ランニング17:イルキハ王国についてとこれからについて

 イルキハはおよそ百五十年前に建国された、西岸諸国の中では新しい方の国だそうです。当時のミル・キハ公国当主の第三公子とキゥオラ王国の第二王女が娶され、ミル・キハの西、キゥオラの北にある、両国で管理できていなかった空白地帯に少しおまけをつけて開拓させる事にしたのが発祥だそうで。


 切り拓いた地は自分達の領地にして良いと約束された二人は真面目に働き、周辺諸国の貴族で家督を継げない次男三男や次女三女、食い詰めた農民や犯罪奴隷なんかも融通してもらいながら、開拓開始から十年後にはイルキハ王国を成立させたそうです。

 彼らの子供達も懸命に開拓に励んで、やがて山間部で銅の鉱脈を見つけた事で国力はさらに発展しました。

 建国して五十から百年後くらいまでが、最も若々しく勢いにも溢れていた国だったそうです。


 ただ、良い時は永遠に続かないというのがイルキハにも当てはまったそうで。めぼしい平地部の開拓が済んで貴族間の諍いが増え、鉱山はだんだんとキゥオラ寄りに移っていって、同じ鉱脈を掘っているのが明らかになって風向きも変わってきて。

 元からおこぼれをもらった小国ですから、国力はミル・キハとキゥオラの数分の一しか無くて、主要産物は木材と銅くらい。後は毛皮や薬草が少々という感じで、ミル・キハとキゥオラにはずっと頭が上がらない関係が続いていたそうです。


 それでも地道に頑張っている内に、東岸諸国で戦乱の嵐が起こり始めたのが、およそ五十年前頃。

 イルキハには産業が乏しく、キゥオラの様な金融業もすぐには真似できないので、投機に乗り出してしまったそうです。

 東岸諸国の争乱で勢いのある国や勢力に出資して、リターンを得ることがイルキハ貴族や王族の間で流行。むしろ乗り遅れるなと過熱していき、対抗勢力の出資者への嫌がらせや妨害行為なども横行。


 投機に国ごとのめり込むのは危ないと分かってはいても、勝ち続けている内は止められない。一番太い投資先が、ドースデンのライバル国だったこともあって、それなりにリターンもあったらしいけど、ドースデンが巻き返し始めたら、状況は反転。最終的な勝者がドースデンになると、破綻した有力者が続出って・・・。


 ダメじゃんね。

 平民のお子様に過ぎないぼくでもそう思う。

 リーディアは、ぼくのそんな表情を見て苦笑いしながら説明を続けてくれました。


 リーディアの一族はイルキハでも特殊な位置付けで、イルキハ建国の祖がやってくる前から現地に住んでいた一族で、二代目国王の妃を輩出して国造りにも協力。その後も時折王族や高位貴族と婚姻関係を結んでいた重鎮といって良いご意見番ポジションだったけれど、戦争荷担や投機を止めるように提言し諌め続けていたので煙たがられていたらしい。


「でも、それでリーディアは王族から追放?されたの?」

「追放というか除籍ですね。本来なら適当な貴族相手に降嫁でしょうけど、私以上の光属性魔法の使い手はイルキハにいませんでしたから」

「使い道が他にありそうってことでキープされてた?」

「そんな感じです。

 で、東岸諸国を征したドースデン王国が帝国を名乗るようになったのと同じ頃、生命線だった銅山の不調という大問題を抱えたイルキハは、キゥオラとミル・キハに援助を要請しました。自力だけだとどうしようも無いと」

「えっと、でも、けっこう大がかりに攻めてきてたよね?」

「キゥオラから提示された援助の条件が、イルキハとの間で係争になってる鉱脈をあきらめることだったんです。

 キゥオラの第三王子を婿入りさせて、婚姻と援助金の紐付きにして」

「なるほど。王都の方をどうにか抑えたとしても、アミアン一族がおとなしく言うことを聞くかわからなかったから、王都の混乱が伝わるかどうかというタイミングで先手を打って制圧しようとしていたということか」


 ドロヌーブさんがまとめてくれて、リーディアも肯定しました。


「私や私の一族は反対してましたけどね。

 でも、カケルに聞いた限りでは、企みはほとんどうまく行ってたようで、盗賊団が駆逐されていたとしても、体勢を立て直す前にイルキハの兵力が投入されていれば、成功していたのではないかと」

