執事が大好き過ぎるので、婚約解消を目指します。超絶片思いですが(涙)
藤芽りあ
第1話 執事が大好きです!! 片思いですが……
「出来た!!」
私は刺繍糸を切ると思わず声を上げた。
完成まで一週間をかけた大作。
少し大きめのハンカチの布部分が見えないほど刺繍が施されている。
「わぁ~~お嬢様、さすがですね……とても繊細ですわ。色使いも本当に綺麗だわ。もう私の指導は必要ないと思いますわ」
刺繍を教えてくれていた侍女のアイリーンが嬉しそうに言った。
「ありがとう、アイリーン!! でも、そんなこと言わないでまた教えてね。じゃあ、私、これエイドに渡してくるわ!!」
「ふふふ。はい、いってらっしゃいませ」
私は、出来たばかりの刺繍入りのハンカチを持って部屋を駆け出した。
私の名前は、シャルロッテ・リンハール。リンハール子爵家の長女。
リンハール子爵家は領地は持たない。だが子爵家とはしてはかなり裕福で、王都の貴族街に大きな屋敷を構えている。
リンハール家は代々王都の守りの要である参謀を務めて来た。
その功績で子爵の位を授かり、現リンハーン子爵、私の父も参謀の地位についており、これで三代続けて参謀を輩出していた。
そんな屋敷内を迷いなく進んで私は目的の部屋に到着した。
「エイド!! これ、受け取って下さい!!」
応接室の掃除を終えて、休憩に入ろうとしていたリンハール子爵家の有能な執事エイドに、私は今、完成したばかりの刺繍入りのハンカチを手渡した。
執事のエイドは私を見下ろすと、表情を変えずに言い放った。
「いえ、結構です。ですが……よく俺の居場所がわかりましたね」
「うん。昨日お父様がお客様がいらっしゃると言っていたでしょう? この時期にお父様に個別に訪ねて来る方は、今度の公爵閣下の視察の責任者である騎士団幹部可能性が高いわ。それならば、午前中の訓練の時間に打合せをして午後に騎士団での会議に結果をかける。そしてお客様は稽古の終わる時間には帰るはず……そして……そんなお客様の対応をするなら……エイドしかいないもの」
私が得意気に言うと、エイドが呆れように言った。
「お嬢。洞察力の無駄遣いです。それでは……」
そして歩きだそうとした、エイドに慌てて声を上げた。
「待って!! エイド、お願い。見るだけでもいいから!! 凄くよくできたの!! 自信作なの!!」
一週間もひたすらエイドのことだけを思って縫い上げた渾身の作をぜひ見てもらいたかった。
私の必死なお願いにエイドは、大きな溜息を付くと、ようやく受け取ってくれたた。そして渋々ハンカチを広げて絶句した。
「どう? 気に入った? 率直な感想を聞かせて!!」
エイドはハンカチを広げたまま無表情で言った。
「率直な感想……では……才能の無駄遣い……布の無駄。刺繍糸の無駄。時間の無駄です」
ハンカチには大きく『愛するエイド』と書かれており、紅や桃色の美しい刺繍糸でハートが乱舞するように刺繍した。
「え? 気に入らない? 凄く上手にできたのに……」
私の言葉にエイドは頭を押さえながら言った。
「むしろこれを俺が気に入ると思うお嬢の感性が意味不明です。はぁ、せめて俺の名前が入ってなければ、教会のバザーで売れるのに……」
そんなエイドに向かって私はニヤリと笑った。
「ふふふ、もちろん絶対にエイドに使ってほしくて、売られないように対策したの!! さらに一針一針にエイドへの想いを込めたのよ」
「いや、それそんなふんぞり返って言うセリフじゃありませんから、普通に重いです。はぁ~~~お嬢の刺繍ハンカチ、バザーで高く売れるんですから、こんな無駄なものを作ってないで商品を作って下さい」
エイドに気に入ってもらえずに肩を落とした。
「……もちろん、商品も作るわ……でも、まずはエイドへのプレゼントを作ってから作りたかったの……仕事中、邪魔してごめんね」
私が手を伸ばしてハンカチを受け取ろうとすると、エイドがハンカチを畳むとポケットに入れた。
「エイド!? 貰ってくれるの??」
エイドは表情を変えないまま言った。
「まぁ、俺の名前がこんなに大きく入っていたら、売り物にもなりませんし……丁度ハンカチを買おうと思っていたので……ですが、受け取るのはこれが最後です!! もう受け取りませんから!!」
私は笑顔で言った。
「受け取ってくれてありがとう!!」
「はいはい、ではお嬢。商品作りに取り掛かってください」
エイドが面倒くさいというように言った。だが、私は笑顔で言った。
「うん!! すぐに取り掛かる!! エイド大好き!!」
「……聞き飽きました」
「ふふふ」
私はエイドが受け取ってくれたことが嬉しくて踊りそうになりながら部屋に戻ったのだった。
執事が大好き過ぎるので、婚約解消を目指します。超絶片思いですが(涙) 藤芽りあ @happa25mai
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