第2話 ゆうれい侍、ロボットになる
研究室に戻った柳田は勘兵衛の入った装置を机の上に置いた。
柳田:「着いたぞ、起きろ勘兵衛、ここが私の研究室だ」
勘兵衛:「zzz・・・ん、着いたのか? ずいぶん長く眠っていた気がするが」
柳田:「今からお前を取り込んだそのタマシーキャッチャーを新しい身体に
取付けるぞ」
スーツの上着を脱いで替わりに実験用の白衣を羽織ると柳田は奥の部屋のドアを
開け、中に入って行った。
ゴソゴソと何かを探しているような音が聞こえる。
しばらくすると大きな人形のようなものを担いで戻って来た。
勘兵衛:「もしかして、先程言っていた新しい身体というのはそれのことか?」
担いできたを人形をゆっくり椅子に座らせると柳田が答えた。
柳田:「その通りだ、今日からこれがお前の新しい身体となるのだ」
目の前に置かれた人形をよく見ると、サムライの形をしたロボットのようだった。
柳田はロボットの胸のハッチを開け勘兵衛を取り込んだタマシーキャッチャーを取付けた。
柳田:「では、起動スイッチを入れるぞ」
(ポチッ、ウィーン)
緩やかな起動音と共にロボットが動き始める。
そのままゆっくり立ち上がると地面を踏みしめる感触を味わうように何回か
その場で足踏みをした。
勘兵衛:「おぉ、動ける、動けるぞ、まさか、こんなことが、信じられん
自分の身体が動く感触を味わうなんて500年振りだぞ」
勘兵衛は各部の動きをじっくりと確認するように首を左右に回したり、拳を握ったり開いたりした。
柳田:「気に入ってもらえたかな」
勘兵衛:「ああ、気に入った、しかしサムライの身体とは、見かけによらず
お前も粋な計らいをするものだな、まさに俺の希望通りの最高の
身体だ」
柳田:「まぁ、いろいろなデザインのロボットを作っていたのでな
その中にあったサムライの身体を使ってみたのだ、ちなみに
腰の刀はタマシーバスターといって、霊体のみにダメージを
与えることができる」
勘兵衛:「そうか、それは有難い、これで奴を見つけ次第叩きのめして
やれるな」
勘兵衛が新たな身体を得た喜びに浸っていると、奥の部屋のドアがゆっくりと開いて、中から一匹の犬が現れた。
しかし、良く見ると犬ではなく犬の形をしたロボットのようだ。
犬:「あれ? センセー、いつの間に帰って来てたの?」
柳田:「お、カリン、起こしてしまったか、悪かったな」
カリン:「んー、まぁ、それは良いんだけど・・・」
カリンと呼ばれた犬のロボットは警戒するように勘兵衛の方を見た。
カリン:「それより、この人誰? ・・・・あ、もしかして昨日言ってた
新入りって・・・」
柳田:「そうだ、こいつだ 本物の侍の幽霊だぞ
新入りだがお前よりも幽霊としてはずっと先輩だ」
カリン:「え? サムライなの? ホントに?
すごいね、なんかテンション上がるー」
警戒していたのがウソのように、カリンは嬉しそうに勘兵衛の側に寄って来た。
勘兵衛:「そんな希少生物を見た時の様な反応をされても
対応に困るんだが・・・」
カリン:「ごめん、ごめん、サムライに会うのなんて初めてだから
ちょっと嬉しくて、はしゃいじゃった」
勘兵衛:「そうか、喜んでもらえたのなら まぁ、良いんだが・・・
俺は勘兵衛、聞いての通り元侍だ、幽霊を経て今はサムライ型の
ロボットだな、それよりお前は、まさか犬の幽霊ということは
ないよな?」
カリン:「違うよ、私も元は人間だよ、生きてるときは会社員だったん
だけど死んじゃってセンセーにここに連れてこられて、今は
犬型ロボットになってる、人間だった時の名前は坂元清美って
いうんだけど、今はカリンって呼ばれてるよ」
勘兵衛:「そうだったのか、しかし、なんでまた犬の身体なんだ?
他にも身体はあったのだろう?」
カリン:「私は人間だった時、犬が大好きで、生まれ変わったら
犬になりたいと思ってたんだ、だからセンセーにここに
連れて来られたとき、この犬の身体を見て、
コレしかないって思ったよ」
勘兵衛:「そ、そうなのか、じゃあ、ある意味願いが叶ったという
わけだな」
カリン:「そうだね、犬としての第二の人生、じゃなくて犬生を謳歌
してるよ」
勘兵衛:「そうか、それは何よりだ」
カリン:「で、勘兵衛は何でここに来たの?
