Chapter 1

人工惑星作製用工作宇宙艦うちゅうかん~アドヴェン~の艦橋。

目的地の火星~木製間にある小惑星帯アステロイドベルトへ向けて自動航行モードとなっている。

人工惑星の作製テストや本番の作製を行うために開発されたふねである。

工作室や居住ブロック等を兼ね備え、ワープ航行が可能なGTエンジンを搭載する。

戦闘用の装備は一切搭載されておらず、今回一緒に来ている他のふねにも搭載されていない。

私達は戦争をするために宇宙を進んでいるのではなく、新天地となる人工惑星を造る為なので武器は不要である。


私は艦橋の艦長席を拝借し、窓の外を眺めながら食堂から持ってきたホットドリンクを飲み、ため息をついた。


この艦は、人工惑星作製のためにと、私達のチームで設計して建造して貰ったが、いい出来だと自負している。

居住ブロックも使いがってがよく、食堂もおいしい料理が食べれるし、運動用のジム施設やお風呂、マッサージルームも完備している。

ま、私は運動はしたくないのだが、宇宙に居ると筋肉が衰えやすくなるから仕方が無い。


居住ブロックには、コールドスリープ装置も設置しているが、今回は使用予定はない。


工作室は色々と揃えており、不足しているものも即席で用意するぐらいは可能だ。


私個人の意見となるが、今までの宇宙船は男性目線で作られることが多いためか、簡素な内装になっていることが多いような気がする。

そのため、この艦の設計では、理論的な構造で考えながら女性視点で設計した。

私達としては、良い出来だと思っているけど、今回のテストに合わせて組織側が有する軍人の方々には、使い勝手が悪いと初め怒鳴られた。


さらに、外観にも文句を言ってきていたがそこは設計担当が言いくるめており、何事もなく進めてきた。

外観は1年程度で出来たが、内装の調整が着かず、もとい、ここでも小言が既に言われていた。

私は「快適さが無くて何になる。超長期運用も視野に入れて設計しているんだぞ」と説明し、形にすることが出来た。


このやり取りのため、当初の予定より期間が延びたのだが、人工惑星作製シミュレーションを行う時間が出来たと思い、良しとした。

そうして、多少の自信と大量の不安を抱えつつ、地球を飛び立ちテストへ向かっている訳さ。


もう一口、ホットドリンクを飲み、窓の外を眺めた。

眺めは変わらず、黒い空間に星が光っているのみとなっている。

地球上から見たら綺麗とときめくのかもしれないが、ずっと同じ宇宙空間では正直どっちでもいい気持ちである。



そんな風景を眺めながらこれまでの事を思い出していた。

科学者の端くれであり下っ端であり、専門家でもない私がチームを率いるリーダーになぜなったのか?

