sector 07
P23:紹介します。ワタシの彼氏です【01】
「今日は……悲しい話から始めさせてください」
久々の配信は、タイトルコールもなく、紺色のワンピースに身を包んだアリアの悲しそうな声で始まった。
「皆さんもお馴染みの、公認ファン第一号のローズちゃんですが、ニューベイへの盗賊団襲撃の被害に遭い……あんなに元気だったのに……あんなに……あんなに……」
言葉に詰まって暫く嗚咽だけが続いた。
「……ごめなさい。ローズちゃん、急いで天国への階段を登っていってしまいました。早いよね……お父さんも……お、お母さんも一緒に……んぐっ……」
「アリア……ダイジョウブ?」
ドローンが心配そうにフラフラ浮いている。生配信をしたい、というアリアの意見には反対だったが真剣な眼差しで訴えられれば何も言えない。
「大丈夫……だから、今日は楽しい話をさせてください。ローズちゃんとの楽しい思い出をたくさん話しておきたいんです。たまにさっきみたいに泣いちゃうかもしれないけど、今日は許してくださいね……」
この時点で万を超える追悼コメントが届いていた。少なくない
「皆さん、ありがとう。頂いたお金は亡くなった人達の遺族の人達に必ずお渡しします。うん! それでは、ファッションチェック・アリア、特別編。公認ファン第一号ローズちゃん思い出コーナーを始めます!」
アリアは出会いから最後にホテル・メサイヤに泊まった夜迄をできる限り笑顔で話していた。時々泣き出したり、鼻をかんだり、また、笑って泣いて、と忙しく配信を終えた。
「ふぅ……終わった……疲れた……」
「ゴクロウサマー。シチョウシャスウ、サイコウキロクダヨ」
「ふふふ、ありがと」
後片付けをしている
「あー……っと、このライトは何処に片付けようかなぁ……」
「……」
しゃがみ込んで片付けするフリをするアリア。それを自らのカメラで舐め回すように鑑賞し始める
首筋はほんのり赤く火照り汗ばんでいる。ライトを当てられて暑かったのかもしれない。きっちり整えたロングストレートに落ち着いた紺のワンピース。腰の辺りにはしっかりとパンティーラインが浮き出ている。
見ているだけでバッテリーの消費が激しくなる。そっとマジックハンドを伸ばして肩に置く。
「ア、アリア……コンバン……」
ピクッと跳ねるように反応すると、更に首筋は赤みを増した。じっと動きを止めてオリハの声を待っている。
「コンバン……イイカ――」
「――んっ!」
急に頭を数回振ると立ち上がって髪やスカートの乱れを直し始めた。オリハは興奮しながらモジモジしているアリアを眺めていた。すると、決心したかのようにオリハのマジックハンドを優しく握るアリア。
「ア……アリア」
そのまま部屋の扉まで連れていくとポイっと外に追い出した。
「エッ、ナンデ?」
すぐさま扉がパタンと閉まる。
「恥ずかしいの。今更だけど、すごく恥ずかしくなってきたの!」
「エー……」
扉の内側でモジモジするアリア。
「はしたないと思うの……なんか最近すぐにエロい感じになってたから……」
「ソンナノ、サイコー――」
「――エッチなのはダメだと思います!」
すると鍵の閉まる音が響く。
「エッチなのはダメです!」
部屋の中ではアリアがベッドに飛び込んで毛布を頭から被っている。
「エーーッ……」
「エッチなのは……ダ……メ……」
毛布に包まれると疲れていたのか一瞬で眠りに落ちてしまった。それを室内に取り付けられた各種センサーと隠しカメラで把握したオリハ。
「アァッ……ネチャッタ……カ」
小声の電子音声で呻く。扉の鍵など無力化済みだったが、流石に疲れたのか、と思い直し
◇◇◇
翌朝、たっぷりの睡眠で回復したアリアと一晩悶々としていたスーパー
薄暗いコクピットの中、目を凝らすと触手が怪しく蠢いている。
「エッチなのはダメよ!」
操縦席に座りながら触手を平手打ちする
「イタイー」
「ダーメ!」
「ケチー……」
コンソールのちびキャラに怪しく微笑むアリア。頬も心なしが赤らめているので、いつもより妖艶に見える。思わず生唾を飲み込む音がコクピット内に響く。
「オリハ、今日の訓練は何? やる気満タンよ〜」
「ゴゼンチュウハ、シャゲキクンレン。ゴゴカラハ、オフィサータチト、エンシュウデス」
「オフィサー……あっ、あの五人の軍人さんね。よーし、がんばるわよ!」
そんな中、プライベートの調子が良いと仕事の調子も良くなるタイプのアリア。オリハを
「クンレン、オワッタラ……」
「えーっ、どーしよっかなー。
「ハ、ハイ〜……」
