Chapter 2-2

館内見取り図を見ると、施設自体は3階建てだが、サイズは4階建てぐらいの大きさになるみたいだ。

1階が2階分ある。


2階は食堂・お風呂・トイレ・洗濯ルームと描かれている。

3階は各自の部屋とトイレと描かれている。


私の提案の元、まずは3階の各自の部屋へ行き、チェックインすることとした。


部屋の鍵のロックも、眼鏡が有れば出来るようになっている上、自分以外は入る事が出来ない仕様なのだろうか。

……ちょっと試してみた。

ここに来るときの服装は、全員スーツとなっていた。

履きなれないヒールはかなり歩きにくかった。

上着も結構きつい。

なので、研究所スタイルに着替えた方が良いと考え、皆に提案したら先にやりましょうという事になった。


研究所スタイル……動きやすい服装、動きやすい運動靴、そこに白衣を纏う。

只々これだけになるが、スーツよりもやる気がデリという物だ……私だけかもしれないが。


着替えている間に部屋を見渡したが聞いていた通り1人分の家具しかないみたいだ。

ベッドと机と椅子があり、クローゼットは無いが服を掛けたり下着を仕舞う場所はある。


着替えが終わり外に出ると、他の人は自分の部屋の扉の前に立って私を待っていた。

ラビが私の横に来て、男女でその後ろに着き、2列で移動することになった。

3階は私達の部屋のみなので、見る物はもうない。

2階へ移動することにした。


まずは食堂から見る。

食堂は30人ぐらいは入る大きさとなっており、厨房が併設されている。

厨房には2名居た。

目が合ったので軽く会釈をし、挨拶をした。

挨拶の後、軽く話したが食事だけでなく、風呂やトイレの掃除に、日常品等で必要な物の買い付けまでしてくれるみたいだ。


食堂を後にし、風呂・トイレと見て回った。

どちらも男女に分かれている。

風呂は、シャワーだけでなく湯船という物も付いている。

私は時間が勿体ないのでシャワーで済ませるのだが、湯船と聞いたラビは喜んでいた。

ラビの話では、49地区では日常的に入るものらしい。

入る事により、結構改善等が望める……肩こり腰痛には丁度いいらしい。


最後に洗濯ルームだ。

複数台の洗濯機が置いているが人数分は流石に用意されていない。

男女に分かれてローテーションを組めば問題無いだろう。


他に見る所が無くなったので、シミュレーションルームへと戻った。

席に座るなりラビは

「はぁ……見る所があんま無かったなー」と、退屈そうな顔で言いだした。

私は怪訝な顔で「元がどんなのかは知らないけど、研究施設にしたんだし、こんなもんじゃないの?」と反論した。

「まぁ、そうなんだけどなぁ。うちの研究所も殺風景で面白くなかったけど、何処もこんなもんかぁ」

いやぁ、つまんねぇと付け加えながら頬杖を突いた。

私は特にそう言う事は考えたことが無いが使えれば良いのではないかと言おうとしたが、長引きそうなので止めた。


2階や3階の設備を見た感想は、良い物を使っているようであった。

私は館内見取り図の裏を見た。

裏にはここでの、主に2階の注意書きが書かれていた。


〇風呂のご利用について

・使用時間はPM07:00 ~ AM 00:30 まで。どうしてもという場合はシャワーのみ先に使用できます。

・シャンプー、リンス、トリートメント、ボディーソープはこちらで用意していますが個人の持ち込みOKです

・タオル類は備え付けを使用。部屋に持って帰らず回収箱に入れる

・綺麗に使いましょう(特に男性)

・朝方から清掃します


〇トイレのご利用について

・座ってしましょう(男性)

・49地区のウォシュレットトイレを使用しています。紙は少なく使いましょう

・午前中に清掃します


〇洗濯ルームについて

・綺麗に使う事

・洗剤はこちらで用意しますが個別の持ち込みOKです

・乾燥機も使って早く乾かしましょう

・午後に清掃します


〇食堂について

・24時間使えます

・食事の提供は朝昼夕のみとなり、時間は指定してください

・指定時間以外に食事は提供しないので備え付けの自動販売機から購入してください

・食事はなるべく全員一緒に食べる事(こちらの負担が減るので)