リーダー適任は未だに有るのか不明だが、約2年……必死にやってきたはずだ。


人工惑星作製シミュレーション、宇宙船の用意、etc……と。

私の人生で科学者としてやってきたこと以外の事、全部が初めての事であり、右往左往しつつも色々な人に助けて貰いながらここまでこれた。


ここまでって思いつつ、人工惑星作製テストすら終わっていない道半ばにも程遠いのだけれど。

目的地までの移動中は特にやる事が無いため、のんびりできそうで最高では無いだろうかと思っている。

今まで忙しかった分、のんびりできる時にはのんびりしてやろうじゃないか。

この方針で行く予定では成るが、地球での忙しかった日々が恋しいかと言われると、ちょっとだけそういう気持ちもある。

流石にだらけたままではいけないだろうからと、窓の外に目る星々を眺めながらこれまでの事を整理して、プロジェクト日記なる物を作ろうかと思う。


-----


2年ちょっと前、各国の科学者が会議を開き、地球の問題を全世界に議題として挙げた。

現在から遠くない未来に、地球に住めなくなる可能性が出てきたためである。

各国の首脳は会議を行い、話し合いの結果、国際地球生存連合組織が結成された。


連合組織結成に伴い、世界はこれまでの国名を捨て――正確には使ってもいいが公には使えない――地区番号で分けられることとなった。

組織が有る地区は1地区、私がいるEU圏となる。


連合組織結成後、数回目の会議で私を含めた世界各地の技術者が集められ、会議が開かれることとなった。

会場は1地区で行うため、割と近いが日帰りは出来ない距離となっている。


連合組織が指定した会議場について中に入った私は、周りを見渡した。

会議場は、組織側の人達と対面になる形で椅子が配置されていた。

席に座り、周りを見渡す。

私達側の科学者はざっと100名ぐらいの参加と言ったところだろうか。

皆優秀そうに見える。

私みたいな下っ端でも、参加する必要が有るのかという思いと、世界は高レスポンスネットワークで構築されているので、リモート会議で良いだろうという思いがあった。

しかし、聞くところによると内容は秘匿される必要が有るため、1か所に集めたという事らしい。


私みたいな下っ端でも参加する必要が有ったのは、私が所属している研究所からは有力な科学者を出す余力がないためだそうだ。

上の人曰く、今やっているプロジェクトに割り当てている人数が足りなくなるという上、一番暇そうだから行って来いと言うお達しを頂いた訳である。

……まぁ、暇と言えば暇な方か。

他の人が優秀過ぎて、手が全く空いていないが、私なら空けても問題が無いって事だ。


会議が開始され、連合組織側から説明が始まった。

何故、科学者を集めて行う必要が有るかについてだ。

連合組織側は、発足前に出ていた話をした。

それにどう対処を行うか。

現在2つの計画を立てている。

その2つの計画は

『太陽系内の惑星をテラフォーミングして移住する』

『太陽系外に人工惑星を作製し移住する』

となっている。


これを聞いた私は、何を馬鹿な……と思ったが、連合組織側の人の様子を見ている限りではどうやら本気みたいだ。

周りの科学者の様子を見ると、皆私と同じく何を言っているの、や、馬鹿じゃないのか等と思っているような顔をしている様に見て取れた。

流石に言葉にできないため、心に留めておかなくてはいけない感想しか出ないという事だ。


連合組織側は説明を続ける。

2つを同時に行う予定としているが、テラフォーミングは太陽系内で行い、直ぐにでも実行できるようにはしている。

更に、人工惑星を作製しておけば、テラフォーミングした星の状態が危険になっても――なって貰っては困るがそこは生命体なので仕方が無いようだ――そっちに移住できるようにするためだそうだ。


連合組織側の説明が終わり、こちら側からの質疑応答に移った。

こちら側は、代表としてルイ・ペレーという男性を起用した。

容姿も良く、周りの話を聞いている限りでは1地区の一番凄い研究所出身で優秀な男らしい。

人当たりも良く、人望に熱い人物みたいだ。


私以外の女性もいるが、前に立つペレーを見る目は、色目を使っている様にも伺える。

私からすれば、左手の薬指に指輪が有る時点で、既に対象から除外すべきではないだろうかと思う訳だが、色目を使っている連中にはそんなの関係ないのだろうか。

同性として生きているが、解らない感情だ。

それに、パッと見た感じだけではあるのだが、ちょっとだけ胡散臭い様にも見えたが、これは私の直感でしかない。


質疑応答では、まずこの2つは並行で行うのか時期をずらして行うのかの確認となった。

連合組織側は並行で行うと回答。

理由は、テラフォーミングは直ぐにしようと思ったら出来るようになっているが、人と時間はそれなりに要する。

対して人工惑星は今まで誰も行っておらず、どれぐらいの時間が掛かるかも分からないため今から進めた方がよいという考えの様だ。

テラフォーミングは連合組織側で基礎研究は終わっており、実際に出来るかシミュレーションを進めている段階となっている。


これを聞いたペレーはにこやかな顔で「そちらで全て出来たのでは?」と発言し、会場をざわつかせた。

連合組織側は不機嫌な顔をしたが元に戻り返答をした。

「こちらの科学者が基礎研究・シミュレーションまで行っているが整合性が取れているかまでの確認と続きを行って欲しい」

ペレーは少し考え込み、「ダブルチェックという事ですか?」と確認をすると、連合組織側は頷いた。


私達側の前の方に居る人達――立場的に上の人が前になっている。私はほぼ最後尾だ――は小声で何かを話しているが、ペレーが振り向いて口の前に一本指を立てると静かになった。

