05.幼い女神とゲームの会社


 二度目の失敗をした翌日のこと。

 ウルはコスモスと一緒に件のゲーム会社を訪れました。

 なかなか年季が入った建物ですが、入口横の案内板を見た限りでは賃貸ではなく十階建てのビル一棟が丸々会社の持ち物であるようです。



「こ、これはこれは社長! お待ちしておりました!」


「いえいえ、こちらこそ名ばかり社長が突然押しかけてすみません」



 わざわざ一階の受付で二人を出迎えた初老の男性タナカ氏は、この会社の副社長。最近コスモスが会社を買い上げるまでは社長だった人物。どうやら倒産寸前まで傾きかけていた会社を救ってくれた新社長に頭が上がらない様子です。


 このゲーム会社『ブイブイゲームス』は、昭和後期のファミコンブーム期に創業した、歴史だけなら業界でも老舗とも言えるメーカーです。

 八十年代から九十年代にかけてヒット作を連発し、こうして自社ビルを建てられるくらいにブイブイ言わせていたのだとか。タイトルを聞けばウルが知っている作品もいくつかありました。

 前社長であるタナカ氏も、当時はやり手のゲームプロデューサーとして毎晩のように銀座ザギン六本木ギロッポンで高級な寿司シースーを嗜む羽振りの良さだったそうで。



『ねぇねぇ、タナカのおじさん。それなら何で潰れそうになってたの?』


「ぐっ、そ、それはですね……」



 通された会議室でお茶請けとして出された『三幸製菓』の雪の宿、白くて甘い個性派のお煎餅をバリバリ齧りながら、ウルが容赦のない疑問をタナカ氏にぶつけました。まさに、無邪気な子供らしい残酷さ。


 なにしろ会社が潰れそうになった原因は、一言で言ってしまえば創業社長から会社を継いだ二代目のタナカ氏に経営のセンスがなかったからなのです。いくら業界で名が売れていようが、元々は現場の人だった彼にいきなり畑違いの仕事をさせるのがそもそもの間違いでした。


 次代の覇となるであろうと見込んだ新ハードが大コケし、それに合わせて膨大な資金と時間をかけて開発していたソフトも共倒れに。


 それはまあ仕方ないとしても、起死回生を狙って出した新作RPGは、うっかり同ジャンルの国民的大作RPGの最新作と同じ日に発売してしまったせいでロクに話題にならず。広報にかけている金額がどんなに少なく見ても三桁は違うのです。これでは勝負にすらなりません。


 そして最後の最後、一発逆転を狙って出したスマホ向けソーシャルゲームがダメ押しとなりました。知名度のある自社版権キャラを片っ端から出したゲーム内容。根強いファンの多い老舗メーカーだけあって、リリース直後こそSNS等でそこそこ話題になっていました。

 しかし資金難の焦りからか、ガチャに高額課金して最新キャラを引き続けなければまともにクリアできないようなゲームバランスにしてしまい、おまけに人材不足で満足なデバッグができなかったせいか、緊急メンテでゲームが止まることもしばしば。悪評に次ぐ悪評により僅か三か月でサービス終了となってしまいました。



「私がここを買ったのが、ちょうどそのあたりの時期でしたね」


「ええ、地獄に仏とはまさに社長のこと。おかげで闇金に内臓を持ってかれずに済みました」



 コスモスの資金提供により倒産秒読みだった『ブイブイゲームス』の財政状況は一気に回復。あちこちの金融業者への借金も完済し、今では大儲けとはいかないまでも社員に夏冬のボーナスを出せるくらいまでに持ち直しています。


 一発逆転狙いで大作に開発リソースを全部注ぎ込むのではなく、シンプルながらも値段分は確実に楽しめる手堅い作品を早いスパンで出していく方針にしたのが正解だったのでしょう。

 大きく欲をかいてもロクなことにはならない。真面目にコツコツ働いている人にこそ幸せはやってくるというお話でした。めでたし、めでたし。




『ねえ、コスモスお姉さん。どうしてタナカのおじさんを助けてあげたの?』



 しかし、ウルには今の話の中に一つ分からないことがありました。そもそも、どうして縁もゆかりもないコスモスが少なくない資金を出してまで、潰れかけた会社を救ったのか。


 その問いへの回答はとてもシンプルなものでした。



「ああ、そこを話していませんでしたね。簡単なことです。この方、経営についてはアレですが、ゲームを作るのはとても上手いのですよ」


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