・自動販売機はこちらで用意したものを入れていますが、欲しい物があるなら連絡してください

※初日はPW00:00にお越しください。その際に時間をお教えください


〇その他

・他、日用品等、必要な物とかは業者に連絡すること


※なお、ここに記載している清掃等は、食堂の2名を指す


何か可愛らしい絵柄も書いているが、目を通した後、皆に注意事項を説明した。


なんで男子ばかり、とラビがちょっと悪態をついた。

おそらく、以前に居た人で色々とやらかしたのが男性だったという事だろう。

私は男性なんてそんなものじゃない?と相槌を打った。


男性陣の顔を見回したが、女性からはそういう認識なのだろうという少しむっとしている顔をされているようにも見えた。

私的には、男性もだけど女性も大概汚すしな、と言いそうになったがそれは置いといて話を次へと進める事にした。


-----


時刻はまだ午前となっている。

館内案内図の裏の注意書きだと、昼食までまだ時間があるので、早速、人工惑星作製をどう進めるか、会議を始めようとしたのだが、フレッドが手を上げ提案をしてきた。


「その前に個人PCとスパコンについての確認をしてはどうだろうか?」


確かにそっちの方が先だな、と机の上にある操作説明書を手に取り、全員に配布した。


個人PC――スパコン操作用端末になる――は、普段しようしているPCと大差が無いようだが、スペックは高い様だ。

数値を見た他のメンバーも、感嘆の声を上げている。


個人PCの初回認証も、眼鏡が有れば行える様だ。

私は内心、どういうシステムなんだよと突っ込む。


各自、個人PCをセットアップ中に、私はスパコンの操作説明書を確認する。

表紙を見ると製品名が書いており、使ったことが無いタイプの装置だった。


中を読み進めると、注意書きに防壁を閉める事と描かれてある。

スパコンと私達の位置合いはかなり近い距離になっているし、稼働させると煩いからそりゃそうだよなと思い、ページを捲って更に読み進めた。


スパコンの起動・停止は個人PCから行う。

誰からでも起動は出来るが、停止は起動した人の個人PCからしかできない仕様みたいだ。

実際の操作時も遠隔操作対応しているため、スパコン自体にモニターやキーボードを繋ぐ事は無いようだ。

最後の辺りにも大きく、使用時は防壁閉鎖と書かれている。

……流石に煩いし熱いし、念のためって事よね。


スペック表を見ていると、私の研究所に有る物よりも数世代先に進んでいるようである。

スパコン自体は、シミュレーション用になるので、それ以外は起動しなくても良いだろう。

スパコンの操作説明書は1冊しかないので、次の人へ回した。


自分のPCのセットアップが終わり、長机の方へと戻った。

他の人達も終わったらこちらへ移動し、最後にラビが着席した。

私はそれを見やり、全員の顔を確認してから会議前にもう1つやっておくことがあるのを思い出した。

食堂の利用時間である。


通達者の話では、ここでの仕事の時間は自由に決めてよいとなっている。

私達研究者は決まった勤務時間形態は無いため、24時間365日働いても良いし、そうでなくてもよい。

ただし、ミッション完了に向けてどう進めるかはきっちりと決めて進めて行かなくてはならない。


要は、メリハリをつけた方が良いという事だ。

……私の研究所みたいにならない様にしようと心の中で誓った。


皆で決めた時間は、朝食は AM 07:30、昼食 PM 01:00、夕食 PM 07:00となった。


研究者は夜遅くまで没頭しているため、朝が弱いと思っていたが……もとい、私は朝が早くに起きるのがかなり苦手である。

苦手というより、終わらない作業、毎日徹夜で朝日を拝む事もあり、寝れる時間も3時間取れていたかどうかな生活をしていたためである。


そんな話をすると、皆にドン引きされたので、ここではそうならないように就寝時間をきっちりと守るようにという事になった。

追い込み時期になったら守れる気はしないのだけれど。


食事の時間は私が伝えるとして、食事量は各自で伝えてもらう事にした。

食堂の時間を決めるついでに、洗濯のローテも決めておいた。

誰がいつやるのか、思っていたよりも迅速に決まった。


