第29話:リリィの奮闘とSランク冒険者の制圧失敗
光三郎がドラゴンダンジョンに挨拶に行っている間も伯爵ガストンの策略が進んでいた。
「飯ダンジョンは私のものになるべきだ。核を奪い、完全に制圧しろ!」
伯爵ガストンは、自らの支配下に飯ダンジョンを置くため、金に糸目をつけずSランク冒険者の女性4人組を雇った。剣士、魔法使い、弓使い、シーフ――このチームは過去に数々のダンジョンを制圧してきた実績を持つ。
しかし、冒険者たちはその依頼を快く思っていなかった。
「……核を持ち帰ればいいんでしょ?伯爵の命令は聞いてやるけど、あの男の目つきが本当に不快だわ」
リーダーの剣士は、伯爵の下心丸出しの視線に嫌悪感を抱きながら、内心で舌打ちしていた。
飯ダンジョンに侵入した冒険者たちは、その快適な内装に驚きを隠せなかった。
「……これがダンジョン?まるで高級な宿泊施設みたいじゃない」
魔法使いが呟くと、シーフがくすくす笑った。
「だから制圧しろって命令が出たのよ。伯爵の目にはただの金のなる木に見えるんでしょうね」
彼女たちが奥に進むと、リリィが操作するゴーレムが道を塞ぐように立ちはだかった。
「これ以上進ませません!」
ゴーレムは岩を投げ、拳を繰り出し、冒険者たちに迫る。リリィは端末に座りながら、必死にゴーレムの動きを操作していた。
「どうにかここで止めないと……ご主人様が帰ってくるまで守り切らないと!」
しかし、冒険者たちの力は圧倒的だった。弓使いはゴーレムの関節を正確に射抜き、魔法使いは火球を放って複数のゴーレムを吹き飛ばす。暗殺者はゴーレムの背後に回り込んで要所を攻撃し、動きを封じる。
リリィは焦りながら別のコントローラーで追加のゴーレムを呼び出すが、彼女たちは全てを次々に撃破していった。
「なんでこんなに強いの……!お願いだから誰か助けて!」
冒険者たちはダンジョンの最奥部にたどり着き、核の置かれた部屋に入った。リーダーの剣士が核を見つめながら呟く。
「これが核ね。これを奪えば、伯爵の指示は達成される」
剣士が核を奪おうと一歩踏み出したその時、リリィが慌てて飛び出してきた。
「待ってください!核を壊さないでください!」
剣士は立ち止まり、冷たい目でリリィを見つめた。
「命乞いをするつもり?無駄よ。私たちは依頼を受けて仕事をしているだけ」
リリィは震える手で抱えていたアフタヌーンティーセットを冒険者たちに差し出した。
「これを見てください!特別なティーセットです!紅茶もケーキも、全部最高級なんです!これ、あげるからお願いです!」
冒険者たちは一瞬驚き、顔を見合わせた。魔法使いが香りを嗅ぎながら興味を示す。
「……本当に高級な香りね。少しだけ試してもいい?」
リーダーが警戒しつつも頷き、彼女たちは紅茶を一口飲んだ。その瞬間、全員の表情が柔らかくなった。
「……これは……すごく美味しい!」
「ケーキも……絶妙な甘さだわ!」
リリィはさらに高品質のシャンプー、コンディショナー、化粧品を取り出した。
「これもあります!特別な商品なんです!お肌も髪もツヤツヤになります。試してみてください!」
シーフが化粧品を手に取り、香りを確かめた。
「……これ、すごい!こんなに良いものをどこで手に入れたの?」
剣士は核を見つめた後、剣を鞘に戻した。
「……制圧する必要はないわね。こんな良いものが手に入るなら、むしろここに居座ったほうが得だわ」
弓使いが楽しげに笑った。
「それに伯爵のために働くなんて馬鹿らしいしね。あいつの下心丸出しの視線が本当に嫌だったわ」
魔法使いが紅茶を飲みながら提案する。
「だったら、ここに住んじゃえばいいんじゃない?温泉もあるんでしょ?」
リーダーは溜息をつきながら、リリィに告げた。
「専用の家が必要よ。早く準備しなさい。それまで私たちはここで過ごすわ」
リリィは内心で光三郎の帰還を祈りつつ、笑顔で答えた。
「わかりました!ご主人様に伝えてすぐに準備します!」
その夜、冒険者たちは温泉宿に宿泊し、湯船でリラックスしていた。
「温泉も最高だし、食べ物も美味しいし……ここに制圧しに来たのが嘘みたい」
魔法使いが言うと、弓使いが微笑んで頷いた。
「本当にね。伯爵の仕事なんて忘れたほうがいいわ」
リーダーは湯気の中でリリィに視線を向けた。
「とにかく、早く家を建てなさい。私たちが快適に暮らせるようにね」
リリィは再び笑顔を作り、答えた。
「はい!ご主人様に頼んで、すぐに準備します!」
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