04.幼い女神と失敗は成功の母
『またクソゲーだったの!』
ウルとコスモスが大学ノート数ページに渡って考えた設定を反映したゲーム世界は、またしてもマトモに楽しめるようなものではありませんでした。
今回はファンタジー世界を冒険するRPGがコンセプトということで、おおよそ10キロメートル四方の広さがあったのですが、スタート地点として設定したお城と城下町の他には100メートルほど先に洞窟が一つあるだけだったのです。
「まあ最初の街と世界設定を考えた時点で、ほぼノートに書いたアイデアが尽きてましたからね。これがいわゆる
ゲームを制作できるゲームというジャンルも世の中にはありますが、その「初心者あるある」が凝り過ぎた設定を上手く落とし込めず、序盤だけ作った時点で投げ出してしまうというもの。
街やダンジョンを一つ二つ作った時点で、ほとんどガス欠。
壮大な世界観や詳細に考えられた登場人物のプロフィールなどは、街の住人のセリフなどから辛うじて知ることができますが、それが肝心のゲームの本筋に反映されていなければ虚しいだけ。世の中には、そういった素人制作ゆえの拙い部分をこそ愛好する上級者もいるようですが、ウルにそういう特殊嗜好はまだ早いようです。
「ああ、でも例の『ステータスオープン』は面白かったですよ。アレは正直アガりました。まさか物理的に触れてフリスビーのように投げて遊べるとは。ウル様の自信作だったラスボス、百億年前の先史文明を滅ぼしたことになっていた『暗黒邪神最強皇帝竜スゴイワルイザウルス』が洞窟の地形に引っ掛かって動けなくなっていたのは残念でしたが。設定通りのマッハ100万で大空を飛ぶ姿を一目見たかったものです」
『うっ、それについては触れないで欲しいの……』
「ふふふ、良いではないですか『暗黒邪悪無敵恐竜王スゴクツヨイザウルス』。私はそのセンス嫌いではありませんよ」
『だったらせめて名前をちゃんと覚えてあげて欲しいの』
「では、リテイクで。さらば『暗黒(※中略)ザウルス』。あなたのことは三日くらい忘れません」
『中略!?』
ちなみにラスボスに設定されていた『暗黒(※中略)ザウルス』は、一応倒すことがクリア条件として設定してあったので、ウルがステータス画面を高速で投擲して首を切断。憐れ、生後二時間ほどでその短い生涯を終えました。小山のような巨体なのに狭苦しい洞窟に配置していたのが、そもそもの間違いだったものと思われます。
「しかし、失敗は成功の母とも申します。今回の失敗で我々の問題点は明らかになったかと」
『問題点? 我にそんなのあったかしら?』
ついさっき二度目の失敗をしたばかりのウルは真顔で言いました。
ごく短時間落ち込むことはちょくちょくありますが、基本的にメンタル面の回復力と自己肯定感が凄まじく高いお子様なのです。
「問題点とはズバリ……素人がいきなり大作を作るのは無理。そしてウル様も私もゲーム制作に関しては全くの初心者です」
『はっ、たしかに!』
何百万本も売れたヒット作を手掛けたゲームクリエーターも、作り始めた当初は誰でも初心者。地道に勉強をしながら、試行と失敗を積み重ねて必要な技術を身に付けていったはず。
対して、いくら神としての能力が色々あるとはいえ、ウルはゲーム制作に関しては全くの素人。コスモスも似たようなものです。三人寄れば文殊の知恵とは言いますが、そもそも二人しかいない上に素人同士ではお話にもなりません。
『ってことは、つまり諦めろってこと?』
「いえいえ、まさか」
『じゃあ今から勉強するの? でも、そこまでするほどでもないっていうかぁ』
「いえ、それも違います。まあ勉強はしても良いかもですが、それがモノになるまでには時間も要るでしょうし、ここはもっと手っ取り早い方法でいきましょう。つまり、プロに頼ります」
『プロ!』
要は、ゲーム制作のノウハウがない素人だけでやろうとしたのが失敗の元だったわけです。ならば、素人ではない人間。ゲーム制作の熟練者に舵取りを任せれば根本の問題は解決します。
「ふふふ、実はこんなこともあろうかと経営が傾きかけていたゲーム会社を買っておいたのです。彼らに手伝ってもらいましょう」
深く気にしてはいけません。
コスモスという女はそういう生き物なのです。
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