07.幼い女神とプロの意見


 最初は面食らっていた『ブイブイゲームス』の社員一同でしたが、そこがウルの創ったゲーム風の世界だと聞いてからは急速に状況を受け入れていきました。



「すっげぇ! 魔法ってこんなんできるの!?」


真実マジかよ! 幻想ユメじゃねぇよな!」


「その子、ウルちゃん……様が異世界の神様って本当?」



 なにしろ、ゲーム好きが高じて仕事にまでしてしまった人々です。

 本物のゲームの世界などという状況に興奮しないはずがありません。

 この中では最高齢のタナカ氏も周囲の草木に触れながら、他の皆と同じように目をキラキラと輝かせています。


 以下、余談。

 彼らの順応の早さはすでに現代の地球において、異世界の存在や魔法という技術が既知のものとなっているからでしょう。

 今や池袋における埼玉県民……ほどではないにしろ、渋谷や浅草、お台場などの観光地に行けば様々な異世界から訪れた観光客の姿は決して珍しいものではないのです。以上、余談終わり。



『……というわけで、最初のほうだけ創ったら残りをどうしたらいいか分からなくなっちゃったの』


「私も社長とはいえゲーム制作については素人なもので。社員の皆様にプロの目線からのアドバイスをいただきたく参上した次第でして。さて、ここでは話し合いもままなりませんし一旦会議室に戻るとしましょう」



 ウルの能力が本物だと証明できたのなら、あのクソゲーの世界にも意義があったというものです。一同は空間にポツンと佇むドアを潜って、再び元の会議室まで戻ってきました。ウルが先程の世界との接続を切ったので、もう一度開けても社内の廊下しか見えません。



「タナカさん、さっきの仕組みを使ったらすごいゲームが出来ますよ!」


「ああ、どんな大手だって絶対真似できねぇよ」


「去年までは、いつ辞めるかばっかり考えてたけど残って良かった!」


「こらこら。みんな、気持ちは分かるが落ち着きたまえ。社長、とウルさん。まず確認させていただきますが、先程の……異世界は、広く一般のユーザーが遊べるようなものなのでしょうか?」



 年長者ゆえの落ち着きでしょうか。

 まずタナカ氏が根本的な部分について質問をしました。

 限りなく本物に近いリアルなゲーム世界を体験できるというコンセプトには素晴らしいものがありますが、いくらなんでもウルがプレイヤー一人一人の自宅を訪ねてドアや引き出しを開通させていくのは現実的ではありません。

 

 ゲームセンターなど特定の施設に移動用の仕組みを設置するだけなら可能性はありますが、それでも何千何万ものユーザーが同じ世界にアクセスした場合、プレイヤー間のトラブルを回避する術はあるのか。

 ゲーム内のモンスターやトラップにより、怪我や生命の危機が及ぶ可能性についてはどうか。そういった疑問に安心できる答えが出ない限り、利益目的であのようなゲーム風世界を利用するのは娯楽を提供する企業として不誠実である、と。



「なるほど、ご意見ごもっとも。流石はタナカ様、経営はアレでもゲームを作るほうになると頼りになりますな」


「は、はは……喜んでいいのかどうか」


「いえいえ、ユーザーに誠実であろうとするその姿勢、尊敬に値しますとも。完全にゲームバランスが破綻した重課金前提のソシャゲを運営していた方とは思えません。そういえば私も三ケタ万円ほどガチャりましたっけ」


「ぐはっ!? ……あの、もう少し手心というか」



 ある種のトラウマを刺激されたタナカ氏がいきなり机に突っ伏してしまいました。ですが、そうした苦い経験があったからこそ現在のユーザーに真摯に向かい合おうとする姿勢が養われたのかもしれません。氏の心の平穏のためにも、せめてそういうことにしておきましょう。


 元々はウルとコスモスが自分達だけで楽しめれば良かったのですが、いつの間にやら商売として利用する方向で話が進んでしまいました。

 別にそれはそれで楽しそうなのでウル達としても構わないのですが、一般のユーザーやゲーム会社のテストプレイヤーを巻き込むとなると、安全面について適当に済ませるわけにはいかないでしょう。

 死んでも死なないような二人と違い、普通の人間は死んだらそのまま死んでしまうのです。万が一、死人でも出たらもはや遊びどころではありません。



『ちょっと、いいかしら? さっきの安全がどうっていうのだけど、それは多分なんとかなると思うのよ?』



 しかし、流石は本物の神様。

 ウルにはそのあたりの問題を一気に解決できる秘策がありました。


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