11.幼い女神とβテスター
いよいよ、βテスト開始。
幸運にも抽選に当たったテストプレイヤー達は、手近なプレイヤーとパーティを組んだりソロで自由きままな冒険を楽しんだり、思い思いの形で冒険を楽しんでいました。
『こんにちは、魔法使いのお姉さん! 楽しんでくれてるかしら?』
「え、子供? って、あ、その顔! もしかして神様!? ……でいらっしゃいますでございますか?」
『うん、我は神様だけど、もっと楽にしてくれていいのよ? みんなに楽しんでもらうために、この世界を創ったんだし』
そしてウルはというと、時折プレイヤーから上がってくる意見や不満点を元に細かな世界法則の改良を進めるほかに、こうしてプレイヤーに直接会って色々な話をしていました。
『ふむふむ、魔法を使う時に大声で呪文を叫ぶのが恥ずかしいのね? それじゃあ、ここをこうして……っと。メニューのスキル欄を指でダブルタップしても魔法を出せるようにしてみたの。ちょっとあそこの岩に向けて試し撃ちしてみてくれるかしら?』
「あっ、ホントに魔法が出るようになってる! 神様、すごい!」
『えっへん! それほどでもあるの!』
大体はこんな感じでの要望聞き取りと世界法則への反映です。
全部の意見をそのまま通せるわけではありませんが、判断に困るものについては『ブイブイゲームス』の社内会議で検討しながら、確実にゲーム内容が洗練されていきました。
『そうそう、あっちのリマジハの街のお店で出してるパンケーキが美味しいのよ! 戦士のお兄さん、よく分かってるの!』
「へへっ、モンスターを倒して稼いだカネを片っ端から食べ歩きに使ってるからな! βテスト中に全部の街の店を制覇してやるぜ!」
時にはこんな会話もありました。
『ダンジョンワールド』内の飲食店で提供される料理や飲み物は、『ブイブイゲームス』の開発チームが一つ一つ試食しながら理想の味に近付けた自信作ばかり。
この世界では何も食べずとも空腹感を感じることはないのですが、飲食によって体力や魔力の値が回復するほか、経験値効率が一定時間アップしたり厄介なモンスターに見つかりにくくなったりなどの効果が設定されているため、多くのプレイヤーは定期的に食事を摂るようにしているようです。
「ぐおっ、ボス強ぇ!」
「これで三度目の全滅か。やっぱ、装備とレベルが足りてないんじゃね?」
『ふっふっふ、そうとは限らないのよ?』
そして『ダンジョンワールド』というタイトル名からも分かる通り、このゲームの大目標として設定されているのは様々なダンジョンの攻略。
なにしろ、約80000平方キロメートル。だいたい現実の北海道より少し狭いくらいの面積がある世界の、実に七割近くが様々なダンジョンで埋め尽くされているのです。森や洞窟や塔や砂漠。中には巨大生物の体内なんてモノまであったりします。
「あ、ウルちゃん様ちわっす!」
「そうとは限らないって、どういうこと?」
『うーん、言っちゃおうかしら? でも全部言ったらネタバレになっちゃうし、ヒントだけね? ボスに挑戦する前に、この洞窟をもっとよく調べたらいいと思うの』
「特効付きの装備か弱体化のギミックあたりかな? ウルちゃん様、ヒント
テスト開始から一週間も経つ頃には、βテスター達もすっかりウルと顔馴染みになっていました。特に積極的にダンジョンの攻略に取り組んでいるプレイヤーからは、どこからともなく現れては役に立つヒントをくれるお助けキャラのように扱われています。
ちなみに呼び名が「ウルちゃん様」で定着したのは、『ブイブイゲームス』の開発メンバーがそう呼んでいたのをどこかで聞かれて、それが自然と広まったようです。ウルほど自由にあちこち移動できるわけではありませんが、開発チームの面々もゲーム内の各地でプレイヤーから聞き取りをしているのです。
ああでもない、こうでもない。
こうしたらもっと便利で面白くなるのでは。
そんな風に皆が一丸となって改良に取り組んでいたら、一か月のテスト期間は瞬く間に過ぎていきました。
『みんな、正式版でも一緒に遊ぶの!』
βテストで吸い上げた意見を反映し、最終調整に要した時間がそこから更に一週間。β版と同じ攻略法では解けないように、いくつかのダンジョンの地形や謎解きの仕掛けをいじるサプライズなども仕込み、今度こそ本当の本当に完成。
テスターから未プレイのゲーマー達へと評判が広まったことで『ダンジョンワールド』への期待値は最高潮へと高まり、そしていよいよ正式サービスの開始当日を迎えました。
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