだけ待ったことか!」


「ほんとだわアナタ。それに人見知りの性格を直したいだなんて、シズネも大人になったのね、お母さん嬉しいわ」


 二人は手を取り合い泣きながら喜ぶ。

 シズネとしては少し大げさだと思った。


 父は普通のサラリーマンで、母は専業主婦の一般家庭。


 裕福ではないが不自由は何もない。

 一人っ子であるため、ずっと甘やかされていたのだと最近になって気付いたくらいだ。


 思えば、両親が喧嘩をしたことなど記憶の限りで一度もない。

 家族で出かけるときは少し恥ずかしいくらいだ。


 しかし、両親の仲がいいのは幸せなことで、神様の祝福のおかげである。

 だから決して恥ずかしいと思ってはならない。


 そんな言葉を小学生の頃にシズカに言われたのを思い出した。 

 

 ちなみにサンジョウ・シズカの実家はニュージャパンシティー中央にある聖アマクサ教会である。


 歴史は古く、アーススリー入植時から存在する由緒正しい教会である。

 

 ご両親はシズカのギャルファッションを良く許可したなと改めて思うのだった。


「シズカちゃんって、サンジョウ神父のお嬢さんだろ? きっとこれも神様のお導きだ。

 よーし、ここはパパにまかせなさい。明日には届くように、今すぐガンジスお急ぎ便で注文しようじゃないか」


 父親は早速タブレットを開き、銀河最大の通販サイトガンジスにログインした。


 なんの問題もなく父も母もシズネがゲームをすることに賛成してくれたのだった。



(でもこれからやるゲームのタイトル『ヘルゲートアヴァロン』だっけ……。

 シズカちゃん……教会のお嬢さんなのに、そんな禍々しいタイトルのゲームをやってていいのかな……)


 もちろん、ただのゲームに目くじらを立てるのは良くないと分かっている。

 だが、何か悩みがあるのかと少し心配してしまうシズネであった。


 翌朝。


 昨日は緊張したのか、今日はいつもより早起きをしてしまったシズネ。


 今日から夏休みである。

 どうせなら学校がある日に早起きできたらと、我ながら自分の鈍くささに呆れるのだった。


 両親はまだ寝ているようだった。


 すっかり目が覚めているシズネは二度寝をするのも無理だと思い。

 洗面所へ向かう。


 何か違和感を覚える。

 

 大きな段ボール箱が玄関先に置いてあったのだ。


 段ボール箱の中央には大手通販サイト、ガンジスのロゴがでかでかと書いてある。

 

 さすが銀河最大の大手通販サイトだと感心すると同時に、少し恐怖を覚えるシズネであった。


「あはは……さすがに届くの速過ぎなんじゃ……私だって心の準備がまだっていうか」

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