「そこは否定しないわ。規模としては千に達するくらい?でも、イルキハは王都の方にも兵力を展開しているとしたら、かなり大博打を打っているというか、よく賄えたわね? いや、賄えてないのか」

「ご名答ですよ、ポーラ姫。援助の要請をしたもう片方、ミル・キハからの条件です。私はその詳細について知りませんが、東岸諸国の戦乱でも活躍した傭兵団を起用できていたとかも、噂で耳にしました」

「むぅ、ミル・キハか。カローザやガルソナと違って、東岸諸国の争乱には一切手を出さず、静観を続けていた分、国力を貯め続けている」


 だんだん話がむずかしくなってきたので、いったんついていけそうな話題に無理矢理戻してみました。


「でさ、リーディアはどうして王族から外されたの?」

「イルキハの恥を晒すようなしょうもない理由ですね。キゥオラの王族を婿として迎えるに当たって、適齢期として釣り合うのは、私ともう一人くらいしかおりませんでした」

「あっ、なんかもうわかったかも!」

「イ・フィー姉様、直接的な血のつながりはありませんが、彼女は現王の第一王女ですから、私よりもずっと格は上で、キゥオラの王子を婿に迎えるには適切な存在です。なのに私を王族から除いておいたのは、将来に対する保険でしょうね」

「浮気の防止?」

「そういった感情的な理由の他にも、キゥオラ側からすれば、王族の血が入っていれば良いのですから、失策続きの現王に連なっていない方が、責任を取らせるには都合が良いのですよ。つまり、配偶者としてすげ替えられる危険性を避けたかったのでしょうね」


 リーディアが丁寧に説明してくれたおかげで、だいたいの状況は分かりました。次に向かうべき場所がどこかの見当もつきました。


「ってことで、ポーラ。そろそろ動こうか?」

「そうね。千に達する数を眷属化するとなると、一日では済まなそうだし」

「盗賊団の留守番役の方は、イルキハから来た兵士や貴族の一部も、殺さないで眷属にするみたいなことできる?」

「隷属の魔法を使えば可能よ。相手方が受け入れる必要があるけど」

「じゃあそんな感じで」

「誰か、リーディアみたく、情けをかけたい相手でもいたの?」

「うーん、あのフーゴーの相方とか、マッキーの息子夫婦や孫みたいな存在だったからね。あと、貴族の偉い方のだと、人質にして交渉を有利に進める材料に出来たりしない?」

「まあ、全員殺し尽くして眷属にしようとするよりは穏当に聞こえますね」とはリーディア。

「あとは、リーディアみたく、光属性魔法で、浄化とか、アンデッドを強制的に一掃するような手段があるなら、アンデッドじゃない手下もいた方が、保険にもなりそうでしょ?」


 という訳で。

 ドロヌーブの息子さん始め、迎撃体勢は整えてたアミアン一族としても、侵攻してきたイルキハ兵の方へ偵察部隊は昨晩から出してあったらしく、監視態勢は出来てるそうで。


「誰を捕虜にするのかしないのか、ポーラ姫の眷属にするしないの選択に、私どもの意見も参考にして頂けると非常に助かります」


 そんな感じにドロヌーブの息子さんは、イルキハの兵力を粉砕した自分にもとても好意的だったのだけど、その妹さんの方は、ポーラとリーディアに挟まれて鼻の下でも伸ばしてる姿を見られたかそう受け止められたのか、ゴミ屑でも見るような眼差しで見つめられてしまいました。


 ま、どうでもいい相手だからかまわないんだけどね。


 領都は家臣の人たちと妹さんに任せて、主要人物は自分の列車ごっこで移動することにしました。馬や馬車よりずっと早いから。


 位置的にも山城の方が近いので、盗賊団の留守番役達を先に。闇魔法による生者に対する隷属化を拒絶する相手は当然ながら死体にされて眷属化されました。

 死ぬのとどっちがいい?と迫られて、死んでも終わりにならないのなら、選択肢なんてあって無いようなものだけど、だからそんな経緯を辿ったのは一人だけで、あとは全員隷属化を受け入れました。

 魔法による契約行為で、ポーラやぼくや眷属達に対して不利益を働けないという、一見アバウトにも感じる内容だったけど、細かく決めようとするとそれだけ魔力もかかって、それでも抜け道というのは見つけられてしまうものだそうなので、大雑把くらいでちょうど良いらしいです。


