ワタシの彼氏はＡＩで、愛の巣はコクピットなのＲｅＢｏｏｔ！ 〜最強ＡＩの作るＶチューバーがＶＲゴーグル付けたワタシにＡＲでエッチな悪戯？〜 『もうダメ、そんなの興奮しすぎちゃう！』

PXX:今の私のありふれた日常

　目を瞑っていると微かな電子音は聴こえてくる。しかし街の喧騒は何も聴こえない。空気を震わせるのは遠くの銃声だけ。

「廃墟かぁ。二年前迄は普通の街って言われても信じられないわよね……」

　目を開けてモニターに映る破壊され尽くした街並みを眺める。知らない街でも胸が締め付けられる。思い出すのはテレビのニュースで観た名前も知らない戦争中の国の街並み。泣いた子供達の映像や包帯だらけの兵士のイメージもセットで甦る。

　あまりに現実感が無さ過ぎてまた目を瞑る。銃声に混じる微かな風の音色に耳を傾けながら少しだけ我が身の不幸を呪う。

「十七歳、華の女子高生よ。何でこんな所に……」

　閉じた瞳から少しだけ涙が流れる。どっぷりと感傷に浸っていると無線の音声に一気に現実に引き戻された。

『――アリア、アリア！　聞こえるか、後方にバンデット型が二機、任せるぞ！』

「はい、任されました……だって、オリハ、どうする？」

　涙を勢いよく袖で拭きながら周りを確認していると、不機嫌そうな機械音声（マシンボイス）が聞こえてきた。

「マカサレタ、ッテ、イッタジャン。アリア、ジブンデ、カンガエロヨー」

　コンソールの横にある蓋が開いてゲームパッドが飛び出てきた。

「うわー、オリハ、厳しいーっ！　またうら若き乙女に戦闘をさせるつもり？」

「ソリャ、ソウダ。キノウモ、オアズケ……」

　目の前のコンソールには不機嫌そうな顔をしたアニメっぽい三頭身の３Ｄキャラが不貞腐れて映っている。どう機嫌を直してもらおうか思案していると、遠くのビルの影から大型の戦闘マシンが姿を現した。砲撃しながら此方に近づいてくる。

　やはり何度見ても慣れることはなく恐怖しか感じない。自分を殺そうと近づいてくる明確な殺意。ぼーっとモニター見つめるアリアと呼ばれた少女。突然震えが足から頭へ登っていく。近づく敵をじっと見ていると思わず失禁しそうになるらしい。首を数回横に振ってから両足をギュッと力を込めて内股にする。

　両手でコンソールを掴むとオリハと呼ぶ存在に慌てて言い訳開始。

「し、しょうがないじゃない！　急にカミナさんやナッシュさんが宴会に誘ってくれたんだから！」

「…………フーン」

　もはや痴話喧嘩の様相だ。オリハの機嫌は治らずこちらを向いてもくれない。アリアは仕方なくゲームパッドを手に持ち後退を試みる。

「ちょっとちょっと、撃たれてるって！　オリハ、オリハ！」

「…………フーン」

　コンソールの中で三頭身のくせに妙に滑らかに動くオリハ。呼びかけに応じず不機嫌なまま寝っ転がってこちらを見てもくれない。焦るアリア。実は未だ操作がよく分かっていない。

「えーーっ、Ｌボタンって何よ、あぁぁ、何で左に傾くのよ！　攻撃、攻撃……えいっ！　いやーん、何でナイフを振るのよ！」

「ボタン、ガ、チガウ。Ｂボタンガ、シャゲキ……」

　涙が瞳に溜まり始めたアリア。前方のスクリーンに映る人型の敵マシンに照準を合わせてＢボタンを押すが此方の弾は当たらない。モタモタしていると、横からもう一台同じようなマシンが出てきた。