個人PCのセットアップや、決め事を話していたら、PM00:00となっていたので全員で食堂へ移動することにした。

食堂へ着くと、先程の2人が改めて挨拶をしてきた。

これから当面、お世話になるため、全員で元気よく挨拶をした。


初めての昼食は軽い食事が用意されていた。

インド風カレーとサラダのみとなっている。


カレーは、スパイスが利いており、程よい辛さがあった。そしておいしい。

普段は固形状の栄養食ばかりなので、こういった食事はいつ以来だろうか。


食べながら周りを見ると、皆も満足そうな表情をしていた。


食事を終え、先程決めた食事の時間について連絡をし、二つ返事で了解を得た。

また、各自で食事量について調整をし、そちらも問題ないとのことであった。


これから夜まで会議を行うため、シミュレーションルームに戻る前に飲み物を持っていこうとしたが、2人に長机以外では飲まないようにと注意をされた。

後、食べ物は駄目という事だった。

この2人はシミュレーションルームに入れないので掃除が出来ない為らしい。


流石に、PC付近では飲まないよと言い、踵を返そうとしたらまた呼び止められた。

今度は何だろうと思ったら、夕食は私達の親睦会という事で少し豪華に作っておくとの事であった。

これには全員、喜びの声を上げる事となった。

全員がひとしきりお礼を言い出て行ったがラビだけ呼び止められ白衣のポケットの物を出しなと言われていた。

何か危ない物を持っているのだろうかと見ていたら、小さいスナック菓子の袋を出し、渡していた。


これについては、私達は白い目で見る事になる所であったが、この中では一番そういう事をやりそうな感じで、ラビなら仕方が無いかと食堂を後にした。

勿論、ラビを置いて、だ。


-----


シミュレーションルームに戻り、席へ着くやいなやラビは2回手を叩きが鳴ら立ち上がり

「ええー、第2回円卓会議を開始します」と開始の音頭を取った。

私は先程と同様、冷たい眼差しで「円卓会議じゃないでしょ」と言い放った。

流石のラビも顔を引きつらせ、少し冷やせをかいているように見えた。

「俺の地区にある数世紀前のゲームがあってな、丁度白衣も来ているし、真似てみたかったんだ。皆すまん」

ひるまずに何故そんな行動をしたのか説明をし、頭を下げて座り直した。


ゲーム……確か49地区はゲームやアニメ等のサブカルチャーは昔から盛んで今でも世界的に人気であると聞いているが、真似をする程好きなのだろうかと私は驚いている。

私以外もきょとんとしている状態だ。


そんなラビの発言等は一先ず置いておくとして、私は正面に向き直った。

「さて、人工惑星作製チームの会議を始めます。会議名は……そうね、オペレーション・アーティフィシャルプラネットArtificial Planetってところかしら」

全員を見渡し、異議なしと言う様に頷いていた。

ラビを見ると、一人、目を輝かせているように見えた。

「リーダーもゲームとかアニメ見るの?」

いきなり、会議とは関係ない質問をしてきた。

出鼻をくじかれた気分だ。

「いいえ、特にはしないわよ」

これを聞いた途端、少ししょんぼりとした顔をし、前に向き直った。

なんだったんだろうか一体。後でっ来て見る事にしよう……覚えていたらだが。


人工惑星を作るに辺り、危惧していることを全員に確認した。

危惧していること……それはこの中にきっちりとした惑星についての知識を持っている人が居るのだろうかということだ。

全員の認識合わせとしてその事を確認したが全員、地球科学――地球の構造や地質等に詳しい人――は分野外なのだ。


このプロジェクト、ちょっと絶望的なのかもしれないと考え始めたが、そういえば個人PCにその辺りの資料が有るという事を思い出し、見に行った。


個人PCのデスクトップには関連書類へのリンクフォルダが置かれている。

それ以外には、会議用のアプリも有る事みたいだ。

私は全員に、眼鏡と個人PCを接続するよう指示を出した。

AR空間で会議アプリと連動して資料を共有しながら見るために。


AR空間以外での会議の便利アイテムとしては、ホログラム装置が置いており、そこに資料を投影して見ながら行う事も可能だが、せっかく便利そうな眼鏡があるのだから試さないわけにはいかない。

