ゆうれい侍、仇討ちのため機械の身体を手に入れる

亮介

第1話 始まり

「工事が進められないっていうのはどういうことですか?

予定があるんですから期日までに終えてもらわないと困りますよ

進められない原因は何なんです?

霊?、幽霊が出るって言うんですか?

それで皆が気味悪がって作業できないと・・・

あの、もう少しマトモな言い訳をして下さいよ、バカバカしい

イイからさっさと工事を再開して下さい」


ガチャッ! ツー、ツー、ツー


工事現場では電話を終えた現場監督が作業員達のところへ戻ってきた。


監督:「さっさと工事を始めろってよどうだ、やれそうか?」


監督が声を掛けるがみんな青ざめて疲れた表情をしている。


作業員1:「いや、勘弁して下さいよ、気味が悪くて集中できないっスよ」


作業員2:「自分、ああいうのには割と耐性ある方なんすけどあれは無理っす」


  監督:「まぁ、確かにあれは怖いよな、一体どうしたもんか・・・

     気休めかもしれんが霊媒師でも呼んで見てもらうか」


そう言うと監督はまたどこかへ電話をかけ始めた。

そして数分後


  監督:「霊媒師に連絡してみたんだが、早速午後から見に来てくれるそ

     うだ」


作業員1:「早く何とかして欲しいっス、もう、生きた心地がしないっスよ」


その日の午後


霊媒師:「どーもー、先程お電話頂きました、霊媒師の古橋と申しますー」


グレーのスーツを着た営業マン風の若い男性が訪ねてきた。


監督:「おぉ、よく来てくれたな・・・って、 あんたホントに霊媒師なの?」


古橋:「えぇ、そうです、よく初対面の依頼者からは"らしくない"って

   言われますね」


監督:「そ、そうだよね、俺もこんなに爽やかな感じの人だとは思って

   無かったよ、早速で悪いんだけど幽霊のいる場所を見てもらいた

   いんだが」


監督が古橋を幽霊の場所まで案内していく。


監督:「ほら、あそこだよ、座ってるだろ」


古橋:「あー、はいはい、あいつですね、なるほどー」


少し真剣な表情で幽霊を観察している古橋の顔を不安げに覗き込むようにして

監督が訊いた。


監督:「どうだ、追っ払えそうか? 何とかしてもらわないと困るんだが」


古橋はしばらく目を瞑って考えると


古橋:「・・・ありゃあ、無理ですね。念が強すぎます」


監督:「えぇ! そんな! あんた霊媒師だろ、何とかできないもんなの?」


古橋:「流石にあのレベルのは無理です、まぁでも話だけは聞いてみますよ

   上手く望みをきいてやれれば自分から出て行ってくれるかもしれませ

   んしね」


監督:「え? ああいうのって会話ができるものなのか?」


古橋:「まー、相手によりますね、あいつがどうかは分かりませんけど

   とりあえず試してみますよ」


監督:「そうか、宜しく頼む」


古橋は幽霊を刺激しないようにゆっくりと近付いていく。

そして敵意を感じさせないよう、穏やかに幽霊に話しかけた。


古橋:「どーもこんにちは、あのー、ここで何をなさっているんです?」


幽霊は古橋を睨みつけると不機嫌そうに答えた。


幽霊:「何だお前は、生きた人間が俺に何の用だ、目障りだから向こうへ行け」


雰囲気からして会話は無理かと予想していたが、意外にもこちらの問いかけに

応えてくれた。


古橋:「失礼しました、私は霊媒師の古橋と申します

   実は、貴方がここにおられると、お仕事が出来ない方達がいらっしゃい

   まして、できれば他の場所へ移って頂きたいんですが」


古橋の言葉を聞いた幽霊は不機嫌そうな表情から怒りの表情に変わった。


幽霊:「何だと! 後からやってきた分際で、この俺にどけと言うのか

   失礼な奴、舐めているんだったら呪い殺してやるぞ!」


古橋:「いや、舐めているなんてとんでもない、ですがここにずっとおられる

   のには何か理由がおありなのでは?

