第14話:飯ダンジョン温泉(冒険者視点)
【調査依頼】
対象:謎の癒し系ダンジョン
場所:荒地北部
情報:挑戦者の間で「癒しの空間」として話題だが、未だ最深部には到達者なし
注意:内部構造は不明、撤退者に大きな負傷はなし
ギルド掲示板に掲載された情報をもとに、一つの冒険者パーティが荒地北部へと向かっていた。彼らは経験豊富な中堅冒険者たちで、それぞれの専門性を活かして多くの困難を乗り越えてきた実力派だ。目的地に到着した彼らの前に現れたのは、普通の洞窟に見えるが、どこか人工的な雰囲気を漂わせる不思議な入口だった。
「これが噂の癒し系ダンジョンか……見た目は普通だが、妙に整った感じがする。」
リーダーが剣を握りながら、入口をじっと見つめる。
「癒し系なんて話、信じていいのかしら。そう言って挑発して罠にかける手合いも少なくないし。」
魔法使いは眉をひそめながら、周囲の様子を注意深く観察している。
「慎重に行くべきだろうな。だが、危険が少ないって話が本当なら、少しばかり探索してみる価値はあるだろう。」
盾役は力強い口調で仲間たちを励ます。彼の朗らかな笑顔に、緊張がわずかに和らいだ。
一行は準備を整え、入口をくぐった。ダンジョン内は驚くほど整然としており、危険な罠やモンスターの気配がほとんど感じられない。
少し進んだ先で、一行は意外な光景に出くわした。そこには湯気が立ち上る広い温泉が広がっていた。
「温泉……?こんなところにこんなものがあるなんて……」
斥候が思わず声を上げる。冒険者にとって温泉は贅沢な癒しの場だが、それがダンジョン内に存在するのは明らかに異様だった。
「普通のダンジョンにこんな設備があるなんてあり得ないわ……一体どういう仕掛け?」
魔法使いは湯の成分を鑑定スキルで調べるが、毒性も罠も確認されなかった。
そこへ現れたのは小さな妖精だった。彼女は満面の笑顔で冒険者たちに話しかけてきた。
「皆さん、お疲れさまです!こちらの温泉でどうぞ体を癒してくださいね!」
妖精の言葉を聞いても、一行は警戒心を解こうとはしない。しかし、温泉を調べた結果、害がないと確認すると、徐々に警戒を解いて湯に浸かり始めた。
「うわ……これは本物だ。体が芯から温まる……」
盾役が驚きと感動の入り混じった声を上げる。
「確かに心地いいわね。でも、ただの癒しってわけではなさそう……この温泉、魔力が使われている気がする。」
魔法使いがそう呟くと、斥候も続けた。
「どちらにせよ、ここは安全なようだな。休息を取るには最適だ。」
一行は温泉でしばしの休息を楽しんだ。湯に浸かるたびに体の疲労が解けていく感覚は、この異様な空間の信憑性を確かなものとしていた。
温泉を後にした一行が次に到達したのは、「サウナ」と書かれた木製の扉のある部屋だった。
「サウナって……聞いたことがないな。中はどんな仕掛けになっているんだ?」
斥候が扉を開けると、中から高温の蒸気があふれ出た。
「ここでは温泉で温まった体をさらに温め、余分な疲れや毒素を汗で流せますよ!」
再び現れた妖精が楽しそうに説明する。
半信半疑のまま、一行はサウナ室に入った。室内は心地よい木の香りが漂い、高温だが不快感はない。
「暑いけど、嫌な感じじゃないな……むしろ汗が流れるのが気持ちいい。」
盾役が言葉を漏らすと、他のメンバーも次第にその効果を実感し始めた。
数分後、妖精の案内で冷却プールへと移動した。冷たい水に浸かると、体が驚くほど軽くなるのを感じた。
「すごい……温泉やサウナの後にこれがあるなんて、最高の癒しだ。」
リーダーが満足そうに呟く。
さらに進んだ先には、不思議な椅子が並ぶ部屋があった。椅子には「マッサージチェア」という名前が付けられていた。
「また椅子か……何か罠が仕掛けられているんじゃないのか?」
斥候が椅子に近づきつつ警戒を解かない。しかし、妖精が説明するには、この椅子は座るだけで全身を揉みほぐしてくれるものらしい。
「本当かどうか、試してみる価値はあるな。」
リーダーが先陣を切って椅子に座ると、ボタンが押され、椅子が動き出した。
「……なんだこれ……すごい……肩や腰がほぐされる感じだ……」
その表情から、完全に椅子の効果に感動しているのが伝わってくる。
他のメンバーも次々と試し始め、やがて全員がその心地よさに身を委ねていた。
「ここまで癒されるダンジョンなんて、聞いたことがないな……」
盾役が深く沈み込みながら呟いた。
冒険者たちはこの癒し系ダンジョンの効果を実感しつつも、同時に疑念を抱いていた。
「一体誰がこんな空間を作ったのかしら……何の目的で?」
魔法使いがそう呟く中、妖精は終始笑顔のままだった。
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