正面に向き直り、「それらが間違っていた場合は、初めからやり直しになりますね」と言い、質問を終了した。


次に、予算や人員、研究施設等はどうするかという質問をした。

予算と研究施設等はテラフォーミング分は既に確保済みとなっている。

人工惑星作製はこれから行う予定とのことだ。

私達側の科学者の人員は、こちらで調整してほしいとのことだった。

この質問は特に追加で言う事は無く、また聞くことも無いのでここで終わった。


その後、いくつか質問をし、最後の質問を行った。

「本当にこの2つを実行しなければいけないのか?他の方法も模索が必要だったのでは?」

「こちら側の科学者間での話ではそれも出たが、人を減らして地球をクリーンにした方が良いようだ」

「地球上でも浄化システム等、増設するなりすれば良いのでは?」

「その意見もあった。しかし、人口については今後まだまだ増えていく。それを支えるための土台が、地球には本当に有るのか判らない。そうなると、宇宙へ人を輩出していくしかないのだよ」


ペレーは少し考えこんだ後「我々の意見を少しまとめる時間が欲しい」と言い、会議の続きは明朝へと持ち越しとなった。

組織側からある程度のまとめてあるデータを貰ったペレーは、前の方に居る人達数名を引き連れて別室で議論を行う様だ。


-----


今日の会議は終了となった。

私や残っている人たちは、現時点ではここに居ても用が無いため、その日は解散となった。


私は席を立ちあがり周りを見渡した。

残っている他の科学者も私と同じような立場なのだろうかと考えたが、話して進行を深める必要は今のところ無いだろうからと、私は予約しているホテルへ行って休むこととした。


ホテルは、安めのビジネスホテルだ。

観光目的では無いし、この辺りだと一番安く泊まれるためとなる。

研究所がもう少し旅費を出してくれたらもう少し良いホテルに泊まれるのだが……そこは自分の立場では仕方が無い。

けど、ビジネスホテルのシンプルさは良いよねと私は思っている。

シンプルで必要な物しかない……かなり落ち着く。


受付は自動応答機で、自分の部屋の鍵――部屋番号が掛かれている認証カードになる――を受け取り、部屋へと向かった。

部屋に入り、荷物を置く。

備え付けの椅子に深々と腰を下ろした。


部屋の中を見渡すと、1人で宿泊するためのシンプルな構造になっている。

シングルベッド1つとユニットバスにトイレとなる。

モニター類もあり、手持ちの端末と接続して映像等を流すことが出来る。

テレビも見る事が出来るが、別途料金が掛かるので今回は予約時に申し込みはしていない。


立ち上がり、荷物からホテルまでの道のりで買って来た晩御飯を取り出した。

外で食べる気が起きなかったので、固形状の栄養食と炭酸水が晩御飯となる。

この地区の外食出来る所を見ていたが、加工回数が少ない料理が多いが、値段もそれ相応にであった。

決して、私の給料が安いからそれを抑えるためではないとだけ言っておく……決してだ。

単に、固形状の栄養食でも栄養を取るだけなら申し分が無いのである。


晩御飯を食べながら頭の中で会議の内容を精査していた。

会議では2つを同時に行うと言っていた。

ここまで大きなプロジェクトとなると、大抵どちらか1つを完了させてからもう片方を行うものになるはずだが……。

テラフォーミングは既にシミュレーションまで行っているから?と少しだけ疑問に思ったが、検証材料が無いのでそう言う事にしておきたい。


人工惑星作製は時間を要するためと言っていたが、ここがポイントになるのだろうか?……解らん。


私の考えでは、テラフォーミング自体は何処でするかまでは決まっているんじゃないだろうか。それでも最低10年は掛かるものだろう。

人工惑星作製に至っては全てが不明だが、惑星1つが自然に出来るのに億年単位だ。

それを人工で早めてどうなるかだよな……100年ぐらいに収まるのだろうか?

それならいっその事、宇宙ステーションを作り、希望者を長期間コールドスリープする。10億人ぐらいか?