   もしかしたら私がお力になれるかもしれません、よろしければ、お話だ

   けでも聞かせてもらえませんか?」


幽霊:「フンッ、お前なんかにどうにか出来るとも思えないがな

   しかし、一人で待っているのも退屈だ

   いいだろう、暇つぶしに教えてやる

   俺はここで500年前に家族を殺した仇を待っているんだ

   生前やつに仇討ちを試みたが策にはまって、返り討ちにあい

   命を落としてしまった、それ以来この土地に縛られ自由に動けないのだ」


古橋:「え、500年も経っていたら、相手の方も、もう亡くなられている

   でしょう?」


幽霊:「ああ、その通りだ、その後も奴は散々悪事を働き続けていたが、噂では

   泥酔して転んだ拍子に頭を打ち、あっさり死んだという話だ」


古橋:「だったら、もう仇討ちの必要はないでしょう? あなたも成仏されては

   どうですか」


幽霊:「いや、奴は成仏していない

   死んでも他人に憑依し悪事をはたらき続けている

   いつまでも奴に好き勝手させておくわけにはいかん

   それにやはりこの手で引導を渡さなくては俺の気持ちも収まらん

   それで、奴が俺の行動範囲に現れるのを待っていたというわけだ」


古橋:「なるほどー、ではその仇を討てれば、あなたも成仏して頂けると

   いうことですね」


幽霊:「そういうことだ、しかし奴は俺に気付いていて、なかなかここへは

   近付かん、最後に奴の姿を見たのは150年くらい前だ」


古橋:「150年・・・じゃあ、さすがに相手の方も成仏されてるのではない

   ですか?」


幽霊:「いや、それはあり得ない

   姿は見えないが、たまに奴の霊気を感じるからな」


古橋:「しかし、恐らくその方も警戒して、もうここへはやって来ないの

   では?」


幽霊:「まぁ・・・確かにそうかもしれないな」


古橋:「要するに地縛を解いてここから自由に動けるようになれば

   こちらからお相手の方を探しに行けるということですよね?」


幽霊:「それはそうだが、そんなことができるのか?」


古橋:「恐らく大丈夫だと思います

   私には無理ですが可能に出来る方をご紹介いたします

   明日こちらへ伺うように手配しておきますよ」


幽霊:「本当か? にわかには信じられんが・・・まぁ、あまり期待せずに

   待たせてもらおう」


古橋:「では失礼いたします」


少し離れた位置から心配そうに眺めていた現場監督の元に古橋が

ゆっくりと戻ってきた。


監督:「どうだった?出て行ってくれそうか?」


古橋:「はい、多分何とかなると思います

   どうやら500年位前のお侍さんのようでして、目的が達成されれば

   恐らく成仏してくれるでしょう」


監督:「何だその目的ってのは?」


古橋:「仇討ちですー」


監督:「仇討ち? なにやら物騒な話だな、ホントに大丈夫なのか?」


古橋:「もちろん、何も心配はいりません

   明日私の知り合いが参りますので、彼女にお任せすれば万事

   解決ですー」


監督:「知り合いというのは?」


古橋:「こういったオカルトと科学の融合を目的とした組織の研究者でして

   非常に優秀な方なんですよ」


監督:「そ、そうなのか、オカルトと科学の融合ね

   そこはかとなく不安を感じるんだが、他に頼れる人間はいないし

   とにかく宜しく頼む」


そして翌日


研究者:「すみません、今日こちらへお伺いする約束をしていた者ですが」


黒いスーツを着て黒ぶちの眼鏡をかけた若い女性が訪ねてきた。


 監督:「おぉ、昨日の霊媒師が言ってた人だな 宜しく頼むよ」


研究者:「昨日お聞きした話では、地縛霊にお悩みのこととか?」


 監督:「そうなんだよ、もう工事の期限が迫っているのに、みんな

    気味悪がって作業が進まなくて困ってるんだ」


研究者:「なるほど、それでその幽霊はどこに?」


 監督:「いま案内するから、付いてきてくれ」


昨日の古橋と同じように現場監督が研究者を幽霊の元へと案内する。


監督:「ほら、あいつだよ」


現場監督が指さすと幽霊が恨めしそうにこちらを睨んでいる。