　ここでアリアはガクッと項垂れ負けを認めた。コンソールに顔を近づけ敗者の弁。

「あーん、もうダメー！　オリハ、もう助けてよー！」

「ジャア……ドウスルノ？」

　機械音声の癖に少し上擦った声。オリハは期待のあまり全身を硬直させてアリアのセリフを待っていた。

「うー……わ、分かった、分かったわよ！　もう降参よ、こうさーん！　何でも言うこと聞くから、今晩ハンガーに行くから助けてー！」

　ピキューンと電子音が鳴るとコンソールに映る背景がピンク色に変わった。オリハが振り向くと鼻の下を伸ばしたエロ顔に変わっている。

「ゲンチ、トッタゾ！　アッ、ソウダ、ナラ……アタラシク、カッタ、スケスケノ、シタギ、ハイテキテクレル？」

「えっ…………きゃーー！　何でアンタ、私がちょっと冒険した下着買ったこと知ってるのよ！」

「シマッタ……」

　顔を真っ赤にしながらゲームパッドを上下に振る。コンソールに映るオリハを右手で指差し一言。

「何で知ってるの！」

「アーー……カードデ、カウト、ゼンブワカル……」

　涙目で頬が真っ赤なアリア。暫く顔色真っ青のオリハを睨みつけていたが、突然に椅子の上で反転して正座。コンソールに背中を向けて抗議の沈黙。

　アリアとの気不味い空間に耐えきれずオリハはオロオロするしかない。

「ベ、ベツニ……ミテモ……ヘルモンジャ――」

「――もーーっ！　デリカシー無い！　オリハのバカ！　エロＡＩ（人工知能）！」

「ヒィーー……ア、ア、アリアー……ユルシテー」

　そこからは何も語らず頬を膨らませて椅子の座面を涙目で見詰めるアリア。正しく痴話喧嘩。オリハは真っ青に変わった背景の中、青い顔で震えることしかできない。

　因みに敵達は、動きを止めた事を罠か何かと勝手に勘違いしてくれていた。

「アリアー……ユルシテー……」

　更に沈黙を続けて焦らしてから、クルッと反転。正しい姿勢で椅子に座りなおした。

「じゃあ、助けてくれる？」

「アッ、ハ、ハイ！　ハイー、ヨロコンデー！」

　その瞬間、ゲームパッドはシュルシュルと仕舞われて、戦闘機の操縦桿のようなモノが左右に現れた。椅子の腰と肩の辺りからベルトが出てきてお腹の辺りでカチッとハマる。四点式のシートベルトのよう。

「じゃあ、しっかりやりなさい！　オリハ、いけーっ！」

「アイヨー！」

　全高六メートルの人型機械、『この世界では戦闘機動兵器（バトルマシン）、略してＢＭと呼ばれるもの』の両目が紅く光った。ライフルを構え直し、左手の盾型の装甲を展開すると、脚部の車輪（ホイール）が音を立てて空転し始める。敵二体が此方の動きが変わった事に気付き銃撃を再開するが、瞬時に真横へ滑るように移動する。クルッと反転すると轟音と共にライフルからマズルフラッシュが数回見えた。

　三十ミリ砲弾は一体の敵ＢＭ（バトルマシン）に撃った数だけの穴を開ける。炎を上げながら敵ＢＭが膝をつくよりも早くビルの陰に姿を消すオリハの操るＢＭ。もう一体は再度オリハを視認する前に、真横からの射撃で機関部にダメージを受けて爆散した。

「ハイヨ、イッチョアガリー！」

「最初からやってよね！　まだ……怖いんだから」

　コクピットの中で少女は両手で自分の肩を抱きながら戦闘ＡＩに文句を言っている。瞳からは涙が零れ落ちる。

「ゴメン……ダッテ、キノウ、サビシカッタカラ……」

「もう……オリハのアホ！」

　不機嫌そうに口を尖らしているが、コンソールを見つめる顔の赤みはみるみる増していった。

「言われなくたって……今晩……新しい下着着けてここ（コクピット）に来ようと思ってたのに……」

「エッ？　ア、アリアー！」

　コンソールの下にあるハートの描かれた蓋が開き柔らかそうなマジックハンドが出てきた。それを掴んでイヤイヤするアリア。

「きゃー、恥ずかし！　やっぱりダメ、エッチなのはダメよ！」

「アッ、シゲキツヨイ……アッ、アッ、ダ、ダメーッ！」

――三頭身アニメ塗りの３Ｄモデル相手に照れまくる少女、その名は『松本アリア』、華の女子高二年生

――怪しげなマジックハンドを柔らかな手に包まれ興奮する『オリハと呼ばれるＡＩ（人工知能）』

　異世界に転生した松本アリアが初めて出会ったのはオリハだった。共に救い、救われ、絆が生まれる。そして……多分……アリアにはメカノフィリア（機械性愛）な気持ちが生まれてしまっていた。

　行け、松本アリア！　だって、しょうがないじゃないか。この世界、最初に会ったのが運悪くこのエロＡＩだったのだから。

　世の中はジェンダーフリー。

　諦めて、安心して、イクのだ！