第20話 リベンジ
闇夜に灯るヘッドライトが二つ。
暗闇の奥に静まりかえる虚無のまなざし――
砂利や枝葉を踏みながら忍ばせるように響く不気味な電動音が、
積載量は六十キロ、自走式で二段階の変速付きと申し分ないスペックを味方につけている。
価格にして約五万円。
成人一人であれば軽く坂道を乗せた状態でも押していける心のお供――その価値を考えれば安い代物だ。
「ねぇ、
「松明って火ぃ灯すつもり? 山火事になったらどうすんのよ」
「だって
「私がいるから大丈夫よ。ヘッドライトもあるんだから心配いらないわ。今日
「うん、わかってるよぉ……」
万一
スポットライトモードとフラッドライトモード、合わせた明るさは三千ルーメン。
かなり明るい。
何メートル先まで見通せる灯なのか、せめてこの光源があったからこそここまで二人で辿り着けたというもの。
点灯時間は各モードの合計値で最大五時間にも及ぶ安心感。
スペックの高さからもヘッドライト最高級モデルの一つと銘打っているだけはある。
以前二人は彼氏を連れて四人でこの山へ立ち入っている。
まさか、あんなことになるなんて――
大自然の脅威――
襲われた一部始終を覚えているわけではないが、怪奇現象の類であることには間違いない。
この私の……瞳の熱が証明している。
その他多くの侵入者もここで想像を遥かに超えた力の存在にひれ伏したのだろう。
恐怖に
あの時、
不本意ではあるものの、懸命に自らの足で眼前の脅威から逃げるように下山した。
その後、警察に事の
それでも、命には代えられない。
なぜあの時、私たちだけ助かったのか……
その謎は未だ不明である。
しかし、ネットをはじめ、様々な媒体でこの山について調べていくうちにある一つの奇妙な情報を得ることが出来た。
それは、この山は女を襲わない……という耳を疑う内容だった。
到底信じ難いが、これまで報道番組で取り上げられてきた事件の行方不明者はみな男性だった。
この奇妙な一致は偶然なのだろうか。
それ以上の情報について、公開はおろか、ネットでも拾えないほど闇に葬られている。
それに、警察も消防もこの地には立ち入れないと
一体、この山は何なのか。
なぜそこまで恐れられているのか。
人智を超える存在が実在するとでもいうのだろうか?
全く馬鹿馬鹿しい。
私たちの税金で食っているようなふぬけどもには任せておけない。
自らの目で確かめるまでだ。
「私たちの彼氏はこの山で遭難したんだよ。未だ行方も分からず仕舞い。私たちがしっかりしなくてどうするの?」
「わかってるよぉ。でもさぁ……いくらなんでも怖すぎるよ。この山……」
泣き言をやめない
まったくなんで
正直素行を疑っていた。
明らかに私よりも
しかも私よりも楽しそうに話すのだ。
顔を見ればわかる。すべて書いてある。
嘘が下手な顔でよかった。
それだけがアイツのいいところなのかも知れない。
私だってアイツなんかより倉田くんのほうが性格的に合っていたのかも知れない。
ビビりだけど、相手想いの心優しい青年なのは話していてわかる。
私のことをただのモノでしかみていないようなアイツとは根本的に考え方が違う。
私は思わずため息の熱を吐き出して、感情の体温を下げた。
こんなこと今更考えたところでどうにもならないのはわかっている。
自分で言うのもなんだが、美嘉の性格は私とは正反対で対極に位置しているだろう。
相反する性格の女を好きになる時点で関係は終わっているとさえ思う。
はなから私は相手にされていなかったのか。
奥歯が鳴るような感情――鼻で荒く深呼吸して抑えつけると、
「やっ……怖い、怖いよ、ここ……」
そこには常識では考えられない姿が
この山に潜む脅威が、ありありと網膜に
恐ろしい経年劣化と自然の取り巻きを受けて貫かれている廃車の
その
心の底から
このままでは彼女の精神がもたないかもしれない。
抱き寄せたまま彼女の頭部のヘルメットの縁から、前方へと視線を
眼差しの先の狂乱の果て――
この場所に金輪際、関わってはいけない。
フロントエンジンの変わり果てた姿は敗北の象徴なのか。
風雨によって赤茶色に
所々、ダクトやバッテリーを
食欲に狂った植物による損壊を受け、経験したことのない
車の
誰もいない墓場。
狂い死にの鉄塊からは車種やメーカーなど、もはや識別出来ない。
そして進行方向右手に見たことのあるスポーツカーをみとめた。
この森の地獄で唯一真新しい印象を残している。
あんな男、探す価値もないはずなのに。
どうしてこの車に引き寄せられてしまうのだろう。
布施のスポーツカーに宿る――その燃えるようなレッド。
私たちの情熱の証。
半分ほど開いたままの助手席のドア。
亡霊のように手を掛ける
キィ……と
自身のヘッドライトで車内の様子が嫌でも目に入ってくる。
血塗られたままのフロントガラス。
誰もいない。
いるはずがない。
いるわけないって、分かっているのに。
もうこんな車、アイツも戻ってくるわけ……ないのに。
「
――‼︎
「誰も乗っていないに決まってんだから、そんなの意味ないよ」
力の加減など知りもしない、それでいて容赦の無い摩擦が
手当の方法もわからない。
「あんたに何がわかるのよ! この車はね、アイツと一緒に過ごした身体の一部なの! どうせ意味なんてないわよ! 分かったようなこと言わないで‼︎」
ビクッと
その場で
車の助手席を前に
「あんなやつ、いなければよかったのに……」
ライトを見据える
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