 上空、といっても森の木々の倍くらいだから地表50メートルくらいを走るのは、まあまあ賑やかでした。今ではもう本当に、ごっこではなく、列車といえるくらいには長くなりつつありました。

 どれだけ生かしたまま眷属にするかで、長さが変わるのだろうけど。狼や熊さん達に監視してもらってるイルキハの残存兵の方に向かう時には、ぼく、ポーラ、リーディアを先頭に、アミアンの新当主とその家臣や護衛の兵士達、末尾にポワゾや生きたまま隷属化された盗賊達がゾロゾロと続いてたので、うん、軽く二百メートル以上の長さはありましたから、間違っても足を止めないように気をつけないといけませんでした。


 さて、偉そうな人達の生き残りをリーディアや、ポーラの眷属やアミアンの家臣や兵隊の皆さんにも手伝ってもらって選り分けていきました。

 ポーラは傷の少なめな死体を片っ端から眷属にしていって、その眷属を手がかりにして指揮官とかを割り出していったので、粗末な鎧を身につけて身分を隠そうとしても無駄な努力に終わりました。


 誰よりもポーラに負担がかかるので、魔力回復薬をがぶ飲みしつつ休み休み、数時間かけた結果、生きた捕虜が二百人超、死んで眷属にされたのも同じくらい。死体の損傷がひどくていったん見送られたのが百五十くらいで、残りの半分くらいは逃げ散ってしまったらしく、アミアン領内に残ってるのは後で自分が狩り出す事にしました。

 自分もリーディアも徹夜明けだったから、仮眠取って休んだ後は、自分は領都の方に逃げたイルキハ兵を狼さんたちと狩り出しに行って死体は影に収納。リーディアは、生かしておいた方が良いだろうと判断された中で、移動に支障があるくらいの怪我人の治療と、アミアン一族の皆さんも含めて、それぞれに忙しい時間を過ごした後。


 野営地が築かれ、一番立派な天幕が建てられて、そこでイルキハ侵攻軍の指揮官でもあった貴族達との面談というか、尋問が始まりました。

 一番の上座にはポーラと何故かぼくが並んで座り、リーディアは一列後ろに席を設けられてそこに。捕虜代表というべきイルキハ貴族の三人の正面には、ドロヌーブさんと息子のイグールさんや重臣の人達が並んで座り、先ずは名前と身分、今回の侵攻の意図などを語ってもらいました。


 まあ、初っ端から穏便に始まりはしなかったんだけどね。


「ウルリア・ロズウェル侯爵である。今回の侵攻の第一席として、総指揮官を務めたのは私だ。侵攻の目的はもう分かっているだろう。キゥオラ側の鉱脈を、アミアン領諸共確保する為だ。

 盗賊どもは半ばまで上手くやったと聞いたはいたが、あのような邪魔が入るのは予測できん。

 リーディア」


 ウルリアと名乗ったお貴族は、リーディアの方をギロリと睨みつけて言いました。


「そなた、わしに輿入れするのが嫌で、裏切っておったのか?」

「何をおかしなことを」


 リーディアはくすくすと揶揄うように笑いながら答えました。

 うん、この女の子は、きっと、煽り体質なんだと思いました。相手がポーラでなくとも。ていうか、この中年おっさん、いくら貴族の結婚が年齢無視しがちとはいえ、ロリ趣味すぎだろ。リーディアでなくとも煽りたくもなるわと思いました。


「私も同じく、夜空からの襲撃に晒されて、まかり間違えば死んでいた身の一人に過ぎません。それは、私が癒して命を取り留めた少なからぬ兵士の皆さんが証言して下さる筈です」

「ではなぜ、ポーラ姫の背後に控えておる?!」

「それは、ポーラ姫の隣にいるカケル殿が、アミアンの領都ポーヴェを陥落から救い、イルキハ侵攻軍をほぼ単独で蹴散らし、私を攫い出してくれたお方だからです」


 えー、その言い方、内容は間違ってなかったとしても、ヘイトがぼく一人に向かわない?

 ほら、イルキハの貴族だけでなく副官その他兵士さんたちの目付きとかがもうヤバいことになってるし!