AR空間での操作は、専用グローブか指先の動作を検出するリングを両手にはめるのだが、専用グローブの方が感度が良い。

音声は骨伝導マイクをワイヤレスで繋ぐとあり、両耳に着ける。


AR空間を開くと、仮想マウスと仮想キーボード、それに小さい私みたいなキャラクターが表示されていた。

キャラクターは私に似すぎていないかと思いマジマジ見ていたのだが、そういえば、初回認証時に全身スキャンをしたのを思い出す。


全員が個人PCと接続を完了させ、会議用アプリを起動した。

AR空間に他のメンバーの小さいキャラクターが表示された。

キャラクターはきっちりと個人の判別が付くようになっていた。


まずは地球の構造について調べる事にした。

私の画面を共有し、全員で資料を見始めた。


太陽系第三惑星地球。

……から地球の成り立ちから現在に至るまでの歴史がずらっと並んでいるがそこは良いので飛ばす。


地球は正円ではなく楕円形となる。

地球中心点から東西直径約12756Km、南北直径約12714Kmとなり、東西が微妙に長い。

外周は約40075km。

中心点から地層までは内核外核コア、マントル上下部、地殻となっている。

ここで深さは0Kmとなり、地表になる。


実際は地表から地殻まで含めた、150Kmぐらいまでが岩石圏となる様だ……ややこしいなと少し思う。


ここからは上空となるらしい。

成層圏といているのは実際は50Kmまであり、500Km以下が地球大気圏という扱いになる。

100Kmから上空がカーマン・ラインが示す宇宙の始まりの高度とされている。


細かい大気成分等は記載されていなかった。

地球の構造についてはこれのみとなる。

見ていた全員、そのまま黙り込んでしまった。


「おいおい、これだけかよー。もっとないの?」

ラビは後頭部をがりがりとしながら私に訴え掛けてきた。

私はパソコンのデータを見なおして「これだけね」と答えた。

ラビは何とも言えない顔をし、自分のデスクトップの分も開いて確認をし始めた。

他の皆は何かを考える様に沈黙している。


私も、もう一度他のフォルダを見ていたところ、指令書の様な物を発見し、全員に共有した。

指令書の様な物にはこう書かれていた。

・人工惑星作製のシミュレーションを行う事

・サイズは地球規模で行う、つまり球体で作成し、平面は認めない

・テストも行う事。こちらのサイズは小さくて良い

・2年後にテスト出来たらいいわよね


いったい誰がこんな物を仕込んだのかは判らないが、用意した連合組織の人だろう。

最後の一文は私達に対する挑発になるのではないだろうか。


「おいおい、無茶苦茶じゃないかこれ?」

ラビは顔を片手で覆いながら天を仰いだ。

「そうね。かなり厳しいこと言ってくれるわね。2年後にテスト?面白いじゃない……」

私は、目に力を入れつつ細めながら口角を上げる顔でにやけた。

私を見たラビは、同じような顔をしていた。


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各自の個人PC内のデータを見て貰ったが、全員同じデータとなっていた。

その後は、会議アプリを閉じ、地球の構造について各自で調べる事とした。


調べていると、地球のサイズ以外の情報はそれなりにあり、調べた限りで私の頭の中でイメージを組み立てていく。

中心となるコア、内核コアを人工で作製する。

それの周りに岩石類で囲い、内核コアを岩石が溶ける温度まで発熱させる。

これで岩石は溶けるだろう。

マグマも高温の元岩石という事になるだろうし。

それが終わったら冷却すれば惑星の大地は完成するだろう。

後は大気と水、植物や生物をどうするかだが……それも別途確認が必要になってくるな、とイメージをまとめたのでAR空間のメモ帳に記載する。


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夕方になり、長机で再度会議を行うこととした。

各自の確認状況はどうかと聞いたが、予想通り、あまり進展は得られていない様であった。

今後はどう進めるかについても話したが、良い意見はでず、明日へ持ち越しにしようと思った矢先、フレッド・ホイルが手を上げた。


「えっと、フレッド・ホイルさんは、何か思いついたの?」

「ええ、今後の対応についての意見となります。後、フレッドで良いです」

「そう、わかったわフレッド。それで意見というのは?」

「れらフォーミングチームにもおそらく地球科学に詳しい人は居るはずです。そのため、確認してみるのはどうでしょうか?手が空いているのならこちらに来てもらって色々と教えていただくにもいいかと思います」


