ランニング15:対イルキハ軍、1対1000の戦い
山城から北の空の方へと上がっていって、野営の灯りとか見えないかなー、と走り続けてたら、なんと、見えてきました!
少なくとも、数十本じゃきかない、数百本くらいは掲げられてそうな松明の列が、山城から10キロくらいの近さにまで行進してきていました。
「んー、逃げ帰ってきた盗賊団を吸収するなり始末するなりして、翌朝に領都を急襲するとかかな?」
動いてる松明の数から、少なくとも数百人以上はいそうだから、山城にいる全員を動員しても正面からは勝てなさそうだし、ポーラはまだ休ませてあげたかったしで、とりあえず嫌がらせして足止めするなりして、フーゴー達にはどうにでも動けるよう待機しておいてもらえばいいか。
そう判断したので、自分の影に潜んでるイプシロンに、いったんゼータとシータからフーゴー達と、それからポーラと一緒にいるドロヌーブ達にも情報伝達をお願いしておきました。アンデッドの眷属同士なら、ほとんど距離を無視して、互いの位置にまで影の空間伝って移動できるみたいなので。黒髪黒目の忌み子の特権ヤバない?
いろんなラノベで失敗してない主人公は、仲間へのほうれん草欠かしてなかったからね。いや報連相だっけ? 働いたこと無いからよくわからないけど、準備をしておいてもらうのは無駄にはならない、筈。
体当たりしていくには数が多いし、夜の森ということで、夜目は効いてるけど松明の数がすごいし、魔法使える人もそれなりに混じってるだろうし。
さてどう嫌がらせするのが一番効果的かなー、と考えながら、列の最後尾の様子とか、一番偉い人がどこにいそうかとか、少しずつ高度を下げながら確かめていきました。
列の最後尾には、輜重っていうの?補給物資を積んだ馬車ぽいのがずらーっと連なってて、これをどうにかするだけでも充分かも知れないなと思って、早速動きかけたけど、マジックバッグとか魔法の収納の存在を思い出して、手を出すのを一旦控えました。
自分から影に潜ったりできないから一人で細かい偵察まで出来ないけど、マップ表示の赤いカーソルのどこにどんな集団がいるかを上空からざっと把握していきました。
やがて、イプシロンが、ゼータとシータとポーを連れて戻ってきてくれたので、いったん兵隊さんの列を離れて、音が届かないだろう辺りでポーに何十本も木を折っては影に放り込んでを繰り返してもらいました。
さてさて。
嫌がらせの準備を終えてとって返すと、先頭集団は山城まで6ー7キロくらいの距離まで近づいてきてました。
彼らの後背の上空200メートルちょいに位置取ったらもう気分は急降下爆撃機ですよ!異世界だけど!
手順は簡単!
走ってる間は、どんな重い物を手にしてても重さを感じず無視できるので、高度が半分くらいになるまで角度をつけて空を駆け下りたら、超加速をかける直前に影から木を結んだ蔓草を手の中に出してもらい、それを握ったら一瞬だけ超加速して、蔓草を放すだけ。
ここに来る前、木を折ってストックを増やすのと同じくらい、そのバトン?受け渡しの準備と練習に時間がかかってしまってました。
ま、細かいコントロールは無理なんだけどさ。
記念すべき第一投は、おおよそ狙った辺りへと飛んでいって、
どっかあああん!
て爆発はしないにしろ、衝撃度で言えばそんな感じの混乱と被害を地上にもたらしてくれたみたいです。枝葉とかがそのまま生い茂った生木がすごい勢いで上空から降ってきて、地面を跳ね回る様は、絶対その場に居合わせたくない光景でした。
先頭集団がだいぶにぎやかなことになってたので、彼らの直上から垂直に、何本かの木を追加で投げ落としておいてあげました。もちろん、ちょちょいと勢いは付けた上で。
それで先頭集団で動いてる松明の数がかなり散らばったり少なくなってきたら、ゼータとシータ達には地面に落ちてる松明を出来るだけ影に運び入れておいてもらうようお願いしておきました。
その後、列の何カ所かに分かれているお偉いさんがいるっぽい集団の辺りに向けて、さっきと同じ急降下爆撃を加え続けてたら、兵士達の行軍が完全に止まりました。夜襲に備えていくつもの円陣を組んだから、逆に狙いやすくなったとも言えたんだけど。
やがて、隊列の一部が後退するような動きを見せ始めたから、最後尾の輜重隊の方にも絨毯爆撃。馬車の大半が横転したり破壊されたので、狼さん達に、回収した松明で馬車や荷物に火を放っていってもらったら、地上はどこもかしこも大騒ぎに!