「このカケルに狼藉を働こうとするなら、即刻殺して、私の眷属のアンデッドにして、死より遥かに過酷な責苦を未来永劫に渡って与えますからね」


 ポーラが警告してくれたおかげで、ほとんどの視線は逸らされたりしたけど、まだ数人はじっとこちらを見つめてきてました。視線を合わせないように努めたけど。


 それからイルキハ貴族の残り二人、リカード・ホライヤ伯爵とアルドル・レディブル子爵も名乗り事情を説明してくれました。

 ホライヤ伯爵家は、ウルリアのロズウェル侯爵家ほどじゃないけど東岸の戦争投機で損害を出したので、今回の侵攻で再起を図るつもりだったそうです。

 レディブル子爵家当主のアルドルさんはもう白髪のおじいさんちょい手前くらいの歳で、イルキハで鉱山経営してる一族だったけど、先細りし続けていてこのままじゃ一族が終わってしまうと今回の侵攻に参加を決めたとの事でした。

 二人とも、今回の侵攻軍の指揮官がウルリアで、成功していれば領都を彼が治め、アミアン一族の領地を、侵攻に参加した貴族達で分割統治するつもりだったと証言してくれました。


「事情は大体分かりましたが、これからどうなされるおつもりで?」


 ドロヌーブの息子のイグールさんがアミアン一族を代表して問いかけたけれど、ウルリアはまるで悪びれずに問いかけ返しました。


「それはこちらの台詞でもある。イルキハ第一王女イ・フィー様と、キゥオラ第三王子タミル様によるキゥオラ政権奪取は成功したと我々も聞いているのだ。

 今は我々が敗者の立場に置かれているが、タミル様がすでにキゥオラ王となられているのであれば、いずれ立場は覆り、我らがこの地を譲り受けることになるであろう。

 アミアン一族は王命を拒否し、キゥオラとイルキハを敵に回して反逆するおつもりか?」


 イグールさんはどう言い返そうか言葉に詰まり、隣にいたドロヌーブさんに視線を向け、そのドロヌーブはポーラにお伺いを立てるように視線をパスしてきたので、ポーラが代理で答えました。


「それは、イルキハがタミル兄様の後ろ盾でいられる間だけ、ですよね?」

「既にイ・フィー様との間に婚姻は成立しており、イルキハとキゥオラはいわば連合王国とも呼べる状態になっております」

「うん。でも、それはイルキハが瓦解すれば、連合王国とやらもすぐ無くなってしまうでしょうね」

「それは・・・」

「カケルはほぼ一人でも、あなた達一千の兵を蹴散らして見せた。イルキハもだいぶ無理してかき集めた兵力が一晩で喪失したのは痛かったんじゃないの?キゥオラ王都の方にも出兵してるみたいだし、いくらミル・キハが援助してくれてるとはいえ」


 最後の一言はひっかけだったんだろうけど、ウルリアはだんまりを決め、リカードは動揺した様な視線をチラリとウルリアに向け、アルドルは視線を伏せてしまったので、そんな一連の小さな挙動でも答え合わせは済んでしまったのかも。


「それで、ミル・キハがイルキハを支援していたとして、何が交換条件だったの?」


 リカードとアルドルは口を閉ざしたので、ウルリアに回答が委ねられましたが、彼は回答を拒否しました。正確には、拒否しようとしました。


 でもまあ、こちとら神様からのミッションで、次のチェックポイント到達までの期日を守らないといけない立場にいる訳で。この話し合いを開始する前に、死にたくなければ生きたままポーラの眷属になるよう彼らは強制されて、契約を結ばれていました。

 うん、時は金なり、だっけ?


「ウルリア、あなたの主として命じます。質問に答えなさい」


 ポーラが命じて、それでもウルリアは抵抗しようとしたのか、顔色がみるみる青から黒っぽく変わって行って、苦痛に呻き胸を掻きむしりながら床に倒れ込みました。


「このまま死んでもあなたはアンデッドとして私に仕える事になるわ。そうなれば今の様な抵抗も出来ず、あなたの所領にいるあなたの家族や親類達も、後を追う事になるでしょうね」


 ぐぶっと、少なからぬ血を吐いたウルリアは、床に這いつくばったままポーラに懇願しました。


「私があなたに隷属すれば、家族や親類には手を出さない約束だった筈」

「あなたが私に心から仕え、反抗しない限りと伝えてあった筈よ」


 ウルリアは喉や顔や身体中を掻きむしり地面をしばしのたうち回った後、やがて膝立ちの姿勢に戻り、ポーラに向けて頭を垂れました。


「愚かな従僕の抵抗をお許し下さい、ポーラ様」

「次は無いわ。さっさと質問に答えて」

「私も全てを聞かされている訳ではありませんが、ミル・キハの狙いは、カローザ王国包囲網を築く事と聞いております」

「ミル・キハがどうして?東岸諸国の戦乱も静観して国力を貯めてきたのに」

「だからこそではないでしょうか」

「ふむ。カローザとその友邦というよりは従属国のガルソナは、ドースデンの敵方にだいぶ肩入れしたのに敗れ、国力を落とした。ミル・キハ単独でなら厳しい戦いでも、他の西岸諸国の力添えがあれば有利に運べる」

