ふたりの執愛
青藍
ふたりの執愛
春の暖かな陽射しが差し込む放課後、直人は学校の裏庭のベンチで一人、ぼんやりと空を見上げていた。最近、心が少しだけ重く感じる。美咲と紗菜、二人の間で揺れる心――それが何となく、彼の中で絡まりあっている。
「直人くん…」
その声に振り向くと、金髪の美咲がニコニコと近づいてきた。彼女はいつも元気で、直人にとっては心の支えだった。
「どうしたの、疲れた顔して。」
美咲は直人の隣に座ると、彼の肩を軽く叩いて微笑んだ。その目は、少しの不安も見せず、ただ直人を見つめていた。
「うん、ちょっとね…」
直人はぎこちなく笑いながら、顔を逸らす。美咲が近くにいると、心が落ち着く一方で、なぜか胸の奥が締め付けられるような気持ちになる。
その時、背後から静かな声が響いた。
「直人くん…」
振り向くと、そこには黒髪の紗菜が立っていた。彼女の表情はいつも冷静で落ち着いているが、直人が彼女と目を合わせると、その瞳の奥に強い感情を感じ取ることができた。
「紗菜さん、どうしたの?」
直人が問いかけると、紗菜は少し微笑みながら答えた。「ただ、直人くんに会いたかっただけ。」
「うん、でも…今日は美咲と一緒にいたい気分だから。」
美咲が口を開くと、少し勝ち気な笑顔を浮かべて言った。
「今日は直人くんと私だけだから、紗菜さんはまた今度ね。」
その言葉に、紗菜は一瞬目を細めて、微かに唇を引き結ぶ。直人は、その険しい表情を見逃さなかった。
「でも…」紗菜が声を低くして言う。「私だって、直人くんに会いたかったんだ。」
二人の間で空気が一瞬、重くなった。直人はその場の雰囲気に圧倒され、どうしていいのか分からずに目を伏せた。
そして、二人が再び同時に言った。
「私は直人くんが大好き。」
「私も、直人くんしかいない。」
その言葉に、直人はしばらく固まった。美咲も紗菜も、顔に微笑みを浮かべながら、彼を見つめている。その瞳には、ただの愛だけではない、もっと強い、執着とも言える感情がこもっていた。
「どうして…?」直人は、恐る恐る尋ねた。
美咲が少し首をかしげて、甘い笑みを浮かべる。「直人くん、私たちをこんなに好きにさせてるんだよ?」
「そうよ。」紗菜が冷たくも優しい声で言う。「あなたを独り占めしたい。でも、私たちはお互いに譲り合ってる。だって、あなたを愛しているから。」
直人はその言葉を聞いて、息が止まりそうになるのを感じた。美咲と紗菜は、どこか不安定で、彼の心を掴んで離さない。彼女たちの愛情は、ただの甘さだけでなく、深く絡み合っている。
「でも、僕は…」直人は言葉を絞り出すように口にする。「どうして二人とも、こんなに僕に執着するの?」
「だって、直人くんが私たちを必要としているから。」美咲は、少し過剰に甘く微笑んだ。「必要としてくれる人が欲しいんだよ。」
「私は、直人くんのことを全部知りたい。あなたの全てが、私のものだから。」紗菜の声は、どこか危うさを含んでいた。
その言葉に、直人は震えるような気持ちを抱えながらも、目を合わせることができない。美咲と紗菜の瞳が、ますます強く、自分を引き寄せようとしている。
その時、美咲が静かに立ち上がり、直人の隣に歩み寄った。そして、優しく手を取る。
「だから、私たち二人であなたを愛していく。誰にも邪魔させない。直人くんだけが私たちのもの。」
紗菜もその言葉に続いて、直人に近づき、彼の顔を覗き込んだ。「あなたが私を必要とする限り、私はずっとそばにいる。美咲さんとも、二人で支え合う。」
直人は、その甘い言葉に包まれて、少しだけ恐ろしさを感じながらも、どこか心の奥でその温かさを求めていた。
「分かった…ありがとう。」直人は小さくつぶやくと、二人の手をそれぞれ握りしめた。
美咲と紗菜は、嬉しそうに微笑んで、直人の肩を抱きしめる。三人で過ごす時間が、少しずつ心地よいものへと変わっていく。
そして、二人の愛は決して止まることなく、直人を包み込んでいくのだった。
―――――――――――――――
ふたりの愛が止まらない - 美咲の視点
美咲は、直人の隣で静かに微笑んでいる。彼の肩に頭を寄せると、その温もりが優しく伝わってきて、心が穏やかになる。直人が手を差し伸べてくれると、自然に手を重ね、心が満たされていく。
最近、少しだけ変わったことがある。それは、紗菜が直人に近づいてきたことだ。最初はちょっと戸惑ったけれど、今では違和感を感じることはなくなった。紗菜もまた、直人を深く愛していて、その気持ちを私たちは分かち合っている。
「美咲、今日は一緒に散歩しようか?」
直人が優しく声をかけてくれる。美咲は嬉しそうに頷きながら、紗菜に目を向けた。紗菜もすぐに微笑んで、二人のことを見守っている。
「いいね、一緒に行こう。紗菜も来る?」
美咲は自然に紗菜に声をかける。紗菜はちょっと照れくさそうに笑うと、すぐに頷いて、三人で歩き始めた。こうして、みんなで過ごす時間が心地よい。
「ねえ、直人。私たち、二人であなたを愛しているんだよ。」
美咲はふとそう言って、直人の手を握り締める。紗菜もすぐにその手を握り、三人の手が絡み合う。どこか安心感を感じるその瞬間が、美咲にはとても幸せだ。
私と紗菜は、もうお互いの気持ちを理解し合っている。直人への愛を一緒に育んでいくこと、それが今の美咲にとって一番大切なことだった。
ふたりの愛が止まらない - 紗菜の視点
紗菜は、直人と美咲が手を繋いで歩く姿を見て、心が温かくなるのを感じた。最初は驚きもあったけれど、今では美咲と一緒に直人を愛していることに、何の違和感も感じない。
「今日はどこに行こうか?」
直人が優しく尋ねてきたその声に、紗菜はにっこりと微笑んで答える。
「美咲、どこか行きたい場所ある?」
美咲が嬉しそうに答えると、紗菜もそれに頷いた。三人で一緒に時間を過ごすことが、どんどん楽しみになっていく。紗菜は美咲と仲良くなり、二人で直人を愛し合うことが、心の中で自然なことだと感じていた。
直人がそっと紗菜の手を取ると、優しい温もりが伝わる。その手に触れるたびに、心の中で確かに感じるものがあった。それは、二人が愛し合うことで、もっと深く繋がっていくことへの喜びだった。
「美咲も、私も、あなたを愛している。」
紗菜は心の中でそう思いながら、直人を見つめる。美咲と一緒に、二人で直人を愛すること。それがどれほど幸せなことか、紗菜にはよく分かっていた。
三人で過ごす時間は、まるで夢のようだ。美咲も、紗菜も、心の底から直人を愛している。そして、それは一つの愛として、三人で大切に育んでいこうと、二人で強く決めた。
ふたりの執愛 青藍 @senrann
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