ランニング33:海の幸ダンジョン?

 さて。辺りを見回しても、島とかの類は見当たらない、正に大海のど真ん中。確か、音は空気中より水中の方が伝わりやすいとか何がで読んだ気がしないでも無いので、先日みたく超加速状態で海中に突入するのはやめておきました。


 海面まで通常速度で到達し、覚悟を決めて海中へと走り込みました。時速121kmで航行する潜水艦とか、アニメとかでもあったのかな?まあ、目的地までは通常走行でゆっくりと向かいます。

 魚とかの群れがいたら、漁をしても良いかなと思ったからです。それでも、農作物よりはだいぶ足が早い(消費期限が短い)生物なまものなので、まだ捕まえないでおきますが。


 お前ら運が良かったな、とか謎のセリフを脳内でつぶやきながら、どんどん深度を下げていき、それは海面から二千メートルは降りた海底にありました。


「海底洞窟、かな?」


 ぼくは魔石で光るランプを取り出して、洞窟内を照らしながら内部を探ってみましたが、だいぶ奥が深いというか、人工物らしい通路が入り口から続いていました。


 まさかね、とつぶやきながらもワクワクしながら、洞窟内に入ってみました。壁や床や天井には、発光する床石が嵌め込まれていて、ぼんやりとした光量が確保されていました。

 通路の幅と高さは3mくらいなので、大人の兵士でも二人は並んで戦えそうです。


 通路はところどころで分岐していて、サーチ結果で目的地へと近い方を選んで進んでいくと、小部屋に出て、そこには10m四方くらいあって、ジ⚪︎ーズもかくやという大きなサメが泳いでいて、ぼくの姿を見ると真っ直ぐに泳いできました。

 何重にも生え揃った鋭い歯は確かに脅威でしたでしょう。

 元の世界のぼくならばそもそも動けないので戦いにもなりません。

 だけど、この世界の、今のぼくなら、かなり速度を抑えた超加速を0.01秒起動して、鮫の側を通過するだけで、サメの体はズタズタに切り裂かれボロボロになり、やがて死体は発光して消えて、床には水色の魔石と、フカヒレらしき何かがドロップしていました。


「これやっぱ、もしかしなくてもダンジョン?」


 それからもいくつもの部屋で魔物らしき存在と遭遇し、同じ様に倒し、海の幸的なドロップと魔石を回収しつつ、罠が発動しても加速やシフトで回避しつつ、サーチ結果の指し示す方へと、ズンズンと、何時間もかけて進み続けました。


 数百匹の太刀魚みたいのとか、毒を放ってくるイソギンチャクとか、頑丈そうな甲羅を持つ海老や蟹の類とか、魚人の兵団みたいのや、人魚の群れっぽいの(綺麗系というよりはっきり魔物系)など、階層を下りれば下りる程に敵の数は多く強くなっていくようでしたが、どれも超加速の衝撃波には耐えられませんでした。下層に行けば行くほど速度も上げておきましたが。


 もう何十階層潜ったのか分からなくなるくらい、ひたすらに先に進み続けると、これまでよりだいぶ大きな部屋に突き当たりました。


 中に居たのは、とても大きなタコ。鑑定メガネで見ると、クラーケンと表示されています。斬撃や毒などに高い耐性を持ち、再生能力まで高く、海の魔物の中でも頂点に数えられる事も多いそうです。

 まあ、いろんなラノベとかで海編を賑わすやられ役として定番ですよね。そして、再生能力も高いと来れば、ずっと影の中で待機してくれてるイプシロン達に、回収を頼んでみることにしました。


 この大部屋は、縦横高さが300mくらいはありました。クラーケンの触手一本が軽く100m近くはありそうなので、普通に戦おうとしたらかなり大変そうです。

 まあ、ぼくにしたら、いつもとやる事変わらないのですが。


 近づいていくと、何本もの触手が伸ばされてきたので、ブツ切りに出来るような速度と角度で超加速を起動。切り落とされた触手は即座に影の空間に収納してもらいました。


 あちらとしても、まさか一撃で触手を丸ごと切り落とされるとか想定外だったようで、次は少し恐々と、二本の触手を伸ばしてきて、それも美味しく頂きました。いや、美味しく頂くのは多分帰ってからになりますが、影の空間に仕舞った触手は消えずにそのままになってるそうなので、これは乱獲しておくべきですね。