うんうん、キャンプファイヤーって盛り上がるよね!一度も体験した事無いけど!そしてこれとは違うことも分かってるけど!普通は、大きな木が勢いつけて空から降ってこない筈だしね。
いやー、真夜中だけど、テンションが爆上がりしてまいりました!
俺TUeeeする主人公達の気持ちってこんな感じなのかな?、とか想像しちゃいました。
自分、走ってるだけなら疲れもしないし眠くもならないしお腹も減らないしね!
ちなみに、斜めの急降下爆撃も、真下への絨毯爆撃も、ポー達に出してもらった木の位置や角度はほぼそのままに、自分は木の表面に手を添えて、一歩超加速で踏み出したら止まって手を放すだけってやり方で、ほとんど狙った場所に着弾させられるようになりました!
そんで調子乗って木をぽいぽい投げ下ろしてたら弾切れしてしまいました。
眼下は大混乱だけど、まだまだ指揮官さん達を中心に戦意やまとまりを失ってない兵士さんも多かったし、その中でも最大の中心になってるところは結界ぽいものまで張って、木の直撃を防ぎ始めてたり。
ちょっと悔しい。
充分嫌がらせはして、前も後ろも中も叩いたと思うけど、自分が攻撃を止めたらまた進み始めそうな雰囲気があるんだよね。イルキハに帰るよりは、山城や領都の方がだいぶ近いんだし。
「イプシロン、あの結界に、アンデッドが弾かれるか確認してきてくれない? その内側の影に渡れるようなら、もうちょっとは痛めつけられそうだから」
アオンて感じでイプシロンが返事して、その隅っこですぐに確認して帰ってきてくれた。どうやら潜れるし渡れたらしい。直接触れれば弾かれるけど、ダメージは受けないって。
これで勝つる!
そう確信した瞬間でした。
「じゃあゼータとシータは、別々の位置から兵士達に怪我を負わせていって。出来れば足を噛んで動けなくする感じで。アンデッドにする時修復が大変になるから、噛み千切らない程度にね」
わんわんじゃないけど、ワフワフって感じで二匹?二人?も返事をして早速仕事に取りかかりに向かってくれた様です。
ぼくはぼくで、結界を張ってる最大の集団の真横辺りの敵兵士がいない空き地に降りて、ポーを呼び出して頼みました。
「ポーには、ボーリングの玉っぽく、ぼくが勢いを付けて押すから、結界の手前で陰に潜って、結界の向こう側で兵士とかを弾き飛ばして、また影に潜ったりして戻ってきて欲しいんだ。それを相手があきらめるまで繰り返すよ」
ばお、とうなずいてくれたのが、実際に某アニメのオリジナルを見たことが無い自分からすると由緒正しいものなのかどうかわからなかったけど、時間を置けば置くほど相手は落ち着きを取り戻してしまうかも知れないので、締めの第一投は、慎重に、だけど急ぎました。
結界が張られた位置からは200メートルくらい離れた位置から、ちょうど中間位置辺りに四つ足で待ち受けるポーの両後ろ足を、とんっ、と最後の一歩だけ超加速した状態で押しました。
時速22x22x2=968キロ。超加速で時速1000㎞越えももうすぐ!
100メートルくらいは0.5秒もかからず横切り、ポーはうまいこと結界手前で影へ潜り、結界の向こう側の影へと勢いを保ったまま渡って出て、その質量エネルギー?を存分に発散してくれてから、戻ってきました。
フリスビーを投げてキャッチして戻ってきた大型犬の雰囲気が近いのだろーか?
結界は物理的な何かの出入りは防ぐ物みたいだから、丸まったポーの巨体は、縦横無尽に跳ね返って猛威を振るってました。本人というか本熊も楽しそうで何よりです。昔、そんな感じのビデオゲームがあったかもね。テーブルゲーム?知らないけど。
同じ経路だと待ちかまえられるかも知れないので、マップ上で敵兵がいない別の場所に移って、ポーの巨体を何度か打ち出しました。
まあ、三度目の途中で結界は維持できなくなって消えてしまったけれど。
それからポーにあちこちで吼えてもらったら、イルキハ兵はまとまりを完全に失って、ばらばらに逃げ始めたように見えました。
よし、これでもう大丈夫、かな?
