13. 廃棄王女、推測を披露する
「このことは、ここだけの話としてもらいたいのだけど……」
私は道すがら推理した、エドガー卿の花に込めた真意について明かしました。
カザリアに多く自生するアセビは、恐らくカザリアを暗示していると思われます。そして、同時に花言葉の『犠牲』から、私を暗示しているのは間違いないでしょう。
ダリア、月桂樹、カルミアの共通する花言葉は『裏切り』です。
ダリアはロオカの国花で、裏切り以外にも『移り気』という花言葉があります。ですので、浮気性なギルス殿下を暗示した花であるのも推察できました。
そして、月桂樹はヴェルバイトの皇帝が被る月桂冠を指し示していると考えるのが妥当でしょう。ただ、帝国はもともと敵国であり、裏切りという単語が当てはまりません。
「だから、ロオカの貴族の中に月桂樹、つまり帝国への内通者がいると踏んだのです」
特に怪しいのはダリアであるギルス殿下の周辺にいる者達でしょう。
「話の大筋は理解できました」
「さすがメディア様です。あの会話だけでそこまで読まれるなんて」
「少し深読みし過ぎているかもしれないけれどね」
「いえ、恐らく殿下のお考えの通りだと思われます」
私の説明にアルトは感心したように頷きました。
「ただ、そうするとカルミアは誰を
カルミアに関しては、情報が少な過ぎて断定ができません。裏切りの他にも『野心』という花言葉もあります。もしかしたら野心家なのかもしれません。
それから……
「ただ、お父様と繋がっている人物であるとは推測できるわ」
「どうしてカルミアが陛下と繋がると思われるのですか?」
「カザリアを指し示すのはアセビよ。アセビは『馬酔い』と呼ばれる毒花なの」
「あっ! カルミアの『羊殺し』ですね!」
マリカは道中での会話を思い出してポンっと手を打つ。
「そうよ、カルミアは『羊殺し』と呼ばれる有毒の花」
「つまり、陛下とつるんで良からぬ事を企んでいるのですか」
察しの良いアルトは、すぐ気がついたみたいですね。毒に例えて暗示されたのは、エドガー卿の最大の皮肉なのでしょう。お前達の謀略は毒だぞ、と言いたかったのだと思います。
「私はギルス殿下との婚約には裏があると思っているの」
「ソレーユ陛下はただミルエラ様可愛さに、メディア様とオスカー様の仲を引き裂いてロオカへ送ったのではないと言うことですか?」
「私はそう考えているわ」
いくらミルエラを溺愛しているからと言って、それだけで国の
「ただ、確証があることではないし、裏切り者が誰かもまだ判明していないのだけどね」
これらはエドガー卿の言葉を頼りにした、私の推論に過ぎません。ロオカに到着したらそれらの裏付けや、ダリアとカルミアの正体を調査する必要があるでしょう。
「それでも今回の襲撃から分かったこともあります」
「帝国の刺客だったこと以外にでございますか?」
先程の襲撃は私に様々な情報をもたらしてくれました。アルトは今一つ理解が及んでいないようです。
「彼らが帝国から送られてきたというのは最大のヒントよ」
「三面戦争を嫌う帝国が、我が国とロオカとの婚姻を妨害するのは当然ですよね?」
「それはそうなんだけど、問題はそこではないわ」
「それはつまり動機以前の問題と言うことですか……」
「彼らは私を狙っていたでしょう?」
「……あっ、なるほど」
アルトは口元に手を当て少し考え込んでいましたが、すぐに得心がいったように頷きました。
「帝国に殿下の婚姻の情報を流した者がいると言いたいのですね」
「そう、私が嫁ぐのを知っているのは我が国とロオカだけ。どちらかが私の情報を帝国に漏れているのは間違いないわ」
突然の決定の上、かなり急な出立でした。これ程の短期間で待ち伏せをしていたのですから、情報の漏洩は間諜よりも背信者を疑うべきでしょう。
「宰相閣下が裏切り者に注意するよう暗示していたとの、殿下の推測の裏付けが取れたわけですね」
「そして、内通者はロオカ側にいるわ」
「はい、そうでなければ帝国兵が数十人もロオカに入り込めないでしょう」
さすがに兵をこの規模で秘密裏に他国へ送るには、手引きする者がいなくては無理です。
「それに私の魔眼や魔術の情報までは知られていませんでした」
「なるほど、我が国から情報が漏洩したなら、殿下の個人情報も伝わっているはず」
能力の全容までは知らずとも、カザリアにおいて私の魔眼や魔術は周知です。
「これからも、帝国は執拗に狙ってくるでしょうから、殿下の魔眼と魔術は
「ええ、アルト達の能力を疑うわけではないけれど、やはり私の切り札はなるべく露見しない方が良いわね」
「そうなると帝国に情報を流している人物を早急に調査すべきでしょう」
アルトの言いたいことは分かります。帝国に対し私の能力を秘匿するには、帝国の情報源を特定するのが一番。情報の流れを止めたり偽の情報を流したりが容易になりますから。
ですが……
「実は今回の件である程度は当たりがついているの」
「そんなことも分かるのですか!?」
「さっきマリカが言ってたじゃない」
「マリカ殿が?」
アルトがさっとマリカに目を向けましたが、当のマリカは分からないとぶんぶん首を横に振りました。
「守備隊が遅かったでしょう。しかも『ご無事だったんですか』と驚いていたわ」
それはまるで、私が死んでいないとおかしいと思っているかのよう。
「あっ!? あいつら帝国と繋がっていたんですね!」
「だから、ギルス殿下の周辺で、あの国境の守備隊に影響力のある人物が黒ってわけ」
「「どうしてあれだけで、そこまで読めるんですか!?」」
私の説明にアルトとマリカが声をハモらせるので、思わず私はくすくすと笑いを零しました。
「きっと、べティーズに行けば内通者を炙り出すのは難しくはないわ」
私は車窓からロオカの王都べティーズの方角へ目を向ける。
お父様の謀略、帝国の内通者、各国の間諜、いったいどれ程の苦難が待ち受けているのでしょう?
「お任せ下さい。私が徹底的に調査して、裏切り者を丸裸にしてやりますよ」
「俺達も必ず殿下をお守り致します」
ですが、私には支えてくれる家臣達がいます。
「ふふふ、頼りにしてるわ」
だから、きっと大丈夫。
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