17.幼い女神のボス戦配信


 スタート地点の『リマジハの街』から最寄りのダンジョン『ヤシンショシの洞窟』。ウルと愉快な仲間達は今まさにその最深部で待つボスモンスターに挑もうとしていました。


【この洞窟、そんな名前だったんだ】


【ヤシンショシ→しょしんしや→初心者の洞窟。なるほどね?】


【解読班たすかる】


【ネーミング安直で草】


 初ボス戦前の緊張感に生配信へのコメントも大盛り上がり。

 そういうことにしておきましょう。



「全員HPは満タンにしたし……ボスの様子は?」


「部屋の入口からチラ見した感じだと、あっちから動く気配はナシ。多分だけど誰かが入ってきたら動き始めるっぽい」


「初心者の洞窟だし、そんな強いってことはないでしょ。楽勝、楽勝! 一応、後衛にタゲが行かないようにだけ気を付ける感じで。あ、ところで俺この戦いが終わったら結婚するんだ」


「はいはい、フラグフラグ」



 流石はサービス開始と同時に始めるほどのゲーマー達。

 戦術面の立ち回りなどは、わざわざ教えられるまでもなく熟知しています。ここまでの戦闘で緊張が解れたおかげもあり、ちょっとした冗談を飛ばすほどの余裕が生まれていました。共闘したことで仲間意識も芽生えつつあるようです。



『我はみんなの後ろで撮影してるから頑張ってね』


「はい、ウル様! 行ってきます!」



 こうしてプレイヤー達はボスの間へと突入していったのです、が。



「あのボス、たしか妖怪にいたよね。ぬりかべだっけ?」


「いや、石じゃないでしょアレ。よく見ると全体的にプルプルしてるし」


「デカい板コンニャクだコレ」


「このゲーム、謎にコンニャク推してくるの何?」



 ボスモンスターの『板コンニャク・モノリス』は、それを真正面から迎え撃つ構え。その姿は巨大な灰色の板コンニャクが直立しているというシュールなものですが、先程までのコンニャクスライムが直径50センチほどの球体だったのに対し、こちらは5メートル近い高さがあります。正面から相対した際の威圧感は比べ物になりません。

 機動力はさほどでもなさそうですが、上背の高さを活かしたボディプレスが直撃したらかなりのダメージになりそうです。


 余談ですが、コンニャクモチーフのモンスターが多い理由は、『ダンジョンワールド』開発期間中にウルがコンビニおでんにハマっていたのが原因だったりします。

 ヌルヌルして物理攻撃が当たりにくい『糸コンニャクスネーク』や、コンニャクボディが熱々の味噌ダレで覆われた『田楽ゴーレム』と彼らが対峙するのは、まだしばらく先の話になるでしょうが。以上、余談終わり。



 さて、いつの間にやら戦いも終盤。

 プレイヤー達の攻撃が板コンニャク・モノリスのHPをチクチク削るも、間合いを見誤って手痛いダメージを喰らうことも幾度かありました。


 ボスの行動パターンは二つ。

 攻撃範囲内に誰かがいたら倒れ込む。

 倒れた後はまたすぐ起き上がる。


 それをひたすらドッタンバッタン繰り返すだけですが、意外にも機敏な動きのため楽勝とはいきませんでした。特に起き上がる際の動きはダメージこそ発生しないものの、今のレベルでは目で追うのも難しいほどの速さです。

 倒れたところに斬りかかったと思ったら、武器がヒットする寸前で起き上がっていてスカッと空振り。その一瞬の隙に次なる倒れ込みで押し潰されて、大ダメージを喰らったことも一度や二度ではありません。


【お、いいの入った。死んだ?】


【いや。後衛でもギリ一撃死はしないくらいのバランスぽい】


【初心者の洞窟だし、いきなり難しくしすぎてもアレだしね】


【がんばえ~】


 手に汗握る接戦に、コメント欄の勢いも増す一方。

 しかし、それもいよいよ終わりです。



「これでっ……終わり!」



 勝負を決したのは、カステラ侍嬢の一撃でした。

 何度も見ているうちにタイミングを覚えたのでしょう。

 勢いをつけて倒れ込んでくる板コンニャクの攻撃を、咄嗟の横っ飛びでギリギリ回避。再び起き上がろうとする動きに合わせて、先程のレベルアップで覚えたばかりの攻撃系スキル『兜割り』を発動。

 起き上がる動作に斬り下ろしを合わせたことで、与ダメージにプラス補正が乗ったのでしょう。巨大な板コンニャク・モノリスの身体を縦に深々と切り裂いて、見事ボスのHPを削り切ったのです。


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