22.幼い女神と空から来るモノ


 まあ、別に砲撃の類ではなかったのですが。



「なんだ、コレ? タマゴ?」


「タマゴだな。ニワトリのよりだいぶデカいけど」


「メニューのアイテム欄に出し入れできるっぽい。道具扱いでいいのか」



 上空に突如として出現した空中都市群。

 そこから放たれた無数の光は地上のプレイヤー目がけて正確に飛んできて、そして激突寸前にストップ。光を纏った大きなタマゴとなってプレイヤー達の手の中に納まりました。


【ダチョウのよりは小さいかな?】


【大きさよりも何の生き物のかが重要だろ】


【俺、ラーメンの煮卵大好物なんだよね。ゴクリ……】


【食うな】


 プレイヤーだけでなく配信を観ている視聴者も、これだけでは何がなにやら分かりません。そしてよく見たらタマゴはプレイヤー全員の手にあるわけでもなさそうです。



「ウルちゃん様、これはどういう……って、いない?」


「ああ、うっかりネタバレしないようにってことでしょ。あの子、そのへんの気遣いはちゃんとできるみたいだし」


「今度会ったらお菓子でもあげるか。ってか、タマゴが来たかどうかの条件は分かったかも? レベル10に到達してるかどうかで足切りされてるっぽい」


「一定以上のレベルがないとイベント開始してもクリアが厳しいってことかな? 最近はレベル上げないでスポーツとかばっかしてる人もいるし。でもレベル10なら大して難しいってことはなさそう」



 まだストーリーらしきモノが始まった様子はありませんが、様々なゲーム作品に触れてきたゲーマーならイベントの開始条件やら何やら推測を立てるのはそう難しくもありません。



「ちょっち検証してみよっか。誰か、もう少しでレベル10に上がる人いる? 戦闘手伝うから、レベルが上がったらタマゴが空のアレから飛んでくるか確認してみよ」


「まあ流石に今この時点で一定レベルになってなきゃ参加不可ってことはないと思うし、一応ね」


「じゃあ、付き合う気のある奴は街の外まで移動しよ」



 明らかに何らかのイベントアイテムであろうタマゴは、触ったり舐めたり叩いたりアイテム欄に出し入れしてもまるで変化がありません。

 なので、そちらについては一旦後回し。

 一部の検証に熱心なプレイヤー達がイベント開始条件についての推測が当たっているかどうかの確認をすべく、レベル9の初心者プレイヤーに声をかけて街の外までレベル上げに行こうとしたのです、が。



「ありゃ? また空のアレから何か飛んできてない?」


「こんどは光ってないし、比べると遅いし、タマゴでもないな。見た目からしてモンスターっぽい?」


「ああ、見えてきた。ハーピーとかバードマンとか、大体そんな感じのやつね。タマゴを持った状態で非戦闘エリアに指定されてる街から外に出るとイベントが進行するって感じかな」



 早速メタ読みでイベント進行の条件が看破されてしまいましたが、状況としてはまさに彼らが言った通り。恐らくはカラスモチーフであろう黒い翼が生えた鳥人型モンスターが、街の外に出た彼らを目掛けて一直線に飛んできています。



「ひぃ、ふぅ、みぃ……全部で八人、いや八羽かな? 多分タマゴを持ってる奴と同じ数だけ飛んできてるみたい」


「敵の数をこっちの人数に合わせてるのは、一人ソロでも進められるようにかな? 細やかな気遣いが感じられますなぁ」



 などと、後で攻略サイトに書き込む予定の推測など話しつつ待っていると、ようやく推定敵キャラのカラス人間達が地上まで降りてきました。その瞳には高度な知性の色が見て取れます。

 イベントNPCと思しき彼らですが、『ダンジョンワールド』のNPCの知性は作り物だからと馬鹿にできません。魅力的な店員がいる店に通い詰めては、相手がゲーム内キャラだということも忘れて告白しては玉砕するプレイヤーも出るほどです。



『カァカッカ、愚かなニンゲン共よ。先程のタマゴを大人しく渡せば見逃してやろう。おっと、しらばっくれても無駄だぞ。アレはただのタマゴではないのだ』



 案の定、カラス人間はいかにも敵キャラらしいセリフを話し始めました。どうやら複数で出現した時は聞き取りやすいように代表の一人だけが話す設定になっているようです。



「ここで渡したらどうなるんかな? ほれ、どうぞ……あ、無視された。こういうとこはゲームの都合が優先されるんだよな」


「聞いてもないのにめっちゃ喋るなコイツ」


「えっと、なんかこのタマゴはこちらのカラス男達の帝国と敵対してるナントカ王国の女王様がギリギリ逃がした的な感じみたいね。王子か王女かは生まれてみないと分かんないけど。あ、そろそろ話し終わるかな?」



 と、まあストーリーは大体そのような感じです。

 プレイヤー達は天空に城を構える『聖鳥王国』の跡取りが入ったタマゴを守りつつ、侵略者であるカラス人の『ハシブト帝国』を打ち倒す、という。



『カァッカッカ、驚いて声も出ないようだな。どうだ、冥土の土産にもう一度最初から我が帝国の偉大さを語ってやろうか?』


「あ、これ『いいえ』って言わないと無限に喋りがループするやつだ」


「口調は悪人っぽいのに結果的にすごい親切な人みたいになってるな。みんな、もっぺん聞きたい人いる? いない? そんじゃ、もういいっす」



 どうやら追跡部隊として差し向けられたらしいカラス人のおかげで、おおよその事情は呑み込めました。ストーリーさえ把握できたのなら、やるべきことも明確になります。



『カァッカッカ、では貴様らを殺してタマゴを打ち砕いてくれよう! 死ねぇい……ぐはぁ!?』


「開始条件がレベル10ならこんなもんか」


「あ、でも普通のモンスターみたいに消えないね。イベント専用仕様?」



 この場に集まった面々のレベルは、検証のために呼ばれた初心者を除くと、本日のアップデート前までのレベル上限だったレベル30の猛者ばかり。レベル10でもなんとか倒せるであろう設定の敵が相手では苦戦するほうが難しいでしょう。



『グヌヌ……ニンゲン共よ、この場は引き分けにしておいてやろう。いずれまたタマゴを奪いに来るから首を洗って待っているがいい! カァッカッカ!』


「あっはい。お疲れっした~」


「あのボロ負けで引き分けって言い張る図太さ、嫌いじゃないかも」



 そうして秒でボロボロにされたカラス人達は、来た時と同じように上空の都市へと帰っていきました。普通のモンスターと違って消滅したわけではないので、今のカラス男はまた何度か登場する予定なのでしょう。



「おっ、メニューが勝手に開いた?」


「タマゴが孵るみたいね」



 そして今の戦闘に勝利することがイベントの進行フラグになっていたようです。プレイヤー達のアイテム欄から勝手に飛び出してきたタマゴにヒビが入り、そして彼らの手のひらの上で新たな命が誕生したのです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る