生まれたての子鹿

 これから語る内容は、脳内で共有された情報のみだけを取り扱うので、全てが正確な情報だとは限らない。





 景叶けいとはずっと寝たきりであり、交代条件は深夜である事とベッドの上であるこの二つをクリアしていれば交代が可能な青年である。

 彼は、立つ事も、ただ座る事も、歩く事さえ困難な状態で生まれてきた。交代する際は、身体が鉛のように重たくなり、視界がぼんやりとして、何故か寒気を感じ、気づけば交代している。そして、もう一つは脳全体が痙攣している感覚に陥る。彼の状態が悪ければ悪いほど、私に対する負担も大きくなっていくので、場合によれば息が荒くなってきたり、体温が上がっていくような感覚にまでなる。

 もう一人が出てくるまでの数ヶ月間、彼は不定期に外の世界へ出たがって、私と交代するという日があった。

 どれくらいの期間、彼は歩けずに寝たきりだっただろう。しかし、あんな生まれたての子鹿のような状態から、よく普通の人のように歩けるようになったものだ。だが、その期間もそう長くは続かなかったという情報もある。

 プロフィールにもある通り、彼は重度の鬱のような状態であり、常にネガティブな感情を持っている。身体も虚弱な故、いくら私と交代したとは言えども、彼の役割は単なる身代わりにしか過ぎない。

 ある日、そんな彼にも良い思い出はあったらしく、歩ける時は普通に歩いて、街を探索した。そして、何よりも食を楽しんだ。少しずつ皆と同じような暮らしが出来てきたが、また、彼の精神状態が悪化して交代しなくなってしまった。

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