私は少し考えた後、

「それはいいかもしれない。他に意見が無ければ明日確認してみます」と答え、他のメンバーに何かないかと言う様に目線を送ったが特に何も無いらしい。

フレッドの意見以外に出ていないため、今日の作業を終了とした。


会議終了後は、夕食の時間となった。


夕食は少し豪華な食事を用意すると言われていたが、普段食べている物に比べるとかなり豪華ではなかろうか。

ただし、私達が若そうに見えるのか、油物がやや多く用意されている。

全員にソフトドリンクを配ってもらい、私は乾杯の挨拶をした。


食事が始まり、ラビだけがっついて食べているが、他のメンバーは静かに食事をしている。

静かというより、誰も自分から話しかけて喋ろうとはしないように見える。


世の中、合理主義の教育のせいなのだろうか、無駄な事は極力しないようになっているのだが、流石にこれはどうなのだろうかと思い始めた。

合理的な思考は、目的完遂には良いのかもしれないが、それ以外の時……今みたいな食事時のコミュニケーションが無い事を考えるとちょと厄介な物である。

何故かって聞かれると、そこはチームワークがどうのという話になるので言いたいことは判ってくれるはずだ。

言えば聞いてくれるとは思うが、まずはこういう時のコミュニケーションの改善もしないといけないだろう。


今日の会議でも、発言者は私・ラビ・フレッドとなり、他のメンバーは言われた通りにしか動いていなかった。

……初日なのでこれから発言してくれるかもしれないが。

この辺りが、合理主義の教育の欠点だろう。


今後のうちのチームの課題になってくると考え始めると、食事の味がしなくなりそうなので一旦置いておくことにした。


私は、合理主義の教育は失敗したと言われたのを思い出す。

合理的より論理的の方が好きなのと、性に合わなかったためだ。

今日の様子を見ていると、ラビも同様に私と同じなんじゃないだろうか。

フレッドは、合理的にやる事をやるようなタイプになっているかもしれない。


全員が食事を終え、自室に戻っていった。

ラビを探すと、席に座り甘めの炭酸水を飲んでいる所だった。

食事中に考えていたことをラビに話すため、対面になる様に座った。


「ん?どうしたリーダー?」

「ちょっと相談があるんだけどいい?」


私は先程の内容をそのまま話した。

ラビは目を瞑り、考える素振りをしていたが、目を開けてこっちを見据えながら話し始めた。


「まぁたしかに、みんな何も意見言わないけどなぁ。合理的な思考の教育より、もっと別の事があるんだぜ」

「別の事?」

「ああ……」

ラビは少し言いにくそうな顔をしていたがまあいいかと言う様に続けた。

「おそらくだが、研究所で今まで一度も意見をまともに言ったことが無い、または言ったとしても無視されたりしていたんだろう。特に下っ端の場合は無視されやすいからな」

「あー……」

ラビの意見は最もである。研究所では下っ端などは意見を言おうものなら、上から凄い剣幕で罵倒されたりする場合があるからだ。

そうなるのが嫌で、何も言わずに委縮する人間が割と一定数居る。

しかし、上の立場へ行くにはそこを乗り越えて行かなくてはならないのだが……それは今は置いておこう。


「じゃあ……そうね。明日朝、その事で話し合えばいいかしら?」

「話ってどういう感じに?」

「そりゃま、私達のチーム内は、全員対等だからね」

「なるほど、そういうことか」

私とラビはお互いの顔を見ながらほくそ笑んだ。

はたから見たら怪しい2人に見えるかもしれないが、幸いにも周りには誰も居なかった。


-----


翌日、作業開始前に会議を行う事とした。

会議の本題の前に、合理主義の教育について確認すると、全員が受けているものであるという事が判った。

更に、ラビの予測通りとなり、全員が研究所内では一番下の身分であった。


私は予想通りだったので、昨夜決めたことを話す。

全員が此処では平等であり、今日からは意見を言い合いOPA――オペレーション・アーティフィシャルプラネット――を進めていくという内容だ。

合理的な思考も大事ではあるのだが、誰も何も言わずに指示待ち状態では、チームとして成立しない。


これを聞いた皆は驚きの表情と今までやってきていない分、どうすればいいのかという表情が交差している様に伺えるが、単純に考えたことを発言してほしいという事を伝えた。

ここでは全員が同じ立場であり、罵倒さえる事は無いし、言い合いの喧嘩状態になる事はあるかもしれないが、今後を考えると必要となる。


フレッド以外は納得した顔となり、了解したと返事をもらった。

やはり、フレッドは意見を躊躇なく言う事は、普段からやっているのだろうな、と私の推測通りだろう。


続いて、昨日各自で調べて貰っていたことを確認したのだが、やはり誰も情報を入手できていない様である。

そこで、私がイメージした事を話したが、この案についての意見や否定は無く、一旦保留となった。


会議が終わり、他のメンバーには昨日の続きをするように指示をした。

私はテラフォーミングチーム側へ打診するため、通達者に連絡をすると、直ぐにここにメールするようにと返信があった。

その連絡先にメールを出すと、こちらも直ぐに返信があった。

ここまで早いと、駄目なのだろうかと思いながらメールを開いたが、返事の内容は午後に話し合いたいと書かれていた。


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午後、会議アプリを立ち上げ、テラフォーミングチームがメールで指定してきた会議のURLを開き、待機していた。

