ラストスプリング。

春羽幸

プロローグ

プロローグ

 もう一生恋をしないと決めていた俺に、彼女ができた。


 いつもの通学に使っていた、何も変哲のない道。

 それまではただの風景の一部でしかなかったこの道が、今は少しだけ違って見える。


 目の前を歩く彼女の背中。

 ふとした瞬間に振り向いて、微笑む表情。


 ――まるで、春の陽だまりみたいだった。


 彼女は俺の人生に、また新しい季節を連れてきた。


 それまでは赤の他人だったはずの人が、ある一つの出来事で彼女を助けたいと思ってしまったことが、すべての始まりだった。

 

 「恋なんて、もう二度としない」と決めていたはずなのに。


 それでも。


 彼女と話すたび、彼女のことを知るたびに――気づけば、また誰かを好きになる気持ちを思い出していた。


 戸惑いはあった。

 怖くなかったと言えば嘘になる。


 けれど、あの冬の日々が、彼女が俺に教えてくれたことが、心の奥で囁いた。


 『人を愛することを、もう一度信じてみてもいいんじゃない?』


 俺は、彼女を好きになってみたいと思った。

 一緒に生きてみたいと思ってしまった。


 たとえ、まだ少し怖さが残っていたとしても。

 たとえ、この気持ちがどこへ向かうのか分からなくても。


 それでも――俺は、もう一度前を向くと決めた。


 桜が風に舞う道を、彼女と並んで歩く。

 これが、俺の新しい春の始まりだった。


 そんな俺と、彼女の、春が来るまでのほんの少し不思議な恋愛の話だ。

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