 何せ、根本は直径3m以上は余裕でありそうな触手ですから、数十本もあったら、何人分のお腹を満たせるのか分かりません。

 半分以上の触手を切り落とした頃には、最初に切り落とした触手がだいぶ長さを取り戻してきてましたが、待ってあげることにしました。

 可哀想に、逃げたそうにしてましたが、ダンジョンのボスに逃げ場所はありません。毒っぽい墨を吐いてきたりもしましたが、チョちょっと素早く動き回れば部屋の中の水流を操作する事も容易で、ダメージは受けませんでした。キゥオラでもらってきた魔道具の中には、完全毒耐性の指輪とかあったのを嵌めてあるので、まあ効かなかったとは思いますが。


 一本を完全に切り落として再生するまでに約十分。八本の触手の再生タイミングが順ぐりになるよう調整して、5巡ほどさせましたが、その後は腕がほとんど再生しないようになったので、ズタボロになりかけてた本体にも強めの衝撃波を浴びせて魔石とドロップアイテムに変換しておきました。

 嬉しいことに、本体を倒しても収穫済みの蛸足は消えなかったようです。これでファーミングできますね!


 ドロップアイテムは、大きな水色の魔石(サメの奴のが直径5cmくらいだとしたら、クラーケンのはその10倍くらい)と、首飾りが一つ落ちてました。鑑定で見ると、水中呼吸と毒無効が付いてる当たりアイテムですね!これでポーラとか連れて来れるかな?またポーラ一人を贔屓する感じになっちゃうので調整しないといけないだろうけど。


 さて、ボス部屋の奥の壁の一部が開いて、その奥に通路と小部屋が続いていました。


 小部屋の中央には、台座に大きな黒い石が据えられていて、鑑定すると予想通り、ダンジョン・コアでした。


 手を触れてみると、ダンジョンを踏破したマスターとして登録するか聞かれたので、登録はしておきました。すると、ダンジョン内の構造とか魔物の配置データとかが意識内に流れ込んできて、色々操作できることがわかりました。


 操作メニューの中には、ダンジョン・コアを外すという選択肢もあって、選ぶとこのダンジョンは崩壊して、別の場所に設置し直すことが出来そうなのですが、適性地に設置しないとダンジョンの大きさが足りなかったり魔物が弱くなったりとか、いろいろ不都合が生じるようなので、とりあえずはこのままにしておく事にしました。

 クラーケンのリポップにはおよそ24時間かかるというのも確認できたので、しばらく通うことになりそうです。

 クラーケン以外はほぼ全部放置すれば、ダンジョンのリソースもクラーケンだけに集中させられるでしょうから、省エネにもつながるだろうなとか想像しながら、ちょっと考えてから、イルキハのリーディアの元へとワープしたのでした。


 ほら、なるべく順番は公平にしないとね?


 いきなりの無茶振りではあったけれど、影の空間の中で蛸足を1mの長さにしてさらにそれを四分割くらいにしてもらったのを、水洗いして滑りを取り、一口大サイズへと頑張って切ってもらったのを高温の油の大鍋で次々に揚げてもらって、調味料は塩とかで食べてもらいました。


「うまっ!?」

「外見からすると食べ物には見えませんでしたが、食べてみるとなかなかですね」

「あっさり目で、いくらでも食べられそう」

「おいしー!」

「これは酒のつまみにも良さそうですな」


 もちろんぼくも、リーディアの家族や親族の皆さんたちと頂きました。女王や重臣も食べたものですから、臣下にも振る舞われれば食べない訳にはいかず、特に一般兵士や市民には好評だったようです。

 もちろん、影の空間を通じて、キゥオラやマーシナの王家にもお裾分けされて、そちらでも好評だったようです。


 食後は、リーディアと二人でまったりしながら(節度を守って)イチャイチャもしつつ(誰がどこから覗いてるか分からないからね!)、夜も共に過ごしませんかという魅力的過ぎるお誘いも同じ理由で辞退して、先日イルキハを出発して山脈を越える時に気になってた存在に会いに行ってみる事にしました。


 こちらは、特に食糧難の解決にも、土地枯れを癒す手段にもならない存在な様なのですが、気になったんですよね。

 あの時のぼくでも相当だった筈で、そのぼくに追い付き殺し得る存在が、なんでもない野良なモブな筈も無いですし。


 まあ、結果から言うと、会いに行ってみて大正解でした。

 殺されそうにはなったけれど。

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