この街には人殺しが住んでいる
葵依幸
プロローグ
0 殺人鬼との出会い
物事を説明するは色んな順序を追って行くべきだと僕は思う。
唐突に結論を突き付けられる事は親切かもしれないけれど、過程が省かれてしまっては納得はできない。
例えばほら、「貴方を殺します」といわれれば「やばい!」ってすぐ分かるけど同時に沸き上がって来る「どうして」に答えられずに殺されたとしたら納得ができない。逃げ延びれば考える余裕ぐらいは生まれるけれど出来れば「どうして貴方を殺すことになったのか」を先に説明して頂けるととても助かる。
物事を想像し、想定して結論を導きだすと言う作業は途方もなく寄り道の多い大変な作業だからだ。だからこそ僕もなるべく分かりやすく説明するべきだと思うし、結論を言ってしまうだけでは納得してもらえない事は至極承知の上だ。
以前、彼女を付け回して「何が言いたい」と怒られてしまったこともあるけれどあの場合ぼく自身何が気になっているのか把握できていなかったのだから許してもらいたい。結論から話すにしてもその結論が迷子だったら仕方ないだろう?
――さて、話題を戻そう。目の前の現実に。
まず目下の問題として目の前で起きている事に対処し、解決する必要がある。
何をするにしても生き延びる事。
これから貴方を殺しますと宣言されて、何故の理由探しよりも先にその場から抜け出す事が第一だ。危機的状況は刻一刻と変化し、首を締め付けてきている。
「……でもまぁ、どうしてこうなったのかは把握しておきたいかなぁ……」
「うっさい。自業自得ですよ、アンタの場合」
敬語とタメ語の混じり合う微妙な距離感を突き付けて来る篠乃枝さん。しかしその視線は僕ではなく目の前にいる「怪物」から外れはしなかった。
「出来れば――いいえ、出来なくても良いので余計な事はしないでくださいね」
「むむっ、何だかややこしい事をいうなぁ」
「ややこしくても良いのでじっとしていて下さい」
「はいはい」
といっても既にあの兄妹よろしく電柱の影に避難させていただてるんですけどね。
「話が通じるとは思ってはないけれど――、」
彼女は深く被った帽子を少しだけ持ち上げ、標識ぐらいの高さにあるエイリアンみたいな顔を見上げて呟く。
「もし私の言葉がわかるなら膝をつきなさい。そうして懺悔なさい、貴方が殺して来た人全てに」
彼女が、眼鏡を外した。
「――そうしたら、少しは楽に逝かせてあげるから」
その表情は嬉々としており、何処か安堵しているようにも見える。
そりゃまぁ……そうなるかなぁ……?
そして僕も、連日連夜の深夜パトロールを思い返してはそう思う。あてのないマラソンほど精神的にくるものはなく、それが終わった今となっては懐かしい思い出と変わりつつある。
詳しいことを何も僕に教えずに散々連れ回した結果がこれ。
多分恐らく彼女はコイツを探し求めていたんだろう。
そして目の前を埋め尽くす赤黒鮮血。
ふと、彼女と出会った日のことが駆け抜けた。
多分、走馬灯なんだろうとぼんやり僕は思う。
これはこの町に住んでいるヒトゴロシの物語だ。
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