だけど、マップ上で、真っ先に逃げ出して先頭を切っている少人数が目に留まってしまったら、仕方ありません。
「ポー、イプシロン、手伝って」
また何本か木のストックを補充したら、十人にも満たない先頭グループを追いかけて、すぐに追いつきました。
彼らの後背の上空10メートルくらいの高さから追走しながら、影から差し出された木に手を添えて、一歩だけ超加速して投擲。
木はちょうど先頭の騎馬の頭上をかすめて地面に着弾。衝撃とかで何頭かの馬は倒れ込んだけど、まだ全部じゃない。
止まった集団の頭上から、位置を変えつつまた何度か木を投げつけて全員落馬させた、筈だったけど、最後の一本は地上から放たれた炎の玉をぶつけられてしまいました。
まあ、それでも燃えさかる木が地面に突き刺さりつつ跳ね回ったので、より被害が大きくなったと言えなくもなかったけど。
他にどんな魔法が飛んでくるかわからなかったので超加速でいったんその場を離れてから、ポーとイプシロンに影からの無力化を頼みました。
殺さずに移動できないようにするくらいに留めておいてとか。
あ、でも自害されたりすると面倒?いやその場合は眷属化とかして全部話してもらえばいいのか。
ポーとイプシロンは一分もかからずに制圧し終えてくれたので、ついでで彼らの両肘と両膝は砕いておいてもらいました。
その場はいったんイプシロンに任せて、ポーには自分についてきてもらいました。
さっきの最大集団がばらけて逃げ散った筈が、襲撃した地点から少し離れた場所で再集結し始めていて、それが山城から5キロくらい離れた地点だったのがマップ上で見えたから、いい加減あきらめてもらう為に。
「しぶといな~。まあ遠征してきて、そのまま帰れもしないから、粘ろうとする気持ちはわからないでもないけど」
でもまあ数百人以上の兵士の集団なら、絶対、一人はいてもおかしくない存在がいる筈だと思って、確かめに行きました。
上空に到着して見下ろしてみると、百人以上の集団ではあっても、まともに動けてるのはその1/3もいませんでした。
だけど予想通りというか、その集団の中心には、たぶん、光属性の治癒魔法を使ってる、負傷者の傷を治してそうな誰かがいました。小さな光が地上で瞬く度に、動けなかったカーソルがまた動けるようになってたり。光ったカーソル全部じゃなかったけど。
上空100メートルからだと、敵からも攻撃されない代わりに、その人物が男性なのか女性なのか若者なのか老人なのかも一切分かりません。
まあでも、他にいたかもしれない治癒魔法の使い手はあの一人しか残ってないみたいだから、今夜の仕上げに取りかかることにしました。
「ポー。ゼータとシータに、この集団で松明持ってる人たちを襲わせて。足を噛み砕いて、松明回収して回ってもらって」
また了承のうなり声がしてからしばらくして、松明が一つ、また一つ、叫び声が上がると共に消えていきました。
松明が全部消えて、辺りを暗闇と痛みの叫び声が支配するようになってしばらくすると、さっき治癒魔法を使ってた人が、魔法の光を生み出して辺りを照らし出しました。
真っ白なローブを着た、いかにもな白魔法使い、ぽい? 長い金髪が、光を反射して輝いてて、自分が闇空を駆け下りる良い目印になりました。
移動中に触れた相手に衝撃は伝わらず反動とかも無いので、超加速中でさえ腕を掴んだりしてそのまま宙に駆け上がることさえ出来るかも知れません。
それでも、移動中に暴れられたりしたら何が起こるかわかりません。ここまできて刺されたりしてやり直すのも面倒なのも確かだし。
うーむ、としばし悩んだ後に、考えるのを止めました。
「ぼくはたいして頭が良くないことは自覚してるし!ろくな人生経験も無いし!いつも通り、行き当たりばったりで行動することにしよう!最悪でも死んでやり直せるんだから!」
レッツコンティニューマインド!、って前向きなのかな?
とかどうでも良い事を考えつつ移動。超加速のストップアンドゴーの速度と位置調整にもだいぶ慣れてきたので、彼女?の腰裏に片腕を回せる位置へとほぼ瞬間移動して停止。
横に並んで立ってみて初めて分かったけど、自分よりちょっとだけ背が高かったです。ファンタジーの正統派ヒロインて感じの白い肌にくっきりした目鼻立ち。コバルトブルーの瞳が驚きに見開かれて、口元が何かを叫ぼうとした時には、彼女の腰裏を片腕で支えて、遙か上空へと一瞬で駆け上がりました。
「こんばんは。あなたは殺さずにこのまま拉致させてもらいますね」
とりあえず、そう告げておきました。
彼女は悲鳴を上げて自分を突き放そうとしたのだけど、
「下見て下」
と言ったら、ひぃっ、と呻いて抱きついてきました。いや、走りにくいんだけど、ふわふわした何かが当たって・・・?
