【短編】おきなわーるど

田中子樹@あ・まん 長編3作品同時更新中

第1話 異世界にやってきた


故郷の千葉県を離れ、沖縄県豊見城市へやってきた。

沖縄本島の南部にあって空港にほど近い住みやすい街だ。


ボク……涼宮匠すずみやたすくは4月から中学1年になったばかり。

小学生の頃から異世界モノのアニメを観るのが好きなのだが、リアル異世界に来てしまうとは思ってもみなかった。


まず、G……ゴキがデカい。

見た目もグロテスクな上に動きが速い。

換気のために夜、少し窓を開けただけでヤツが飛んで侵入してきた。


「ひぃ~~~っ!」


悲鳴を上げる父親に母親が新聞紙を丸めて立ち向かうが、あまりにも動きが速くて捉えられない。挙句にボクに向かって真っすぐ飛んできたので、トラウマになってしまった。結局、殺虫剤に切り替え、家中を殺虫剤まみれにしてようやく倒したので、翌日から我が家は夜に窓を開けるという愚かな行為をしなくなった。

絶対、あれって異世界の魔物だと思う。普通のGじゃないもん。



それにある日、不発弾処理というもので中学校から少し離れた公民館に避難した。

不発弾処理というのは沖縄では日常茶飯事で、誰もそのことに触れない。


学校の運動場脇の倉庫の建て替えの時に地中で見つかったそうで、2時限目から規制線が張られ、立ち入り禁止になっていた。


公民館で3時限だけ体育をして戻った頃には、不発弾は処理された後だった。

みんな異様に慣れている……。


「爆弾の大きさで半径何百メートルとか避難する範囲が決まってるさー」


隣の席の女の子に質問したら、そんな答えが返ってきた。


いやいやいや、あっさりしすぎじゃない?

やっぱりここは異世界なのか?


その日、家に帰って調べてみると沖縄は戦後、不発弾がたくさん見つかっていて、地元の人はその状況に慣れてしまうという悪循環が起きているらしい。







「千葉県わかるよ、東京の隣やっし」

「おお~~っ」


おおっ~~っ、ってなんで?

ボクが本土からの転校生だとわかると、クラスの男子が二人近寄ってきた。

一人が自慢げに胸を張ると、もう一人が手を叩いて感心している。

ちなみに本土の人のことを沖縄の人は本州、四国、九州をひっくるめて「内地の人」と呼ぶ(北海道は別)。たまにナイチャーと呼ぶ人もいるが、差別的なニュアンスが含まれているらしく、使わないように気をつけている人と悪気はなく、ただ何も考えずに呼ぶ人に分かれるらしい。


「わんのしーじゃーがはたらちゅん」


ゴメンなんて?


よく聞き取れなかった。

いや、そもそも彼は今、日本語をしゃべっただろうか……。


「『僕の兄が、千葉県で働いている』って言ってるよ」

「そっそうなんだ。ありがとう」

「まあ、僕も少し聞き取れる程度で話せないんだけどね」


標準語を話せる男子が通訳してくれた。

方言を話している子は、祖父母と一緒に暮らしているらしく、そういった子は今でも方言を話すことができるそうだ。




……うーんやっぱり異世界。







【うちなー辞典】

沖縄のゴキブリはワモンゴキブリという外来種がもっとも多く、大きくてとにかく動きが速く回避能力が高い(たぶんニュータイプ)。そのうえ飛行能力を持っています。人間の顔(髪の毛など黒いモノにたぶん反応してます)に向かって飛んでくるので一度でも味わうとトラウマ確定です。沖縄でもし見かけたら戦うか逃げるか即決めて行動に移しましょう。

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