「しかしキゥオラも、マーシナも、カローザと事を構えるような考えは」

「だからこそ、イルキハを唆して、金も武力も与えて、政変劇を演出してみせた・・・?」

「第二王子マルグ様はカローザ王国の第三王女と婚姻関係を結び、兄のアルクス第一王子と結ばれる筈だったマーシナ第一王女のイドル姫を、カローザの第一王子に引き渡したのだったな。その後すぐマルグとその妻はタミルに殺されたとはいえ」

「つまり、ミル・キハはカローザの陰謀を知っていて見過ごし、利用してみせたのか?」


 その後も陰謀についての検討はされたんだけど、アミアン領に侵攻してきた貴族とその兵隊は、イルキハ王国内でもいわゆる負け組で一発逆転を狙ってやってきた人達で、政権中枢にいた訳じゃなかったので、ウルリア以上に詳しい情報は引き出せませんでした。


 夕食休憩を挟んだ後は、ぼくとポーラ、リーディア、フーゴーとポワゾ、ドロヌーブとイグールさんという面子で、これからどう行動するかを相談しました。


「とりあえずの確定事項として、ぼくとポーラとその眷属、そしてリーディアはイルキハ王国の王都まで行って、多分、落とし前をつけてくる事になります」

「カケル殿、落とし前とは、どの様な内容を考えておられるのですか?」

「イグールさん達からすれば、キゥオラ王国全体としても、許せる相手じゃないかも知れないけど、少なくとも、キゥオラからは手を引かせる事になると思うし、ミル・キハとの関係がどんな内容なのか、キゥオラの第三王子と結婚したって人なら全部知ってるだろうから、無駄足にはならないとは思う。

 どんな内容って細かい事はまだ考えてないけどね。下手したら、イルキハって国が消えるのかも」


 上空から投げ落とすのが生木でさえ、あれだけの混乱と被害を地上にもたらせたんだから。もっと他の何かを投げ落とせば、決着なんてすぐ着くでしょう。超加速を使えばそろそろ音速にも届くし。

 そんな雰囲気を感じ取ったのか、特にイグールさんは青ざめながら何かを言いかけましたが、声をかけてきたのはリーディアの方が先でした。


「イルキハの国を落とす事は、おそらく、カケル様なら出来てしまうのでしょうね」

「たぶんね」

「でも、それはイルキハの民を皆殺しにするということでは無いですよね?」

「そりゃそうだよ。面倒だし、そんな事する意味無いし」

「関係の無い人達を殺して喜ぶような人では、無いですよね?」

「少なくとも、そんなキャラじゃないと思うし、そうなる予定も今のところは無いよ」


 まあ、将来好きな人が出来て、もしその人が殺されちゃったりしたら、分からないけど、この場で言う必要も無いし。

 ポーラ?

 ・・・嫌いではないけど、まだそういう関係じゃないし、ぼくもポーラも殺されてもチェックポイントに戻るだけだからなぁ。


 それからは明日以降の動きを軽く相談してから就寝。翌日の午前中も出発前の準備に充てた後、イルキハ王国に向けて出発しました。

 留守番役となるイグールさん達には周辺領主に、イルキハ一千の兵を撃退した事、ポーラ姫がそこに関わっていて、タミル王子と連立したイルキハ王国の横暴を許すつもりは無く、イルキハ王都へと向かい、タミルの後ろ盾を砕く予定なので、王都からの臣従の呼びかけには従わないよう呼びかけてもらう事になりました。


 マップに表示されるイルキハ兵士の残党はこまめに死体として処理回収、順次ポーラの眷属としていきました。寄り道と言えば寄り道だけど、自分のレベル上げの為には走行距離を稼がないといけなかったし、イルキハの王都とかで使う予定の具材も準備しないといけなかったしで、結構忙しかったです。


 それでも、次のチェックポイントまで三日を残した状態で、ひとまずイルキハ王都を遠目に望む森まで、ぼく達一行は到着したのでした。

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