腕を包む感触に足を止めないよう懸命に動かしてたら、高度が上がって行くに連れて、彼女は諦めたようで、自分の左腕にしがみついたまま、尋ねてきました。
「あなたが、夜襲を?」
「そうだよ」
「黒髪黒目・・・。あなたは、伝承にある通り、世界を滅ぼす者ですの?」
「そんなつもりは無いよ。自分は好きにあちこち走り回りたいだけだし」
「しかし、イルキハの精鋭一千の兵を、たった一人で打ち倒し潰走させてしまったではありませんか」
「それはほら。イルキハは、キゥオラのアミアン一族の領都に盗賊団を襲いかからせて、領主さんを殺して、あわや領都そのものが陥落しかけてたし、あいこって事で」
「・・・それは、本当ですの?」
「そうだよ。盗賊団を撃退して、その本拠地の留守番役も倒した後、イルキハからの兵隊が動いてきててもおかしくないかなー、って探しにいったら本当に来てたしね。だから、つぶしたんだよ。嫌がらせして、帰ってもらえればそれでもいいかなって」
「あれは、嫌がらせという程度を大幅に越えていました。人も、たくさん死んでいましたし。あなたが、殺したんですよ?」
「うん、言い訳はしないよ?自分もこの世界に来てから、何度も殺されてるし」
「へっ・・・?!」
「ぼくの事情は説明してもいいけど、先に名前を教えてもらえないかな?できれば、どんな立場の人なのかも」
彼女は、じっとぼくの目をのぞき込んでから、教えてくれました。
「私は、リーディア。リーディア・ウリエラ・ソルキハ。いや、王族としての身分は取り上げられたので、リーディア・ウリエラ・レリーズ。
さあ、私は名乗ったのですから、あなたのことも話して下さい!」
「ええと、名前はカケル。元の世界では、大地駆って名前だったけど、だんだん動けなくなる病気になって、いろんな症状も増えていって死んじゃった。
その後で、この世界の神様に拾ってもらってね」
「ちょっ、ちょっと、神様って!?」
「ぼくの、好きなようにあちこちを走り回りたいって願いを叶える代わりに、神様の試みに付き合ってほしいって言われて、オーケーしたんだ」
「その、神様の試みというのは?」
「この世界を終わらせるかどうか、悩んでたみたいで。ぼくがあきらめない限りは終わらせないって言ってたよ」
リーディアは、きれいな顔を間抜けに見えてしまうほど大きく口をぽかんと開けて驚いてました。
領都が見えてきてたので、その後は異世界に来てからの出来事とかをダイジェストで伝えて、ポーラの部屋のベランダへと降りていこうとしたけど、顔を両手で掴まれて、ぐりんとリーディアの方を向かされたので、止まらざるを得ませんでした。まぁ、落下しない為に、ゆっくりとでも足は動かしたけれど。
「それで、あなたは、ポーラ姫と一緒に世界を終わらせようとしているのですか?」
「ポーラにもぼくにもそんなつもりは無いよ。むしろ巻き込まれて逃げてたくらいなんだし」
「でも、アンデッドの眷属を増やしているのは」
「神様からそうした方がいいよ?、ってアドバイスを受けたせいだけど」
「・・・・それは、もしも、そうだったとしても!これだけは聞かせておいて下さい!あなたは、なぜ、私を助け出したのです?」
「助けた?さらったの間違いではなく?」
「あの場所で殺さずにここまで連れてきたでしょう?私もポーラ姫の眷属にさせるつもりなのです?」
「うーん、さらってきたのも、殺さなかったのも、成り行きと気分かな。ほんと、なんとなくだよ。君が誰かなんて、さらった後で話して教えてもらって、初めて知ったくらいだし」
「なんとなく、ですか。まあ、今はそれでいいでしょう。神様のお導きということで納得しておきます」
「君がそれでいいなら、ぼくもそれでいいよ」
という訳で、ベランダへと改めて降りていきました。
そこにはもう、ポーラが出てきていて、なんだかすごく険しい視線でこちらを見上げてきてたのだけど。その目力が強まるほどに、リーディアがぼくの腕を強くかき抱いて、その柔らかな感触が幸せ、とか浸れるような雰囲気ではありませんでした。はい。
ベランダに降りたぼくにポーラは詰め寄って、思い切り振りかぶった右腕を、ぼくの頬に向かって振り抜きました。
いわゆる、ピンタです。
気付いた時には、ぱしーんという音と共に頬に痛みが走りました。
そして、白み始めた領都の空に、ポーラの声が響きわたったのでした。
「こ、こ、この、浮気者ーっ!」と。
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