研究者:「なるほど、解りました あとは任せて下さい」


 監督:「おぉ、頼もしいな、期待してるんで宜しく頼むよ」


研究者は全く臆する様子もなく、早足でまっすぐ幽霊に向かって歩いていく。

そして威圧感すら感じさせる堂々とした態度で幽霊に話しかける。


研究者:「お前がここに縛り付けられているという幽霊だな」


幽霊は下から見上げるように研究者の方へ視線を向けた。


幽霊:「そういうお前は、昨日霊媒師が言っていた者か」


研究者:「そうだ、私はオカルト科学研究者の柳田だ」


幽霊:「俺は元人間で武士の勘兵衛だ

   それで、どうやって俺の地縛を解くつもりだ?」


柳田:「簡単なことだ、お前を私の開発した装置に取り込んで生きた人間と

   同じように自由に動けるようにするのだ」


勘兵衛の顔がやや困惑したような表情に変わった。


勘兵衛:「何を言っているのか良く判らんが、俺を何かに憑依させるという

    ことか? それなら前に何度か試したが行動範囲を超えると憑依が

    解けてしまい上手く行かなかったぞ」


 柳田:「憑依ではない、天才であるこの私が開発した

    "タマシーキャッチャー"という装置を使うのだ、地縛の力よりも強く

    霊体を定着させることにより自由な移動が可能となるわけだ」


勘兵衛:「何を言っているのかさっぱり判らんが実際どのようにそれを行なう

    のだ?」


柳田はゆっくりと自分のカバンを開けると、中から奇妙な機械を取り出した。


 柳田:「今日、実際ここにタマシーキャッチャーを持ってきている

    これがそうだ、この中にお前の霊体を定着させて私の研究室に用意

    しているロボットに取付ければ、生きた人間のように動けるという

    わけだ」


勘兵衛:「もはや全く話に付いて行けないんだが

    まぁ、ここでただ待っていても状況は変わりそうにないしな、少しでも

    変化の兆しがあるなら、それに賭けてみるのもいいかもな」


 柳田:「では、タマシーキャッチャーの電源を入れるぞ

    (ポチッ、ウィーン)

    まずは、サーチモードで一番近くの霊体を探す

    (ミーッケタッ)

    この音がすると霊体を見つけロックした状態となる、すると


    [1.キャッチしちゃう 2.他のヤツを探す 3.今回はやめとく]


   の、3つの選択肢がでるので今回は1を選択する」

    (バシューッ)


柳田が選択ボタンを押した瞬間、タマシーキャッチャーの稼働ランプが赤く

点滅を始め、周囲の空気を吸い込むかのような挙動を見せた。

すると勘兵衛の体も吸い寄せられていく。


勘兵衛:「うぁ、す、吸いこまれる、に、逃げられん!

     おいっ! どうなってる、ホントに大丈夫なのか?!」


 柳田:「問題ない、その中にお前の体を収納してシステムに定着

    させるのだ」


勘兵衛:「う、うわぁー」

    (ボンッ)


強力な力で勘兵衛の体はタマシーキャッチャーの中に吸い込まれていった。


キュイーン

稼働ランプが赤の点滅から緑の点灯に変わった。

どうやら勘兵衛の取り込みが完了したようだ。


 柳田:「これでお前の体はシステムに定着した」


勘兵衛:「ほう、中は思ったより快適だな

     ゆったりくつろげるし、なんだか眠くなってきたぞ」

 

 柳田:「このまま私の研究室まで移動してお前を新たな体に取付けるぞ」


勘兵衛:「そうか、じゃあ俺はひと眠りさせてもらうとするか

     あとはよろしく頼む」


一連の作業を終えると柳田は現場監督のところまで戻ってきた。


監督:「どうだった、上手く行ったか?」


柳田:「ええ、彼の魂はこの装置に定着させました

   私はこれを研究室に持って行きますので、あなた方はもう

   お仕事を再開されて構いませんよ」


監督:「ホントか、いやぁ助かったよ、これで何とか期日に

   間に合いそうだ」


柳田:「では私はこれで」


回収した勘兵衛と共に、柳田は工事現場を後にした。

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