こちらの参加者は私とラビになる。

他のメンバーには後で録画を見てもらう事としている。

初め、AR空間で行おうとしたが、あちらも同じものを使っているとは限らないので、Webカメラで私とラビがが映るようにセットしている。


少しすると、あちらも接続され、ルイ・ペレーの顔が画面に表示された。


ペレーは前回話した時みたく無表情ではなく、幾分柔らかい表情をしている。

「やぁ、久しぶりだね」

挨拶をしてきたので、私は会釈した。

しかし、久しぶりという事は、会議場で会ったことを覚えていたという事なのだろうか。既に忘れているものと思っていたのだが。……

「本日は相談に乗っていただきありがとうございます」

「はは、いいさ。テラフォーミングと違ってそっちの方が大掛かりになりそうだしね。メールの限りでは、地球科学を専攻している科学者が居ないか、か」

「はい、そうなんです。こちらは専門外しかおりません。そのため、そちらに専攻している人が居るなら人員をお貸しいただけないでしょうか?」

ペレーは少し考えるポーズをしていたが、思考が終わったのかこちらに向き直った。

「専攻している人間はいる、が…今は無理だな」

私は元から無理であろうと思っていたので「まぁそうですよねー」と反射的に答えていた。

ペレーは眉根を上げ、もっと食い下がるものと思ったが案外素直な回答だなと言った。


そりゃ、私も食い下がってやった方が良いと思うが、連合組織はあちらに注力しており、こちらはそれほどでもない事を考えると厳しいのだろうなとは思っている。

そんな様子を見かねたのかラビが割って入って来た。

「ペレーさんよ、今は無理って言ったけど、何時ならいけるん……ですか?」

ラビが割って入って来た。

初めは威勢よく言っていたが、相手はかなり上の立場の人間であるのを思い出したのか、途中から声のトーンが変わった。


ペレーは、ラビの言葉に少し眉間に皺を寄せていた。

「君は?」と聞いてきた。

「副リーダーのポール・ラビと言います」

ペレーは無表情になり、副リーダーとだけ言い、ラビの質問に答え始めた。

「そうか。……そうだ、今は無理だが半年後ぐらいには空くのでその時にはOKということになる」


半年後では今の状態から進まずに止まってしまう。

それでは駄目だろうと思い、私はもうちょっと短くならないかと聞いたが、答えはNOであった。

「すまんな。知っていると思うがこちらも色々と進める事が多くてな」

「いえいえー。仕方が無いですよね」

予想通りという結果であった。

ペレーは私が意気消沈しているように見えたのか、進捗について聞いてきた。

私は、今のところ進捗らしい物は無いと答えた。

それに加え、個人PCに指令書があり、指令所の内容と地球の構造などを調べている所について説明をした。


これを聞いたペレーはまた少し考えるポーズをしながら

「指令書のそれは……内容もそうだが期限も厳しくないか?というか最後のはただの煽りじゃないか」と聞いてきた。

ペレーは続けて言う。

「こっちは地表にドーム状の物を作り、そこで生活をしている間に星の環境を改造する計画だ。なぜ、平面な岩盤に同じようにドーム状ではダメなんだ?」

「そんなに凄まれても流石に分かりませんよ!」

私は両手を体の前で左右に振りながら答えた。

そんな事言われても、本当に分からないと言うのに……。

「そもそもその指令書は誰からなんだ?」