身体をもらって、何かやりたいことでもあるの?」
勘兵衛:「おぉ、俺はな、家族の仇を見つけて成敗する為にここへ
来たんだ、身体があれば自由に動き回れるからな、これで
奴を見つけることも難しくは無いだろう。」
カリン:「家族を殺されちゃったんだ、それは悔しいよね・・・・・
よし、じゃあ、私も手伝ってあげるよ、一緒に探そう」
勘兵衛:「本当か、それは心強いな、宜しく頼む」
柳田:「二人で盛り上がっているようだが、外に行くなら注意すべき
ことがあるぞ」
カリン:「注意すべきこと?」
柳田:「そうだ、その身体はお前達の霊力によって動いているんだ
だから、霊力が尽きると動きが停止してしまう」
勘兵衛:「なるほど、霊体であったときには考えたことも無かったが
身体を得た以上、それを動かすにはエネルギーが必要という事か」
柳田:「ま、簡単にいうとそういうことだな
外で動きが止まったら私が回収に行かなくてはならなくなる
非常に面倒だ」
勘兵衛:「ん? その場合、お前が到着するまでの間
俺たちはどうなるんだ?」
柳田:「どうにもならないな、その場所に置物の様に佇んでいるしか
ないだろう」
勘兵衛:「いや、人目に付く場所だったらどうするんだ
いたずらされたり、持ち去られたりしないのか?」
柳田:「当然そうなるだろうな、だからその前にここに戻って
部屋の隅にあるタマシーチャージャーで霊力を
回復させることだ、分かったな」
勘兵衛:「そんな制限があったとは
24時間フル稼働で探し回ってやろうと思っていたのに・・・
それで、残りの霊力は自分では確認できないのか?」
柳田:「疲労感があるだろうから、何となく分かるとは思うが
詳しい残量を確認したいなら視界の左下にタマシーメーターが
出ているだろう、それが1/3を切って危険という表示が出たら
ダッシュで戻ってこい」
勘兵衛:「うむ、わかった、肝に銘じておくとしよう」
柳田:「それから、カリンお前は外に出るんならリードを付けて
もらうからな」
カリン:「えー、何で? 私は犬の姿だけど本物の犬じゃないんだから
リードなんて必要ないでしょ」
柳田:「そうはいかないんだよ、姿が犬だというところが問題なんだ
外で犬を放し飼いにしていたら警察に通報されかねないからな」
カリン:「うーん、なんか納得できないけど、まぁしょうがないか」
勘兵衛:「いいのか?無理しなくても良いんだぞ
元々俺一人で探すつもりだったしな」
カリン:「いいんだよ、どうせここにいても暇だし、私も誰かの役に
立ちたいしね」
勘兵衛:「そうか、では改めてよろしく頼む、カリン
早速奴を探しに出掛けるとするか」
勘兵衛とカリンが意気揚々と出掛けようとした丁度その時、研究室に誰かが訪ねてきた。
古橋:「どーもこんにちはー」
カリン:「あ、古橋さんだ、いらっしゃーい」
古橋:「どもカリンちゃん、先輩いますー?」
訪ねてきたのは昨日、勘兵衛を柳田に紹介した古橋だった。
どうやら様子を見にきたらしい。
柳田:「何だ、古橋、何か用か?」
古橋:「いや、昨日かなりやばそうな侍の幽霊の案件を先輩に
回しちゃったから、何か問題は無かったかなーと」
柳田:「心配になり罪悪感に駆られて様子を見に来たという訳か」
古橋:「まぁ、先輩なら多分大丈夫だろうとは思いましたけど
恐ろしい程念の強い奴だったんで、一応確認しに来た方が
良いかなと思いまして・・・」
柳田:「特に問題は無かったぞ、もう回収も完了している」
古橋:「え、そうなんですか? さすが先輩
それであの霊はどこに?」
古橋の側にロボットとなった勘兵衛が歩み寄る。
勘兵衛:「おー、お前は昨日の霊媒師ではないか」
古橋:「え? もしかしてこのロボットが?」
柳田:「あぁ、そうだ、それがお前に紹介された地縛霊の勘兵衛だ」
勘兵衛:「お前には世話になったな、おかげでこの身体を手に入れる
ことが出来た感謝するぞ」
古橋:「いやー、正直こんなに上手く行くとは思って無かったんですが
お役に立てて良かったですー」
勘兵衛:「もしお前に出会えなければ、あと数百年あの場所で奴を待たねば
ならなかったかもしれん」
古橋:「じゃあ、早速探しに行くんですか?」
勘兵衛:「あぁ、ちょうど今出かけようとしていたところだ」
カリン:「へへー、私も探すの手伝うんだよ」
古橋:「へー、そうなんだ、早く見つかると良いですね」
勘兵衛:「有難う、ではカリン、行くとするか」
カリン:「うん!」
機械の身体を得て、ロボット侍となった勘兵衛は、家族の仇を探すべく、カリンと共に街へと出かけた。
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