02.幼い女神と落下する世界
しかしゲーム制作の素人が勢いだけで作ったゲームが、いきなり名作になるなどという都合の良いことが果たして起こるものでしょうか?
もちろん、そんなことはあり得ません。
いくら本物の神様とはいえ、そのあたりの現実はシビアでした。
『あっはっは! さてはコレ、すっごいクソゲーね!?』
現在ウルがいるのはタテ10メートル、ヨコ100メートルほどの、四方を高い壁で囲まれた細長い空間。辛うじて足場となる地面だけはあるものの、それ以外には何も配置されていません。草も木、山や川、人工的な建物などの一切が見当たらず、ついでに言えば空気すらありません。呼吸を必要としない彼女でなければ早くも死んでいたところです。
『そういえば、ジャンルをちゃんと決めてなかったの』
恐らく、さっき創世する際に細部まできちんと決めていなかったせいでしょう。ウルの頭上から巨大な金属塊が雨あられと降り注いできたのです。一個あたり何トンか何十トンか、見た目からでは威力が推し量れそうにありません。
『あれ、壊せない? さすが我が作った世界。けっこう頑丈ね』
常人なら何が起きたのかも分からず潰されていたところでしょうが、女神たるウルは運動能力もかなりのものがあるのです。
落ちてくる金属ブロックを殴って蹴って、その反動を利用して器用に空中をしながら軽々と弾き飛ばしていきました。かなりの力を込めて打撃を加えたのに金属塊が砕け散らないのは、他でもない彼女自身の力で創られた物体だからでしょう。
『ふむふむ。壁にめり込んだりはしないのね』
蹴り飛ばしたブロックが超音速で四方の壁に激突しても、壁が傷つく様子はまるでなし。細部を決めずに大雑把な感覚で創ったせいで本人にも仕様の詳細は分かっていないのですが、落ちてくるブロックと同じく容易には破壊できない物質であるようです。
続けて『ふーっ』と誕生日ケーキのロウソクを消すかのように、口から摂氏一万度を超える炎を吐き出してみましたが、物理的な衝撃と同じく効いているようには見えません。
『うーん、でも避け続けるだけじゃ全然楽しくないの』
こんな状況でもウルの余裕が消えないのは、その気になればいつでもこの世界を放棄して帰れるからでしょう。何十トンもの金属ブロックに押し潰されても痛みすらなく再生できるので、スリルを楽しむ方向でもイマイチとしか言えません。
『あれ、あの形って見覚えがあるような?』
ただ落下物を避け続けるだけのゲームかと勘違いしそうになりましたが、さすがは一端のゲーマーというところでしょうか。ウルは落ちてくるブロックの形に法則性があるのに気付きました。
凸型、棒型、Z型、L字型、田の字型など……いずれも全く同じ一片10メートルの真四角の立方体を四つ繋げたバリエーションであるようなのです。
『ははぁ、なるほど。きっとアレね?』
ピンときたウルは、空中で適当な形のブロックをいくつか殴り飛ばして、ブロックが空間の端から端まで隙間なく横一列を埋めるようにしてみました。すると案の定、あれだけ叩いても傷ひとつ付かなかったブロック列が、一瞬でパッと消滅したのです。
この七種類の
あの世界一有名な落ち物パズル『テトリス』と同じに違いありません。
レトロゲームにも手を出しているウルはもちろんよく知っていました。というか、さっき適当に創世した時にゲーム棚を物色してた時にたまたま視界に入ったか何かで無意識下に『テトリス』の印象が残っていたものと推測されます。
『ルールが分かったら、こっちのものなの!』
ゲームの仕組みさえ把握したら早いものです。
落ちてくるブロックを殴り飛ばすのは先程と同じですが、今度は隙間なくピッチリ埋まるように気を付けるだけ。大量に積もっていたブロックの山がみるみる消えていきました。
『ふっ、まあ我にかかれば楽勝なの!』
そして一時間も経たないうちに全てのブロックが消えて、開始時点と同じ地面に何もない状態に戻すことができました。
『あれ? これって、もしかしてクリアとかないやつなの?』
まあ、またすぐ次のブロックが降ってきたのですが。
最初にクリア条件をちゃんと決めておけば、キリの良いところまで消したら終わりという
その気になれば今からでも追加の世界法則を後付けで足すこともできるのですけれど、このあたりになるとウルにもだんだん分かってきました。
落ち物パズルをリアルにしても無駄に面倒になるだけで特に面白くはない。いくら元ネタが名作でもジャンル的に向いていないのだから仕方ないのです。
そもそもこの世界で遊べそうな神々やそれに近い能力を持つ超人以外には、ゲームどころか悪趣味な処刑装置にしかならないでしょう。であれば、わざわざ追加で力を使ってまでシステム面を改善する意味もありません。
『うーん』
フッと床や壁やブロックが一瞬にして消えました。
ウルが落ち物パズルの世界を綺麗に消し去ったのです。こうして消した世界の残滓を取り込めば、全部ではないまでも使ったエネルギーの幾らかは回収できることでしょう。
『……帰るの』
こうして神の権能を用いたゲーム制作の第一歩は、見事なまでの大失敗に終わりました。
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