「それも、判りません。各個人PC内に入っていたので、国際地球生存連合組織かと……」


それを聞いたペレーは複雑そうな顔をし、小声で何かを言ったがうまく聞き取れなかった。


ペレーは真顔になり「そちらの健闘を祈る、後、これは独り言になるが…」と言い、独り言が終わると会議は終了した。


独り言の内容は、

まず、地球の構造についてはある程度出ているようなので問題無いだろうが、大気・水は地球が冷却時に出来たものだ。

だから人工惑星も同じになるだろうがその辺りはシミュレーションするなりで確認した方が良い。

次にテストの用意が出来たとしての話だ。

テストはまずは小さいモデルから作った方が良いだろう。

いきなり大きいと時間を取られ過ぎるからね。

作製する場所は火星~木製間にある小惑星帯アステロイドベルトが良いだろう。

あそこなら、3%ぐらいまでの大きさなら作っても問題にはならないはずだ。

テストの用意についてだが、さっきの所に行くまでの宇宙船が必要になるだろう。

テスト部材も必要だな。

これらは通達者経由で調整をすれば何とかなるはずだ。


と、まとめるとこういう事である。

ペレーに対する初めの印象は、嫌いなタイプであったが、割といい人なのかもしれない。

ラビも初めは同じく嫌いなタイプだったようだが、私と同じような気持ちらしい。


しかし、今現在、肝心な所についての詳しい所が何にも決まっていない。


-----


会議から数日の間、惑星について調査していたが、私が考えている事である程度は問題が無いようだ。

問題はないが、課題はまだまだ残っている状態となる。


岩石は宇宙にある物を使えば行けるとは思っているが、それが何処にあって地球規模の物が存在するかどうか次第だろうか。

次に冷却は、自然冷却は地球サイズで億年単位の年月で行われている。

そんなに待てないので、強制冷却方法を考えなくてはならない。

地球と同じならば、地殻部分までを冷却できれば何とかなるんじゃないだろうかと考えている。

次に大気成分等、人間が生活するのに必要な物だがこれはどうしたものか。

人工的に作ればある程度行けるのだろうか?

そして最後に人工内核コアだ。

人工物になるため、永久的に稼働するものが作れるのかどうか次第だろうか。

止まった場合のシミュレーションも必要になるが、重力が無くなるという可能性も考慮しなくてはならない。


午後のOAP会議でこれらについて話を進めようとしたが、中々良い案が浮かばないのが実情だ。

また、太陽の変わりはどうするかという点が出てきた。

恒星からの距離が丁度いい具合にある地球は人が住める環境となっているが、人工惑星だとそうはいかない。


ただ、人工太陽自体は技術のノウハウが有るので問題なく作れるだろう。


一番の問題は、時間になる。

人工惑星を作っている時間は長い。

まだ正確な計算はしていないが、ここにいる私達が寿命を迎えても出来ない気がしている。

ただ、これに関しては既に案が出ている。

コールドスリープで私達を眠らせる、だ。

既に実用されており、起こすところまで問題なく出来るそうだ。


人工惑星の構築・冷却中は私達は眠ったままにし、問題が有ったり、工程が終わりそうになったら目覚めればいけるはずだ。

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