逆にオリハは悶々とした時間が続き過ぎて女子校に放り込まれた男子中学生のよう弄ばれていた。
◇◇
オフィサーが双眼鏡で覗く中、少しだけ身綺麗にした副団長のナッシュが無線で指示を飛ばしている。
「次、アリア機」
『――はーい!』
「いい気合いだ。ぶちかませ!」
VRゴーグルを被ったアリア、舌舐めずりしながらトリガーを引くと弾丸がフルオートで連射された。そのままタイミングを合わせて視線をずらしていくと、並んだターゲットがすべて破壊されていった。
「ヒュー! アリアやるな〜」
「流石ウチのニューヒロインだ!」
『――えへへ〜。それほどでも、ありますね〜』
浮かれた音声がスピーカーを通して訓練場に響いた。オフィサー達の成績をも上回る速度と正確さ。アリアのセンスが花開いてBMの操作は熟練パイロットのそれに引けを取らないものになっていた。
「ホント、旧ヒロインはちょっとゴツ過ぎ――」
「――お前コロス」
「うわっ、カミナ、勘弁してくれー」
「あははは」
反対にオリハの調子は悪かった。オートパイロットでハンガーまで移動する際も道路の段差に躓いて倒れそうになったりしていた。射撃訓練も終わり昼休憩の為に食堂まで宙に浮かぶドローンと並んで歩くアリア。
「オリハっ。しっかりしなさいよ〜」
ニコニコ顔で両手を腰に前屈み。ドローンに胸元を覗かせながら可愛らしく注意すると、計算通りTシャツから覗く下着に狼狽えるドローン。
「ウヒー、マサシク、ヘビノナマゴロシ……」
「んふふ!」
ドローンから伸びるマジックハンドと恋人繋ぎして歩く様を微笑ましく見つめる団員と呆れ顔の軍オフィサー達。
「何ですか、アレは?」
「あの子は色々と拗れてんだよ。あははは」
カンナが笑いながら横で見ている若い軍服姿の男の肩を叩いている。
「操縦センスが天才的なヤツで自分のBMを恋人のように扱う奴はいたが……」
クルクルと踊るようにドローンの周りを回る少女。如何にも幸せそうな恋する乙女のよう。
「……AI付き一人遊び用の玩具に惚れてんのか」
「それ聞かれたら間違いなくアリアにコロされるし、アタシもアリアの味方するわよ!」
カミナの脅しも意に返さず話を続けている。
「それにしても……なぁ」
側から見ればドローンに熱い眼差しを送ってアタックしているように見える。
「マジもんの
「ちょっと! 言葉遣いに気を付けな……って言っても、確かに心配よね」
カミナもオリハを丁度良い『悪い虫防止』くらいに思っていたが、ここ最近アリアのオリハに対する気持ちが本気っぽくって困惑していたところだった。両腕を組んでアリアを眺めているカミナも本心では心配さが優っている。
「そうだ! アンタ達が正しい道に矯正してあげたら?」
「……えっ?」
「あははは。じゃあそっちの教育は任せたよ、グッドボーイズ!」
カミナも食堂に向かう為、アリアを追いかけていった。男達も食堂に歩き始めたが、一人の若い男は未だ立ち止まって考え事をしている。
「ヘイ、オリバー。あの
「
止まっていた男がアリアを目で追いながら大きく頷いた。
「よし。俺のテクニックでしっかり調教してやろう。
一斉に振り向く四人。
「マジかよ? オリバー、お前はフィアンセがいるじゃねーかよ!」
立ち止まっている四人の真ん中に割り込んで両肩を抱くオリバー。
「へへへ、ルイーズ最近少し太りすぎなんだ。細身のスイート
「サイアク! あははは」
「またバレてルイーズに土下座するのかよ。あはは」
ここで突然端にいた男が指を鳴らしてから二人の方を指差した。ニヤニヤしながらカミナに射線を合わせる。
「仕方ねーな。俺は
「ネイサン、お前もかよ……」
「マジかよ……ホント、このチームは
全員でアリアとカミナの揺れ動くヒップを眺める。
「よーし。確かに上玉が藻屑になるのは勿体無い。いつもの通り
「マルコ隊長!」
凄みのある笑みを浮かべるスキンヘッドの男が親指を立てた。
「やるなら勝てよ」
「ラジャー!」
◇◇
朝起きると顔を洗って歯ブラシを咥えながら髪を整えるアリア。昨日の訓練は午後からもめっぽう調子が良く、オフィサー達の駆る軍のBM相手に互角以上の戦績を残していた。思い出すだけでニヤニヤしてしまう。
「んふふ、それほどでも、あるよ〜!」
独り言を言いながら髪型までセットを終えると、今日の服装を選ぶ為に乱雑に掛けられた服の束に向かう。服を手に取っては放り投げて数点を選ぶと
「ふんふふーん、こらはどうかなぁ……ふふーん、よし、これでオッケー!」