人が減っている間に地球環境を改善し、戻せばいいのではないだろうか。


……考え出したはいいが、考えが纏まらないでいた。

それにしても、会議は何か、茶番劇が進められているようにも見えたな。


と、考えている内に食べ物が無くなった。

炭酸水を少し飲んでから立ち上がり、シャワーを浴びる事にした。

時刻は夜8時を過ぎたところで、就寝準備をしても9時ぐらいになるだろうか。

寝るには早い気もするけど、普段は研究のために不規則な生活をしているので、何もない時はとっとと寝るにかぎる。


シャワーを浴び終え、体を拭き、寝間着に着替えてから髪を乾かした。

そして、ベッドにダイブ。

ビジネスホテルなので期待はしていなかったが、結構ふかふかな物を使っているみたいだ。


上に向き直り、深く息を吐いて目を閉じると、そのまま意識が遠のいて行った。


次の日の早朝、窓から光が差し込んできたところで目を覚ました。

ベッドに横になった所までは覚えているのだが、普段の疲れが一気に来た感じだったな。

ベッドから降り少し伸びをした。


服を着替え、身だしなみを整え、部屋を出る。

昨日の夜は外で食べる気がしなかったが、朝食ぐらいは良いよねという事で、外で食べてから会議場へ向かう事にした。


-----


昨日と同じ会議場の同じ席に座って待っていると、会議が開始された。

昨日と同様、ペレーが前に立ち、連合組織側へ回答を行った。

「頂いたデータ等を確認し、検討いたしまいた。結果としては、そちらで進めている事を引き継ぎ進めたいかと存じます」


これを聞いた連合組織側は満足な回答が得られた様に見受けられた。

ペレーと連合組織側の代表は握手をし、会議は閉幕となった。


連合組織側の配慮でこのまま会議場を使用できるようにしてくれているため、班分けを行うみたいだ。

昨日、ペレーと彼に引き連れられた科学者達で既に班分けをしており、それを発表するみたいである。

呼ばれた人は本日からテラフォーミングチームに所属し、部屋から退出して指定の場所へ移動する事になった。


班分け開始から10数分達、終わりとなった。

私は愕然とした。……いや、残った科学者を見渡すと全員が同じ状態になっている様に見えた。

科学者は100名近く居たのだが、会議場には私を含め、15名しか残っていなかったからだ。


発表を終えたペレーは、私達の顔を無表情のまま一瞥し、出て行こうとした。

それを私は走って呼び止めた。


呼び止められたペレーはこちらに向き直ったが、無表情のまま「なんだ?」と冷たく言い放った。


「なんだ、って、言いたいのはこっちのセリフです!なんでこっちは人数がこんなに少ないんですか?!」

「ああ……」

やれやれという感じで説明を始めた。


ペレーは子供に理解させるように話し始めた。

テラフォーミングを早期に――連合組織側のシミュレーションでは10年は軽く掛かるらしい――終わらせた後、人工惑星作製に移ろうと考えている。

ここに残った者たちだけでも、シミュレーションと作製出来そうな太陽系外の観測は出来るだろうと踏んでいる。


「……そういうわけだ。こっちは2年以内に出発し、計画を遂行しなくてはならない」

これを聞いた私の後ろにいる科学者は安堵している声が聞こえた。

私も納得しかけていては居たが、昨日の夜、ホテルで考えていた事を質問した。

私の質問対して口角を上げ、少し微笑んだ様に見えた。

しかし、直ぐに無表情に戻り私の質問に回答した。

「いい着眼点だとは思う。私も連合組織側からの資料を見る前なら同じ質問をしようとしていたんだ。けど……」

そこで何かを考えるように一旦区切り、話を続けた。

「……君、世界人口に対する食糧の需給割合は知っているか?」

「えっと……」

いきなりの質問に私は回答を詰まらせた。そもそも、そういう事は知らないからだ。

「そう言われると、そういう情報って私、知りません」

「なら、宇宙ステーションを作るとして、長期運用について等は何処まで考えている?コールドスリープした人達が100年後に行ったとして環境に対応できると思っているのか?」

そこまで考えておらず、私は黙り込む。

ペレーは「……ふぅ」とわざとらしくため息をし、地球の現状について説明を始めた。


食糧自給割合は、100%ギリギリとなっている。

土地もかなり痩せてきており、人口も増加傾向となる。今後、更に需給割合は減る予想だ。

そうなると、食糧危機に陥る。

次に、それ以外の資源についてもある程度は余裕はあるが、人口増加次第では厳しくなる。

宇宙ステーションの作製・運用をするにしてもそれ相応にコストがかさんでいく。

地球1つではもう足りない所まで来ているのかもしれない。

そうなると、太陽系内の惑星をテラフォーミングし、資源確保やそこでの生活を行えるように整えた方がいいのではと考えている。


「……と、連合組織側のデータによるとだがね。そういう訳だ、納得してくれたか?」

私は顎を右拳で支え、考えるポーズをとる。考えがまとまり、ペレーへ向き直り「ええ、概ね理解しました」と回答した。

その回答に今度こそ終わりと思ったのか踵を返そうとしている所に私は更に質問をした。


「それでしたら、科学者全員でそっちを早く終わらせればいいのではないでしょうか?」

「はは……。確かにそうかもしれないね。けど、効率も考えると選定した人たちで十分なんだ」

その回答に眉根を上げながら「え?それって私たちは、要らないと?」と聞いた。

ペレーは失笑気味に「そういうことだ」と言い放った。


それを聞いた私と後ろに居た科学者は怒りよりも再度愕然とした。

私達を見まわし、今度こそ何もない事を確認したペレーは踵を返し扉から出て行こうとしたが、扉の前で止まった。


「そうそう、シミュレーションをするための場所は連合組織側で用意してくれるそうだ。私が出て行った後に入ってくる人に聞いてくれ」

そうして、扉を開け出て行った。

出て行ったあと、扉が閉まる音と、静寂が訪れた。


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少しの静寂の後、扉が開き人が入って来た。

連合組織側の通達者らしい。

通達者は私に座るように指示し、私が座った後、前に立ち話始めた。


「さて、既に聞いておられます通り、ここに居られる方々で人工惑星作製のシミュレーションをしていただきます」

そう言い、よろしくお願いしますと言う様に通達者は頭を下げた。

「…早急に行っていただきたいと思っておりますが、連合組織側が保有しているシミュレーション設備や施設は現在、テラフォーミング側にて使用予定としております。そのため、皆様には一旦帰っていただき、1か月後に再度集まっていただきたい所存です」


それを聞いた私は、まぁそんなところだろうと思っていた。

周りの科学者達も、同じような顔をしていた。


通達者は引き続き説明をしたが、

1か月でシミュレーション施設を整えて、そこで行ってもらうのでちょっと待っておいてという事らしい。

それならテラフォーミング側の作業をやって、1か月後にこっちに戻ってきたらいいんじゃないのだろうかとも思ったが、さっき「要らない」って言われたのでまぁこれは無いよなと思い留まる。


「……と、私はこれのみを通達しに来ましたのでこれ以上はございません。解散いただきそれぞれの研究所へお戻りください」

通達者はお辞儀をした後、私に何かあった時の連絡先を渡してから会議場から出て行った。


それを見送った私たちは少しの間沈黙をし、私が初めに立ち上がって前に進んで振り返った。

空気が重い所に居たくないのでとっとと帰るためだ。

「えーっと、とりあえず、1か月後にまた」

それだけを言い、私は扉の方に向き直ろうとしたが、呼び止められた。


「おいおい、俺ら置いてきぼりな状態だけど本当にいいのかよ?」

発言者は黒色の髪を逆立たせた私よりもちょっとだけ若い男性だった。

その発言に続くように他の科学者も私に視線を送ってくる。

「…って言われても、1か月待ちってだけだよ。極秘事項もあるだろうから、各研究所に戻って勝手にやる訳にもいかないしね」

男性に対してそう返答した。

「いやま、確かにそうだけどさ。ほらなんつーの?ムカつかない?」

むかつかないかと言われると腹は立っているが現状は何もできない。

仕方が無いではないかと言いたいが特に何も言い返せず男性を見ながら顔を引きつらせていた。

「お?その顔、やっぱあんたもムカついてるんじゃん?」

「それは……」

私はきっと、苦虫を噛んだような顔になっているのだろうか。

微妙に眉間に皺を寄せている気がする。

「あー、まぁいいさ。じゃああれだ。俺らのリーダーを決めようぜ」

男性は椅子から立ち、私の方に進んだ後、後ろに両手を広げ振り向きながらそう言い放った。

「じゃ、俺かこっちの人、どっちがリーダーが良いか決めてくれや」

何を言ってんだという顔で男性を見た。

「え?何その顔?ペレーだっけ?あいつに初めに意見を言ってたじゃん?」

「あれは……勢いで……ね」

「俺も言おうと思ってたけど先に動かれてなぁー。やるじゃねーか」

何か言い返したいところだが、うまく言葉に出てこない。

「ま、いいか。俺はポール・ラビってんだ。あんたは?」

「ハイマー…、リナ・O・ハイマーよ」

名前を聞き、満面の笑顔と右手を指し向けてきた。

私はその右手を取り、握手をした。

握手が終わり再度、ラビがどっちがいいかと他のメンバーに聞いたが、全員私を指名した。


ラビはその結果に衝撃を受ける様にうなだれていた。

私は、少々めんどくさいことになったなと感じていた。


その後、全員と連絡先を交換し、解散。

それぞれの研究所へと戻るのであった。

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