コーディネートを決めると上下の揃った新品の下着に履き替えるアリア。イメージも通りの可愛さにニッコリ微笑んでから膝上二十センチのミニスカートを履いてみる。
「流石に刺激が強いか……」
スパッツを上に履いてからミリジャケを合わせると、それはそれはフェミニンな軍人コスプレっぽい姿が出来上がった。
「ミニスカはやり過ぎかな……まぁいっか、カワイイし。よーし、今日もガンバルぞ!」
オリハを揶揄ってドギマギさせるのを想像するだけで胸が高鳴る。扉を開けて食堂に向かうと、ボサボサ髪のカミナが前を歩いていた。
「おっはよーございまーす」
「アリアか……頭痛いから大声やめて……」
飛びついてはしゃいでみたもののカミナはローテンション。
(二日酔いか……)
そっと離れて横を並んで歩くことにする。
「飲み過ぎ注意ですよ」
「バレたか。ははは、毎朝そう思うんだけどねー」
食堂に近づくと、その横にあるPXに人だかりができていた。皆が機嫌良く賑やかにしていた。
「
「すげー。本当の話なんだよな?」
喜ぶ人や疑う人。騒然としていたが真剣な顔をしたナッシュが現れると何となしに静まり返った。辺りを見回してからニヤリと微笑む。
「オレ達ワイルド・スカンクは準正規軍への格上げが決まった!」
一瞬の静寂。刹那にどよめきと歓声が響いた
「うおぉーーっ!」
「えっ?マジかよ」
自慢げな顔のナッシュは久しぶりだ。いつもしかめ面のイメージがアリアにもできていた。
「そうだ。彼等から正式に通達があった。これはホンモノだぞ!」
すると昨日訓練を共にした男達五人も現れた。少なくない拍手が湧いている。
「昨晩、本部に『準正規軍に値する』の報を入れました。今朝、審査部に回すとのことでしたから間違いないでしょう。今まで審査部に回って却下された例はありませんからね」
「おぉ……」
皆が五人を尊敬の眼差しで眺めている。すぐにでも握手会が始まりそうな雰囲気だ。
「さぁ、まだ朝食前だ。明日より正規軍との連携も訓練することになるらしい。皆、気合い入れてけよ」
「おぅっ!」
湧き立つ団員。それを尻目にアリアとカミナの二人は食堂の椅子に座っていた。
「ホントに決まるとは思わなかったなぁ……」
オフィサー五人と騒ぐ皆に寂しそうな眼差しを向けているカミナを不思議そうに見つめるアリア。
「カミナさんは反対なんですか?」
独り言がアリアに聴こえたことに気づくと、寂しそうに笑いながら首を数回横に振った。
「軍は固っ苦しいからね。それが嫌で傭兵なんかをやってる身としては、どうにも……」
「そうなんだ……」
この『そうなんだ』はカミナの心情と経歴の両方の意味だった。
(カミナさん、軍人さんだったんだ。言われてみればそんな感じかぁ)
そんなカミナが苦しさを覚える軍隊という組織。一抹の不安を覚えるアリア。
「ダメなんですか?」
「ん? あぁ、いや、多分大丈夫だ。何と言っても
「はぁ……」
その辺りの言葉の意味はよく分からない。不満げな顔をしていると、その瞬間に何となくオリハの気配を感じた。
「タイグウガ、ヨクナルダケ」
「オリハ、やっぱり?」
アリアは微かに風を感じていた。春の微風より弱い風。隠密モードのオリハを何となく察知できていることは、まだオリハにも伝えていない。
(その内ビックリさせてやろっと!)
恐らく机の上に着陸しようとしていると想像していた。すると、アリアの想定の場所に着陸したドローンが姿を現した。
「うぉっ! オリハ、突然現れるなよな!」
「スンマセーン」
やる気のない
「まぁオリハの言う通りだ。この辺りの準正規軍は装備提供と合同訓練、それと引き換えの
「ソウイウコト〜」
「二人だけ納得しちゃった……」
あまり意味は分からない。ただ、オリハが『良い』と言ってくれたので不安はなくなっていた。
「まっ、いっか。朝ごはん食べよっと!」
一機と一人を置いて朝食を取りに列へ並ぶアリア。それを見つめるカミナとオリハ。
「カワイイナァ……」
LEDが怪しく赤く点滅している。アリアの方に視線を向けるとこちらに向かってウインクしていた。
「アァァ……」
更に赤色の点滅速度が速くなった。
「大丈夫かな?」
二人を見て溜息一つ。また心配の種が大きくなったカミナだった。
ワタシの彼氏はAIで、愛の巣はコクピットなのReBoot! 〜最強AIの作るVチューバーがVRゴーグル付けたワタシにARでエッチな悪戯?〜 『戦闘中に触手伸ばすな、このエロAI! もうダメ〜!』 けーくら @kkura
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